「おじゃましまーす。」

あの子を先に送ったあと、おれはマルコの家で飲むことになった。

「何かつくろうか?」
「ああ、頼むよい。」

台所に立って適当に物色。
こいつの家は結構来てるからどこに何があるかなんて把握済みだ。
マルコが飲む準備をやっている間におれがちゃっちゃと簡単なもんをつくるというのはもう当たり前と化している。

「あの子といつ知り合ったんだ?」
「一週間前。前、お前が言ってた店に行ったとき偶然隣の席になったんだよい。」
「ふーん。」

あの店、甘すぎなくてマルコが好きそうだなと思ったんだよ。
そういや店内でも食べられるとこだったな。

「まあ色々あって話してたら彼女がお前の話をしだしてな。お前に謝る機会をやったんだ、感謝くらいしてほしいねい。」
「あー、してる。すっげえしてる。」

この件に関しては本当に感謝してる。
渡し間違えたってわかった時にはそりゃあもうへこんだ。
偶然隣の席になった子だからもう出会わねえ確率の方が高いんだが、それでも一言くらいは謝りたくて。
あの子もすげえいい子でそんなに怒ってなさそうだったし何より安心してそうな顔してくれたから、今日あの子と話せて本当によかったと思う。

「…彼女、面白いだろ。」
「ん?まあ…何だよマルコ。お気に入りってわけ?」
「さあな。」

思い返してみれば…確かにマルコはあの子のことを気に入ってる気がする。
あいつよく笑ってたし、名前結構呼んでたし。
あと…雰囲気?何か普段と若干違うっつーか。
そういやあの子もマルコと話してるときは何か楽しそうだったな。
一度あいつと話してる分、いろんな顔見せてた気がする。
おれとはまあ初対面があんなんだったっていうのもあるんだろうけど…ちょっとぎこちないというか、よそよそしいというか…

「サッチ、気になるかい?」

一瞬どきりとしたのは気のせいだろう。

「…まさか。お前の取る気なんてねえよ。それにあの子、おれの好みじゃねーし。」

そう、おれの好みはああいう子どもっぽい感じではない。
もっと大人っぽくてスタイルがよくて…少なくとも「女の子」じゃなくて「女性」。
あの子が決してかわいくないというわけじゃないが、おれの興味を引くほどじゃありませんってわけ。

「…そうかい。けど、見てたじゃねえか。」

ぱっとマルコを見ると、薄く笑っているそいつは見透かしたような目をしてやがった。
何をかはわからねえが、これ以上目を合わせていたくなくてごまかすように酒を手に取る。

「何を。」
「ケーキ目の前にしたとき。…お前、彼女の顔ずっと見てたよい。自分で気づかなかったか?」

そう、いえば。
あの時ケーキを目の前にしたあの子が目をきらきらさせて、すごく嬉しそうな顔したんだ。
ああ、こんな顔するんだなって思って少し驚いたのは覚えてる。
おれには驚いてるか怖がってるか、それか慌ててるか。
そんな顔しか見てねえから何かそれが引っ掛かって。

「あー…いや、あんな顔するんだな、と。」
「…お前は相当怖がられてたみたいだしねい。まあ普段なら逆だったんだろうが。」

それもそうだ。
普段なら近寄りがたいのはどっちかっていうとマルコの方で、このおれが怖がられるなんてことはまずない。
だからなのか、マルコに対してなつく一方でおれに対しては一歩引かれるなんていう最初の状況は珍しくて。

「くくっ。」
「…何だよ。」
「面白くなさそうだねい。」

んなわけあるかよ。
一歩遅れてそう言えば、こいつはまた笑ってきやがった。
別に珍しいとは思ったが…面白くなさそうだって?おれが?

「…マルコさあ、本気で気に入ってんの?」
「さっき答えたじゃねえか。」

答えたといってもはぐらかされただけだけどな。
けどマルコと言えば…女なんてめったにつくらねえやつだぞ?
仕事上の付き合いなんかはあるが、それもあっさりしたもんだ。
最初は近寄りがたいとこもあるけど、こいつは結構優しいし気もきくし容姿(あの頭は気に入らねえが)だって文句ねえ。
当然寄ってくる女もいるわけだが、こいつときたら「面倒くせえ」で一蹴しちまう。
そんなマルコがまんざらでもねえ様子を見せてるなんて。
…今すぐイゾウに言ってやりてえかも。

「珍しいこともあるもんだなー…。」
「おれを何だと思ってやがるんだよい。」
「…なあマルコ。」
「ん。」
「あの子っていくつ?」
「…確か十九歳だよい。」
「…マルコってちょっとロリコ」
「黙れクソリーゼントが。」

マルコがその気なら応援でもしてやろうかな。
この時のおれはそう他人事みたいに考えてた。
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