「しりとりしねえかい。」
突然言いたくなるときがある。
普段は言えないことでもなぜか変に気分が高まってすらりと言えるようになるのだ。
夕食を終えてふたり並んでテレビを前にしていた最中、おれが突然そんなことを言い出したので隣のフィルはぱちりと目を瞬かせた。
「え?」
「しりとり。急にしたくなったんだよい。」
「は…はい。いいですよ。」
少し可笑しそうに。
くすくすと笑いながらおれに向き直るものだからつい言ってしまいそうになる。
…危ない危ない。
「じゃあおれから。しりとり」
「理科」
「かわいい」
「え、」
「ほら、『い』。早くしろよい。」
くい、と視線もつけて促す。
フィルは少しばかり戸惑った様子を見せながらもまた言葉を考え始めた。
「い…椅子」
「素直」
「お菓子」
「シャーベット」
「鳥」
「料理が上手い」
「へ?」
「『い』」
しばし無言になって。
それでもおれが当然だというような態度をとるからフィルは続く言葉を探し始める。
「……いか」
「髪がきれい」
「……さっきから少し変じゃありません?」
「さあ?ほら、『い』」
とうとう疑いの目を向けてきたフィルをひらりとかわして。
実際おかしいわけだが、おれが催促するとフィルは何か言いたげにしながらもおとなしく従うのだからかわいいものだ。
「……生け簀」
「好きだ」
「え」
「好きだどんなお前も魅力的で何度だって惚れ直しちまう素直で愛らしくて一生放したくねえ世界で一番お前のことを愛してるお前はどうだ」
気分が乗ったときというのは恐ろしい。
いつもは言えないような言葉がすらりすらりと途切れることなく出てくる。
恥ずかしいとはこれっぽっちも思わなくて自分でも不思議だと思ってしまうほどだ。
「ま、まるこさ、」
「『だ』」
にやりと口角を上げてやると、フィルの頬はみるみるうちに赤く染まって。
「…だいすき、です。」
終いには観念したような顔をするからつい声を出して笑ってしまった。
たまにはこういう遊びも悪くないなと思う。
「おれの勝ちってことでいいかよい?」
「もう、…好きにしてください。」
くつくつとおれが笑うと、耳まで赤くしたフィルがぎゅうと抱きついてきた。