「ふあ、やっと終わった…。」
目の前のパソコンを奥に押しのけて空いたスペースに思いっきり突っ伏した。
明日提出しないといけないレポートの存在に気がついたのは晩ごはんを食べてのんびりしていた時のことで。
そこから慌ててパソコンと教科書を開き、キーボードを叩くこと数時間。
やっとのことで課題を終わらせた現在の時刻は夜の十一時を過ぎたところ。
「よし、印刷…っと。あと一応データ移して…ん?」
ベッドの上に放置していた携帯がちかちかと点滅、メールの受信を報せている。
先にお風呂入りたいし…返信はあとでいいか。
とりあえず見るだけ見ておこうと思い、受信ボックスを開くと。
「わ!?マ、マルコさんからだ!!」
受信時刻は夜の八時でちょうどパソコンを開き始めた頃だ。
そうなると…三時間も放置してしまったことになる。
よ、予定変更で大至急返信しないと!
「ええと、遅くなってすいません…」
実はマルコさんとはまだメールをさせてもらっていて、知り合ってからだともう二ヶ月くらいになる。
メールの内容は面白かったことやその日の出来事、少し聞いてほしいことなど…本当に些細なことばっかりだ。
私なんかがマルコさんみたいな素敵な人とメールさせてもらってていいのかなと何度思ったことか…!
迷いに迷ったあげく、前にそのことについてきいてみたんだけど…
「おれがしてえと思うからするんだよい。」
私はメールできいたのに、マルコさんはわざわざ電話でそう返事をしてきて。
その時はもう動揺しすぎて間違えて通話を切ってしまったくらいだ。
そのあと慌ててかけ直してひたすら謝ったんだけど…あれはマルコさんが悪い、100%悪い。
それからというもの、もうこの事については(やっぱり気になるけど)気にしないようにしている。
「…よし、送信!」
最重要事項も終わり、ベッドにもたれかかって伸びをひとつ。
すでに印刷が終わったレポートをまとめてファイルに入れる。
これで明日の準備は完璧だ!
さて、お風呂に入ってゆっくり…
「…うあ!?で、電話!?」
しかも相手はマルコさん。
電話するほどの急ぎの用件なのかな。
またベッドに放置しかけた携帯を慌てて手に取り、深呼吸してから操作する。
「は、はい、フィルです。」
…あーもう!
深呼吸までしたのに結局かんじゃう私って一体…。
「おれだよい。夜遅くに悪いな、今大丈夫か?」
「はい。…どうかしたんですか?」
「いや、大したことじゃねえんだが…フィル、今度おれの家に来ねえか?」
…え?
い、家?マルコさんの?
いやいや、大したことあります結構重大だと思います。
突然のお誘いに固まる私は返事をすることを忘れていて。
「…フィル?」
「!!ご、ごめんなさい!聞いてます、ちゃんと聞いてますから!」
携帯越しにくつくつ笑うマルコさんの声が聞こえてきた。
押し殺しているんだろうけど…しっかり聞こえちゃってますよ。
「…何もしねえよい、心配すんな。」
「え!?いや、ちが!」
「くくっ。…前にサッチと話したとき、話の中でエースってやつが出てこなかったか?」
急にマルコさんが真面目な声になったので顔が熱くなっていた私は何とか冷静さを取り戻す。
えーす、さん。
サッチさんがあの(恐ろしい)マフィンを食べさせようとした人…だよね?
「エースもあの件は知ってるからねい。フィルと三人で会ったときのことを教えてやったらおれも会いたいって言ってきてな。」
「…それで、ですか。」
やっと納得。
今回のお誘いの目的はエースさんに私を会わせるためらしい。
…どんな人なのかな、エースさんって。
「ああ。おれとサッチと、そのエースってやつと。どうする?無理にとは言わねえが。」
「…迷惑じゃないですか?」
「こっちが誘ってんだよい。…それともおれの家ってのが嫌なのかい?」
「!い、嫌じゃないです!行きます、行かせていただきます!!」
慌てて言えば、押し殺しもせずに笑うマルコさんの声。
…もう好きなだけ笑ってください。
「…、あ。」
「ん?」
「そういえば…どうして電話だったんですか?」
メールでもいいのに。
少しだけ気になったので思い出したついでに聞いてみることに。
「…いや、」
「?」
「メールだと…長文を打つのが面倒なんだよい。」
そうだった。
マルコさん…携帯の操作とかは苦手だったんだ。
何だか理由がかわいくてついくすりと笑ってしまう。
…でも、それがいけなかったみたい。
「…フィル。」
「、はい。」
「おれが行こうと思ってたが…その日はサッチを迎えに行かせることにしたよい。」
「…はい!?」
さ、さささサッチさん!?
前に会ったきりでそれから話したこと一回もないんですよ!?
一応あの時に誤解とかはなくなりましたけど…でも、それでもマルコさんよりは気まずいと言うか変に緊張するというか何と言うか…。
と、とりあえず私サッチさんとふたりにされるのはまだ困ります…!
「…マ、マルコさ」
「笑った罰だ。十分楽しめよい。」
き、切られた…!
むなしく機械音が鳴る携帯を片手に、私は自分のとってしまった行動をひたすら後悔した。