「今日の夜さ、久しぶりに外で食わねえ?明日休みだし。」

爽やかな日差しが心地良い朝、サッチさんが嬉しい提案をしてくれた。
休日出掛けた際にお昼を外で食べることはあっても夜は帰ってきて食べることがほとんど。
サッチさんが言うには、休日は晩御飯を食べたあとはごろごろしたいんだって。

「わ!行きたいです!」
「おーし。店どこにすっかなあ。」
「…会社の最寄り駅まで行きますよ?そこで待ち合わせしましょう。」
「…ありがとな。そんじゃ近くで探しとく。」

そうしてサッチさんを見送ってから約半日。
ちょっとおめかしをして向かった駅は仕事帰りの人たちや学校帰りの子たち、それに待ち合わせをしている人たちでいっぱいだ。

(お腹空いたなあ。)

夜が楽しみでついお昼を簡単なもので済ませちゃったけど…量も減らしすぎてしまったみたい。
サッチさんがお昼にくれたメールには、駅から歩いていける場所に料理がおいしくて居心地の良い居酒屋があるからそこにしようと書いてあった。
サッチさんまだかなあ、もうそろそろのはずなんだけど…

「すいません、ちょっといいですか?」

自分の携帯と周囲を交互に見ていると、すぐ後ろから知らない男の人が顔を出した。
ぱっと見たところ二十代半ばくらいだろうか、私よりも少し背が高く整った顔立ちをしている。
その服装や雰囲気からして仕事帰りではない気がする。

「え?」
「いや、おねーさんすごい可愛いから思わず声かけちゃった。」

どうやら私が苦手としているタイプの人らしい。
待ち合わせの場所はここだから離れるわけにもいかないし…私の素っ気なさから察してくれないものかと思う。

「ど、どうも…。」
「今ひとり?誰か待ってる?」
「そうですけど…」
「おれも連れ待ってたんだけど遅れるって言われちゃってさ。おねーさんも待ってる間暇じゃない?よかったら」

その続きは聞こえてこない。
私の体が後ろに引かれると同時にサッチさんが間に割って入ったからだ。

「 お れ の 嫁 …に何か用?」

サッチさんの背中だけ見ても不機嫌なオーラを隠すことなく全面に押し出しているのがわかるし、声を聞けば尚更だった。
その男性はまずいとでも言うように一歩後ずさるので、サッチさんの眉間にはきっと深い皺も入っているのだろう。

「サ、サッチさん、」
「行くぞ。」

サッチさんは私の手をつかんで足早にその場を離れていく。
人の波が収まった場所まで来ると自然と歩く速度も落ちてきて、私でも楽に着いていけるほどになった。

「やっぱ若いやつがいーのか。あーそうですか。」
「いや、向こうが一方的に話しかけてきて…」
「断りゃいーだろあんなの。夫を待ってるから即刻消えろってよお。」

き、消えろはさすがに言えないです…。
サッチさんは非常にご機嫌ななめらしく、唇を尖らせながら不貞腐れたようにそっぽを向く。

「あーひでえ。おれ夜のために仕事めちゃくちゃがんばったのになー。もー立ち直れねえ。」
「……」
「ショックだわー。おれフィルのこと信じてたのにショックだわー。」
「…どうしたら機嫌直してくれますか?」
「店着くまでおれの好きなところと格好いいところ言い続けてくれたら考えるかもなー。」

そんなことを言いながらも、つないだ手は一向に放そうとしない。
私はそういうところも好きだなあと思ったけど、これは今言わない方がいいんだろうな。
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