「へえ、旅行?」
「はい。マルコさんがどこでも連れてってやる、って。」

マルコさんと旅行なんて本当に久しぶり。
すごく嬉しくて誰かに聞いてもらいたかったんだ。

「わお、フィルちゃん愛されてる。」
「!いやっ、そんなこと、」
「…本当にそう思ってる?」

にやりとしながらサッチさんが訊いてきた。
本当はそんなことなくて、マルコさんは私のことをすごく大事にしてくれてると思うんだ。
今回の旅行だって、まとまった休みをとるために先の仕事を終わらせようとしてくれてる。
だけど…自惚れてるみたいで恥ずかしくて、反射的にそう答えてしまって。

「…ひひっ、フィルちゃんは嘘つけねえな。」

だんだんと顔が赤くなった私を見てからかうように笑うサッチさん。
や、やっぱりばれちゃうよね…。

「なあ、それでどこ行くの?」
「えっと…まだ決まってないんです。私の好きな所でいいからって言ってくれたんですけど…。」

行くならふたりとも楽しめるところがいいなあ。
でも…旅行先なんてたくさんあるから迷っちゃうんだよね。
そろそろ決めないといけないのに…。

「…なあフィルちゃん、おすすめしたいトコがいくつかあるんだけど?」
「えっ、本当ですか!」
「すげえ楽しいぜ。それに…絶対面白えから。」

楽しいならわかるけど…面白い?

ーー


「マルコさん、今日はありがとうございます。」
「気にすんじゃねえよい。せっかくならゆっくりしてえだろ?」
「はい!」

出発前。
疲れてる様子なんて少しも見せない。
それどころか嬉しそうに笑ってくれるマルコさんは本当に優しいなって思う。

(…わ、大きい…!)

空港に着くとまず飛行機の大きさに驚いた。
実は私、今回飛行機に乗るのは初めてなんだ。
子どもみたいだけど…わくわくしちゃうよね!

「私飛行機って初めてなんです!楽しみだなあ。」
「…そうかい。」

気持ちを抑えきれない私にマルコさんは苦笑い。
あはは…ちょっと呆れられちゃったかも。

「すご…こんな大きいのが飛ぶなんて不思議…、?」

いざ乗り込んで窓から外を見る。
あらためて飛行機の大きさを実感して驚きつつ隣のマルコさんを見たら、何だかいつもと様子が違って。
片手で額を押さえてるし…気分が悪くなったのかな。

「マルコさん…大丈夫ですか?」
「…問題ねえよい。」

顔を上げたマルコさんは少し疲れたような表情。
やっぱり我慢してたのかも…。

「私窓際ですし…変わりましょうか?」
「いや、このままでいい。心配要らねえよい。」

ぽすりと頭に乗った、あたたかい手。
ゆるゆると撫でるマルコさんはふっと笑ってくれている。
…本当、優しすぎるよ。

ーー


「…マルコさんもうすぐですよ!わ、滑走路すごく長…、!」

少しずつ機体が動き出して。
いよいよ、という時になったんだけど急にマルコさんが私の手を握ってきた。
…というより、つかんできた?

「マ、マルコさん?」
「……何だよい。」

マルコさんはこっちを見てはくれなくて。
しっかりと目をつむって、私の手をつかんでいる。
…それに何だか話し方に余裕がない。

「あの…」
「フィル、おれは寝るから着いたら起こしてくれよい。わかったな?」

…ね、寝るにしては私の手をつかむ力がやたらと強い気がするんですけど…。
体勢も前屈みだし…額に汗かいてますよ?

「もしかして…」
「フィル」

まさかと思って確かめようとしたら、言う前にストップをかけられて。
…ばれちゃうのが恥ずかしいんだな、きっと。

「あ、マルコさん。もうすぐ飛びますよ?」
「!!」

私は少し笑っちゃったんだけど、マルコさんは怒るどころかさっきよりも必死そうに手に力を込めたんだ。
何だか頼られてるみたいで…本当に嬉しかったなあ。

「…はい、わかりました。」


(面白い、ってそういうことだったんだ…。)
(…フィル、どういう意味だよい。)
(!あ、いや…)
(まあ、時間はたっぷりあるからねい。話したくなるようにしてやるよい。)
((サッチさん助けて…っ!))

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