どこまでも続く黒い海。
目線を少し上に向ければ所々に小さな灯りが散りばめられている。
ふるりと感じた肌寒さに航海士の言葉を思い出した。

「…次は冬島だったか。」

白色を帯びた呟きが空に溶ける。
この場所はいい。
下では仲間が盛大に騒いでいるが、見張り台まで届く音といえばわずかなもの。
別に賑やかなのが嫌いというわけじゃない。
ただ、こうやって仲間が騒ぐ姿を遠目で眺めているとひどく安らぎを覚えるときがある。
それが今だという話だ。

「マルコ隊長、お疲れさまです!」

交代の時間。
軽い音をたてて見張り台に足を着けたのはフィルだった。

「…ああ、お疲れさん。」

ここ、気持ちいいですね。
彼女はそう笑みを溢しておれの隣に腰を下ろす。

「呑まされたのかい。」
「そうなんです。でも2杯で勘弁してもらいましたけどね。」
「…誰だ?」
「ふふっ、口止めされてるんで内緒です。」

彼女は全く呑めないというわけではないが、強くはない。
すぐ酔うので面白がって呑ませようとするやつらを止めるのはおれの仕事。
普段よりもゆるい頬の彼女を見るに、ここぞとばかりにきつめの酒でも注がれたんだろう。

「隊長、交代ですよ。少し気分がいいだけなんで安心してください!」

酒は強くないが、戦闘に関しては別。
それに見張りだとわかっていて酒に呑まれるといった真似をする性格でもないし、その辺は呑ませたやつも承知の上だったはず。
彼女の言葉通り、後を任せても問題はないだろう。

「そうかい。じゃあ、」
「っ!?」

彼女を無理矢理抱きかかえ自分の足の間に座らせる。
背後から被うと、彼女の少し高くなった体温が心地いい。

「たいちょう!し、下!、宴!」

動揺のせいで単語しか並べられない彼女に苦笑しつつ、その首筋に顔を埋める。
冷えた頬に伝わる熱は、きっと酒だけが理由じゃない。

「ふたりきりの時に隊長は止めろって言わなかったか?」

わざと低めに囁いてやれば、彼女はたちまち大人しくなって。

「…マルコ、さん。」
「くくっ、それでいい。」
「…み、みんな待ってますよ!行ってあげないと、」

前を向いて水平線を見渡す彼女は見張りをしているように見えるが、それは形だけ。
彼女の意識は全部おれに持っていかれているはずだから。

「下に行ってもお前はいねえだろ。」

けれど、それはおれも同じ。
どくりと脈打つ心音は彼女に筒抜けてしまっているだろう。

「…わ、私は普段マルコさんを独占しちゃってますし、宴の時くらい…」
「し足りねえよい。」

どんどん弱くなる言葉にくつりと笑って、おれは彼女に口づけた。

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