「ナマエちゃん…」

サッチさんは溶けるような声を出しながら私に覆い被さると、じっくりと味わうようにキスをし始めた。
舌を絡められてつい逃げてしまいそうになる私をサッチさんは強く抱きしめ、さらに深く口付けられて体がぴくぴくと反応してしまう。

「すげェかわいい…気持ちいいの?」

優しく微笑まれて顔をそらす私にサッチさんは小さく笑う。
サッチさんにそんなことを言われたのが恥ずかしくてぎゅっと目をつむれば、強引に正面を向かされ奪うようなキスをされた。
薄く開いたサッチさんの目は私だけを映していて、それにさえ体がぞくぞくする。
キスが続くなか私の頬からサッチさんの手が離れたかと思うと、その手は私の体の線をなぞるようにしながらだんだんと下に降りていって…

ーー


「…うわあああっ!?」

がばっ!と勢いよく飛び起きてここがどこだか確認をした。
テーブル、ソファー、隣にベポ…う、うん、私の部屋だ。

(わ、私ってば何て夢を…!!)

両手で頬を抑えるけど、目が覚めれば覚めるほどに顔が熱を持っていく。
大変な、とても大変な夢を見てしまった。
私が夢の中でサッチさんとしていたことは、キスだけじゃなくて口に出すことも躊躇ってしまうような恥ずかしいことで…ああもう!?私ったら何でこんな夢見たの!?
胸をぎゅっと押さえると心臓はうるさいくらいに鳴っている。
それにさっきの夢がやけにリアルだったせいで落ち着かなくて…何だか体の奥が熱を持ってしまったようにうずいてくる。
そんな朝を過ごしてしまったせいか、夜にかかってきたあの人からの電話を上手く取ることができなかったんだ。

「も、もしもし…」
「…ナマエちゃん?どしたの?何かあった?」
「え?」
「いや、何となーくそう思ったんだけど…大丈夫?」
「!だ、大丈夫です!サッチさんこそお疲れ様です!」
「うん?あ、ああ…ありがと。」

サッチさんはきょとんとしていそうな声だったけど、特に問題ないと判断したのかそれ以上は追求してこなかった。
そ、そうだよ、あれは夢の中の話なんだから。
落ち着け、落ち着けと必死に言い聞かせつつサッチさんの話をきくと、今週末の予定合わせのために電話を掛けてきてくれたようだった。

「土曜の迎え11時でいい?向こう着いてご飯食べてから映画…って感じで。」
「はい。ありがとうございます。」
「んじゃ決まりな。…ナマエちゃん、それでな、その…」

そのあとははっきりした言葉が聞こえてこなくて。
どうやら言いにくい用件のようで、その歯切れの悪さに私も少し不安になる。

「何ですか?」
「…次の日って予定ある?」
「日曜ですか?特にはないですけど…。」
「……おれん家泊まってかねえ?」

(泊まってく、って……っ!!!?)

もしかしたらサッチさんは純粋に、下心なんて全く無しに言ったのかもしれない。
でも私が考えてしまったのは何故かあの夢での出来事で。
途端に顔に熱が集まってしまい、頭がまともに回らなくなる。

「で、でもサッチさんしごとあるって」
「あったんだけど別の日になった。だからせっかく連休になったし、その……う、うん、まあそういうことでどうかなって、」

言葉を濁して曖昧なままにするサッチさんに私はやっぱり夢の中の出来事を追いかけてしまい、心臓はばくばくと音を立てる。
私の考えすぎだっていう可能性もある。
でも、サッチさんのどこか落ち着きのない声をきいていると私はどうしてもそういう意味を含んでいると考えてしまうのだ。

「…ご、ごめんな急に、嫌だったら」
「!あ、あの!」

サッチさんと関係を深めることについて今まで考えてこなかったわけじゃない。
その行為自体が嫌だとかそういうのじゃなくて…とにかくわからないことだらけなせいで不安が尽きないし、悪い方にばかり考えてしまうんだ。
でもその一方でサッチさんをもっと感じたいと思う気持ちが少しずつ強くなっているのも事実。
だからもしサッチさんが私との関係を望んでくれるのなら、私はその気持ちに精一杯応えたいと思うから。

「…いやじゃない、です…」

恥ずかしさのあまり、返事は消え入りそうな声になってしまった。
でもそのあとに携帯の向こうから安心したように「よかった」とこぼすサッチさんの声が聞こえてきて、私もつられてほっと息を吐いた。

「じゃあ、…11時迎え行くから。」
「は、はい…」
「…おやすみ。」
「おやすみ、なさい…」

ぷつりと通話が切れたのと同時に肩の力もすとんと抜ける。
でも私の心臓はうるさいままだった。
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