サッチさんは立ち尽くす私の手を取り部屋を出て車まで連れ込むと、そのまま昼間の海へと急いだ。
まだ明るいものの日は落ちきっていて、辺りを見渡してもここにいるのは私たちだけだった。
記憶を頼りに昼間シートを広げたであろう場所へ行き、その周辺を必死に探す。
手で砂を掻き、見当たらなければ一歩移動してまた砂の中を探して…それを少しずつ、何度も何度も繰り返していった。
移動の際にふと顔を上げるとこの砂浜が異様に広く思えて、途方もない作業に感じてしまう。
本当にこの場所で合っていただろうか。
こんなに広いところであんな小さなネックレスを見つけられるんだろうか。
だんだんと薄暗くなっていった空にはとうとう星が見え始め、そのことが精神的に私を追い詰める。

「ごめんなさい…」

探しても探しても指は砂をすくうばかり。
自分が情けなくて、サッチさんに申し訳なくて、謝っても謝りきれなくて、我慢していた涙もぼろぼろとこぼれ落ちていく。
決壊した感情が止むことはなく、とうとう探すことを止めてその場に座り込んでしまった私に、サッチさんは何も言わなかった。
けどその代わりに、突然立ち上がったかと思うとある方向へ走り出したのだ。

(あっちは確か…車を停めた場所…)

その場から動く気力もなくぼんやりとその方向を見ていると、5分と経たないうちに私の視界はサッチさんを映すことになった。
息を切らしながら戻ってきたサッチさんは私のすぐ傍らでしゃがみ、小さな箱のようなものを私に差し出した。

「代わりにはなんねえかもしれねえけど…これ、もらってくれる?」

そう言ってサッチさんが開けた箱には指輪が入っていて、急なことに私の涙も引っ込んでしまう。
わけがわからず不安そうにしていたのが伝わったのか、サッチさんは穏やかに笑って砂浜に腰を下ろした。

「ネックレスのことなら…もう謝らなくていい。大事にしてくれてたのわかったしさ、それだけで十分嬉しかった。」
「でも、…」

サッチさんはゆっくりと首を横に振り、私が否定するのを制止する。
そのままもう片方の手で私の手を包むと、穏やかな声でこう言った。

「これからもずっと一緒にいたい。…おれと結婚してください。」

まるで時間が止まったように感じる。
波の音は先程よりも遠くに聞こえるのに、手から伝わるぬくもりは一層強く感じられて。
そうして風が吹き抜けたあと、私の頭はようやくサッチさんの言葉を受け取り始めるのだった。

「……ぅ、っ、、」
「あー…せっかく泣き止んでたのになあ。」

サッチさんはそう言いながらも、私をあやすように抱き寄せてくれる。
大きな手が私の頭を優しく撫で、何度も何度もあたたかさをくれる。
せっかく落ち着いたのに、サッチさんのせいでまた涙があふれてくる。

「…こんなときに、どうして…」
「いや、おれだって本当は船の上で言うつもりだったんだけど…ナマエちゃんに元気出してほしかったし、何かこう…今言わねえとだめだって思って…。」
「ごめんなさい、計画台無しにして…」
「謝るより先にほら、もっと大事なことない?」

さっきまでの優しいものとは違いおどけるような声になったサッチさんは、箱の中身を取り出すと見せつけるように私の目前へと持ってきた。
無骨な二本の指で挟まれているのは小さなリング。

「こ れ。もらってくれるの?くれないの?」

答えなんて決まっている。
今の気持ちそのままにサッチさんへ抱き付くと、サッチさんは驚きながら少しよろけたものの、嬉しそうに笑い声をあげてくれた。

「はい、指輪。」
「あ、あの、」
「ん?」
「せっかくだからつけてほしいな…なんて…」
「喜んで。そんじゃ失礼して…うおっ!?」

指までもう少しというところで、指輪が砂浜に落ちてしまった。
さっきまでの甘い雰囲気は中断され、サッチさんも私も慌てながら下に目を向ける。

「ご、ごめん!ちょっと緊張して…」
「大丈夫です……あ!ここに…、」

指輪を探し当てた直後、それとはまた何か違うものが指を掠める。
衝動的にそれを砂の中から引き上げると、指輪と一緒に出てきたのは私たちがずっと探していたものだった。


◇リクエスト内容◇
現パロ隊長さんでプロポーズ大作戦なお話。
- ナノ -