(帰ったらさっそく読もうっと!)

今日の講義は昼までで終わり。
天気もいいしちょっとお出掛けだ。
新しい雑誌も買ったしあとは…

「…あれ?」

ふと気がつく。
あの携帯ショップにいる人…マルコさん?
店員さんと一緒にいるその人は金髪のちょっと特徴的な髪型で、スーツ姿で…うん、やっぱりマルコさんだ。
ディスプレイされた携帯を目の前に何やら考え込んでいるみたい。
普段に会うなんてすごい偶然だなあなんて思っていたら、ちょうどマルコさんもこっちを向いて。

(!…こ、こんにちは。)

慌てて頭を軽く下げると、マルコさんは挨拶をする代わりに手でこっちへ来いと合図をしてきた。
急なことで戸惑ってしまった私に焦れたのか、マルコさんがつかつかと歩いて近寄ってくる。
ちょ、ちょっと!店員さん困ってますけど!

「…お、お久しぶりです。」

何だか疲れたような顔をして。
気まずそうに視線をそらしたあと再度私を見て、一言。

「助けてくれ。」

ーー


「ありがとうございましたー。」

店員さんに一礼してお店を出る。
マルコさんの手には紙袋と、新しい携帯がひとつ。

「すまねえ、助かったよい。」
「いえ。私は別に…」

突然携帯が壊れたらしくて、電源をさわっても全く反応がなかったみたい。
もう長く使ってたから寿命だな、なんてマルコさんは言ってた。
それでショップに行って買い換えの流れになったのはいいんだけど…種類が多すぎてどれを選んだらいいかわからない上に店員さんの説明も知らない単語が続くから余計に困っていたところに私が通りかかって…って具合だったみたい。
知らない人にあれこれ説明されるよりも知っている人から教えてもらった方がわかりやすいし気楽でいいからって。

「おれはメールと電話が出来りゃあそれで十分だっつってんのに…わけわからねえ機能つけられても使わねえだけなんだよい。」
「そ、そうですか…。」

それは店員さんも困っちゃいますよ…。
しかも結局マルコさんが選んだ携帯は最新モデルのもので、スペックだって相当なものだ。
何が決め手だったのかと訊くと、色とデザインがよかったからと言われてしまった。
も、もうちょっと機能も見てあげてください…。

「フィルは今日休みなのかよい。」
「いえ、大学は昼までだったんです。それで帰りにちょっと寄り道してました。マルコさんは?」
「夜から仕事だよい。まあ壊れたのが仕事中じゃなくてよかったんだろうが…。」

夜から仕事なんだ。
サッチさんもたまに夜中に仕事があるみたいだし…夜にする仕事って何だろう?
夜勤とはまた違うらしいし…うーん、何でも屋って本当に謎だなあ。

「このあと空いてるかい?」
「え?」
「助けてくれた礼だ、何か茶でも奢ってやるよい。」

突然のお誘い。
それ自体はすごく嬉しいけど…でも私はマルコさんの質問に答えてただけだから奢ってもらうほどのことはしていない。

「い、いえ!そんなのいいですよ、私たいしたことしてないですし。」
「おれが困るんだよい。したいのは礼だけじゃねえしな。」

え?
じゃあ何をという疑問が顔に出ていたのか、マルコさんはわかっているとばかりに続ける。

「口止め料込みだよい。」
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