(…お、ラッキー。)

この船じゃ珍しい、小さな背中を発見。
おれのお気に入りは何やら呟いている様子。
後ろからそっと近づいて、これまた小さい肩に手を置く。

「よう、フィル。」
「ひゃっ!?サ、サッチ隊長、お疲れさまです!」

このびっくりしてる顔も好きなんだよなあ。

「ひとりで何喋ってたんだよ。」
「えっ、…髪、切ろうかなって…。前髪、のびてきちゃったんです。」

前髪を摘まんで悩む仕草は、おれから見れば上目づかい。
ちょ、それ反則なんですけど。

「じゃあさ、切ってやろうか?」
「え!?そ、そんなの悪いですよ!」
「…自分で切って失敗して、家族全員に笑われてたのは誰だっけ?」
「うっ、……わ、私です…。」

失態を思い出して恥ずかしそうに手を挙げた。
こうなったらもう断れないよな。

「はい正解。じゃあ甲板出よっか。」

ーー


「ん、ここ座って?」

外は快晴、海は穏やかで気持ちがいい。
椅子に座る姿はちょっと緊張ぎみだ。

「お、お願いします。」
「任せとけってんだよ。」

あらら、タオルかけたぐらいで顔赤くしてちゃだめだって。

「今日はどうされますかー。」
「…前髪を軽くそろえてもらえますか?」
「はーい。…ついでだし、後ろもそろえとくな。」

くすくす笑うきみの肩は小さく揺れてる。
髪は思ってたよりやわらかくて、風が吹くと香るきみのにおいにくらっときたのは内緒。
少しして後ろからこっそり見ると、目を閉じて気持ち良さそうにしてる。
…幸せそうな顔してんなあ。

「隊長ー、そこ代わってくださいよお!」
「顔、ゆるみすぎなんじゃないですかあ?」
「サッチ隊長、おれも切ってほしいっす!」

周りから聞こえた声に指をひとつ立てると、「わかってますって」なんて返してきた。
こんなに気持ち良さそうなのに、起こしちゃ悪いだろ?
それに。

ーー


「…おーい。前切るから起きろー、危ねえぞ。」

本当はもう少しこのままでいたいけど、そこは我慢。

「……ん、…っ!ご、ごめんなさい!」

一瞬だけ見れる、ふにゃりと溶けたきみの顔。
多分恥ずかしいから見せたくないんだろうけど、今回くらいは許してな?

「気持ち良さそうなとこごめんな。じゃ、前切るぞ。」

前髪に触れると、きみの頬がわずかに染まる。
おれだってどきどきしてるけど、きっときみは気づかないだろう。
さっきから感じてた視線。
きみが、おれを見てる。
気づかないふりは、もういいかな。

「ん、どうした?」
「!な、何でもないです…。」
「そ。もう少しで終わるから待っててな。」

さっきより色づいた頬に嬉しくなる。
きみを揺さぶるのは、おれだけでいい。

「…はい、終了。お疲れさん。」
「あ、あの。サッチ隊長、ありがとうございました。」
「いいってんだよ。それにお礼言わなきゃいけねえの、おれの方だし。」

きょとんとするきみに、一言。

「おれのこと、よく見えるようにさせてもらったからな。」

くるりと背を向け船内へ。
次会ったときのきみの反応が楽しみだ。


(…いでっ!?マルコ、何すんだよ!)
(黙れ変態。)
(…フィル、顔真っ赤だよ。)
(!い、いや、その、)
(…とりあえず落ち着こうか。)

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