「あー!」

慣れない新しい携帯を操作していると、後ろから大きな声が聞こえてきた。

「マルコが携帯変えてる!」

声でわかってはいたが、振り向くと驚いた顔でおれを見ているハルタがいて。
低血圧で眠たい頭ながらに今日は何だか面倒くさそうな一日になりそうだなと思う。
ハルタが声をあげたせいで周りのやつらが見てきたので何でもないというように手を払い、ハルタに向き直った。

「…んな大声出すようなことでもねえだろうよい。」
「有りだよ!大有り!店員の人困らせてない?大丈夫?ちゃんと説明理解できた?」
「何でそうなるんだよい。」
「だってマルコだもん。」
「お、どうした?」

朝っぱらから失礼なやつだな。
そう思っているとエースがひょいと顔を出してきた。
さっきまで寝ていたと思うが、今の騒ぎで起きたんだろう。

「マルコが携帯変えたの、ほら。」
「本当だ!お、お前大丈夫だったか?逆ギレして店員殴ってねえだろうな。」
「おれはお前を殴りてえ。」

何で最初にいうことがそれなんだ。
拳に力を入れてみせると焦ったエースがハルタの後ろにさっと隠れる。
と同時に誰かが入ってきた音がして。
…ほらやっぱりだ、今一番面倒くさいやつが来た。

「おはよーさん。」
「あ、サッチおはよ。今日は店の日?」
「おう、昼からな。」
「サッチ聞けよ!マルコが携帯変えたんだぞ!」
「な…っ!?」

大きな衝撃を受けた、そんな反応。
全くどいつもこいつも…一体おれを何だと思ってるんだ。

「…だ、誰かと一緒に行ったんだよな?」
「…んなわけあるかよい。」

まあ嘘ではない。
実際に店にはおれひとりで行ったからな。
それにここでもうひとりの存在を明かしてしまうと本当に面倒なことになる気がする。
おれだけならまだいいが、何かの拍子で彼女に被害が及んでも困る。
こいつは独占欲が強いからな…。

「…マルコあのな、冗談は言ってもいいけど嘘はついちゃいけねえ。安心しろ、体裁なんて気にしなくても誰もお前のこと見限るなんてしねえかうぶっ!?」
「黙れよい。」

何だってこいつは人をいらつかせるのがこんなにも上手いんだ。
おれの気も知らないで述べる様に少々腹が立ったので思いきり足の甲を踏みつけてやると、サッチが悶絶しながらその場にうずくまった。

「お、おれが着いていかなかったらお前一日ショップに居続けてただろうが!」
「そりゃ過去の話だ。」
「わ、マルコそれもしかして最新のやつ?何でそれにしたの?」
「色とデザインがよかったからだよい。」
「お前らしいな…。」

ハルタとエースが見せてくれと言うのでそのまま渡してやれば、ふたりとも楽しそうにしながら操作をし始めた。
おれにはどうでもいいことだが…こいつらはまだ若いからな、それなりに興味もあるんだろう。

「あーびっくりした。今月…いや、今年で一番びっくりしたよ。」
「おれも。ひとりでとかまだ信じられねえ。絶対嘘だろ。」
「おれもー…あ、イゾウ!マルコが携帯変えたぞ!」

エースが今入ってきたばかりのイゾウに声をかけている。
もうこの際だからしばらくは付き合ってやるかと思いながらおれはため息をついた。
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