「ただいまー。今日フィルちゃん来るから走って帰ってきちゃった。」
「…おかえりなさい。」
「フィルちゃん?…おっと、」

ぎゅう。
仕事から帰ってきたサッチさんへ何の説明も無しに抱きついた。
腕は腰に目一杯まわして、顔はサッチさんの胸の少し下くらいに押し付ける。

「汗かいてるって。匂わねえ?」
「…だいじょうぶです。」
「どしたの。大胆なお出迎えだなあ。」

返答はせず、ただ黙ってサッチさんに抱きつく。
サッチさんは疲れているだろうけどそれを見せず、軽く笑いながら私の背中を撫でてくれる。

「サッチさん……」
「…何かあった?話なら何でも聞くぜ?」

サッチさんの言葉は魔法みたいで。
我慢しようとしていたことも、言わないでおこうと
思っていたことも…そんな固くなった私の心をするりとほどいてしまうんだ。

「仕事でいろいろあって…ちょっと疲れて…」
「…そっか。疲れてんのに来てくれてありがとなあ。せっかくの休みだったのに…家でゆっくりしなくてよかった?」

今日サッチさんは仕事だったけど、休みだった私は晩ごはんをつくりにサッチさんの家に行った。
家にいてもきっとぼーっとして一日が過ぎちゃうだろうし、心身ともに疲れてしまった私にはサッチさんの存在がどうしても必要だったから。

「いいんです。会いたかったから…」
「あーもーそういうこと言うー。そんなこと言ってもケーキくらいしか出せません。」

そう言いながらサッチさんは私にお洒落なロゴが入った袋を見せてくれた。
きっと帰る途中で買ってきてくれたんだろう。
自分でも単純だと思うけど、甘くておいしいお土産に少しだけ気持ちが明るくなる。

「おれお腹ぺこぺこ。今日何?」
「お肉が食べたいって言ってたからしょうが焼きと、お味噌汁と、あとポテトサラダと…」
「あーもう最高。大好き。フィルちゃんはもっと好き。」

サッチさんは私を抱きしめなおすと、うりうりと顔を引っ付けてくる。
少しくすぐったかったけど、私も負けじと背伸びをして引っ付いた。
サッチさんがくれる安心感は体にぽかりと空いてしまった穴を埋めてくれるんだ。

「…ひひっ。フィルちゃんも飯食って元気出そう、な。」
「はい。」
「これお願い。すぐに着替えてくるから。」

サッチさんはケーキの入った袋を私に託すと、小走りで奥の部屋へ向かう。
私はその背中を眺めながら、今度は私がサッチさんを支えてあげたいなあと思うのだった。


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