「さーてお前ら…おれに何か言うことあるよなあ?」

おれは今機嫌が悪い。
そんなおれの目の前には悪ガキふたりが正座していて、そのそばにはそいつらの保護者ふたりが立っている。

「サ、サッチ、顔が怖いよ?いつもみたいににこにこしてなきゃ。ほら。」

もう一度言う、おれは今最高に機嫌が悪い。
にもかかわらず悪ガキのひとりがびくびくとしながらね?と笑顔になれと言ってくる。
そりゃあどう考えても無理だろう?

「顔が怖い?そりゃそうだ、怒ってんだからなあ。」
「!サッチ違うぞ!偶然!偶然だ!ちょっと遊びに出たら偶然お前らがいたから見てただけだ!」

片割れが慌てた様子で何か言い訳のようなものを言ってきた。
ぎろりと睨み付けてやると小さく悲鳴のようなものをあげて肩を強ばらせる。

「偶然…ねえ?けどなエース、おれは駐車場に車停めたときからなーんか視線感じてたんだよなあ?それも野郎四人分の。それからずっと、あのゲーセン出て信号渡るまでずーっと続いてたんだ。おかしいと思わねえか?」

おれからの圧力に耐えきれなくなったようで、悪ガキふたりが互いの身を寄せあって恐怖しながらおれを見上げてきた。
そこに助け船を出したのは背が低い悪ガキの保護者。

「サッチ、悪かったな。でも邪魔はしなかったろ?」

やれやれとでも言いたげな態度だ。
特に悪びれている様子もないが、こいつは普段からそういうやつなので素直に謝罪してきただけまだましというものだろう。

「はあ!?あれだけ騒いで邪魔してねえなんてよく言えるな!?そこのふたりが騒ぐからおれがフィルちゃんの気そらさなきゃならなかっただろうが!それにお前ら無駄に目立つんだよ!」

こいつらふたりの悪い癖。
気分が上がってくるとすぐ声がでかくなるし、熱中しすぎて周りが見えなくなる。
そうでなくてもこの四人はそこにいるだけで周りの目を引くってのに…騒がれたりなんかしたら余計にだ。
おれがフィルちゃんと手繋げなかったのはこいつらのせいだ!絶対そうだ!

「それはおれらのせいじゃねえだろい。」
「うるせえ!それより謝罪だ謝罪!心の底から反省しろ!特にお前らふたりは」
「グラララ。サッチ、そのへんにしといてやったらどうだ。」

豪快に笑いながら入ってきたのはこの会社の社長、エドワード=ニューゲート。
けどおれも含め、会社のやつらはみんなオヤジって呼んでる。
世界中にいる知り合い兼依頼主に会うためにずっと飛び回っているから、オヤジがこうやって会社に顔を出すのは珍しいんだ。

「オヤジ助けて!もう反省してるのにサッチがいじめるんだ!」
「た、助けてくれよ!このままだと飯抜きにされちまう!」

救世主だとばかりにオヤジの背へ逃げ隠れるふたり。
くそ、あいつらめ…オヤジを盾にするなんて卑怯だろ。

「サッチ、そろそろ許してやれ。お前だってもうたいして怒ってねえんだろう?」

…はあ、オヤジにこう言われちゃどうしようもねえ。
そりゃオヤジの言ったことは当たってっけどさ…一回ガツンと言っとかねえとこいつらには堪えねえんだぜ?

「…オヤジは若いやつらに甘すぎんだよ。」
「バカな息子がかわいいんだ。もちろんお前もな。」

あー…だめだ、今のはずりい。
いい歳してオヤジの言葉には弱いんだ。
はあ、と深くため息をついたところでおれがこれ以上追い詰める気がないとわかったのか、オヤジの後ろに隠れていたふたりが安心したように表情を緩めた。

「オヤジありがとう!」
「ありがとなオヤジ!助かった!」
「おれよりもだ、先にやることがあるんじゃねえのか?」

オヤジの一言にふたりが顔を見合わせる。
そのあと、ゆっくりとおれの方に近づいてきて。

「…ごめんサッチ。でもちゃんと見るだけにしたよ?そこはわかって?」
「悪かった。邪魔しねえように気を付けてたんだけど…でも、ごめん。」

普段のふたりからすれば驚くくらいおとなしい。
反省しろとは言ったが…いざこういう態度をとられると正直調子が狂う。
…まあ、直接介入してこなかったのは事実だしな。

「…また同じことすんじゃねえぞ。いいな?」

あーあ、おれも大概こいつらに甘いよなあ。
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