「んー、フィルちゃーん、」

サッチさんは酔うととても甘えたになる。
普段なら私をたくさん、たくさん甘やかしてくれるサッチさんだけど、お酒に酔うとかまってほしいと言わんばかりに私にすり寄ってくるのだ。
大きな体で私をぎゅうと抱きしめる姿はまるでお母さんを独占したい子どものようだし、ふにゃふにゃにやわらかくなった顔で私の名前を何度も呼ぶ行為は、大好きな人に振り向いてもらうためのアピールに違いない。

「フィルちゃん、あのなあ、」
「は、はい、」
「おれきょうのしごとすげえがんばったの、ほめてほめて、」

いっぱい撫でて、と言うかのように頭を寄せてくるので、ワックスも何も付いていない髪をふわふわと撫でる。
するとサッチさんはとても嬉しそうな声を出して引っ付いてくるので、何だかその行為がかわいく思えて私はまた撫でてしまうのだ。

「もっと、きもちいいから、」

警戒心も何もなく、サッチさんはうっとりとした表情で目を閉じたまま私の手のひらを受け入れる。
普段はあんなに格好いいのに、たまにこんな一面を見せて私の気持ちを奪うサッチさんはとても策略家だと思うんだ。
そのうち、私の好きが追い付かなくなってしまうんじゃないかと思う。

「寝ちゃいそうですけど…横になりますか?」
「んーん、おれはもっとフィルちゃんをぎゅーってしてえの、」

自分の家だから、私もサッチさんも明日はお休みだから、今日は私が泊まりに来ているから。
理由はいろいろありそうだけど、普段私を介抱してくれる側のサッチさんが今日はこうして好きなだけ飲んで、酔って、私に気を許してくれている。
私はそんなことでも嬉しく思う。

「ぎゅうってされたいの間違いじゃないですか?」
「んなことねえもん、」
「そうですか?」
「そうな……あ、てェはなすのきんし、だめ、」

抗議するように強く抱きしめるので、思わず笑い声がもれてしまう。
両手を元の位置に戻すけど、サッチさんは意地悪をされたことに対してまだ不満がある様子。
でも大丈夫、サッチさんの機嫌がすぐ直る方法を私は知っているんだ。

「サッチさん、」
「やだ、ぜったいゆる……ん、」
「…直りました?機嫌。」
「……そんなんじゃたりねえ、」

サッチさんは誰でもわかるような嘘をついたあと、まるで手本を見せるかのように私の口を塞いだのだった。


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