サッチさんは優しくて格好よくて家事炊事も進んでやってくれる、とっても頼りになる旦那さま。
毎日が楽しくてすごく幸せなんだけど、ひとつだけ困ったことがある。
それは…
「ただいまー。」
「おかえりなさ…ひゃっ、」
「あーおれの癒し!」
出迎えた私をぎゅうと抱きしめるなんてことは当たり前。
「!さ、さっちさん、料理中は危ないですってば、」
「だってよお…料理してるフィルがかわいいんだもんよ。」
晩ごはんの仕度中に後ろから自由を奪われるなんてこともある。
「フィル、おやすみのちゅーして?」
「……」
「…ひひっ、いつまでたっても慣れてくんねえな。」
就寝前や起床時、家を出るときや帰ってきたときには当然のようにキスをねだってくるし。
「フィル、すげえ好き。」
「…わ、私もすきです。」
「かー!おれって超幸せもんだな!」
日常生活においての愛情表現がそれはもう豊か。
止めてほしいとは思わないけれど(でも晩ごはんの準備中に抱きつくのは危ないから止めてほしいかな…)、質も量もあるものだからなかなかに戸惑ってしまう。
でも、こう思ってしまうのはサッチさんのことがすごく好きだから。
行為自体は本当に嬉しいんだけれど、どきどきしすぎて仕方がない。
「んっ、さっち、さ」
「フィル…」
そして現在。
仕事から帰宅するやいなや私をソファーに押し倒したサッチさんに何度も何度も口付けられている。
たっぷりと響く低い声に体中が震えてしまうのはいつものこと。
冗談を抜きにして愛に溺れてしまいそうだ。
「…あちィ、」
そう息を吐き出してするりとネクタイを外し、さらには上着を脱ぐ姿は何回見ても心臓に悪い。
そんな私をよそに、サッチさんは邪魔だと言わんばかりに脱いだスーツを放り投げた。
スーツが皺になることを心配せずに、その動作にもどきりとしてしまった私は本当にどうしようもないと思う。
「、サッチさん、」
「…やばい。」
ぽつり。
え、何が?と思う暇もなく、呟いた次の瞬間にはぎゅうと力一杯抱きしめられる。
体をよじってどうにか顔だけ出すと、見えたのは耳を真っ赤にしたサッチさんで。
「フィルが好きすぎてやばい。」
余裕がないのは私だけじゃなかったみたい。
「私もです」と小さく笑うと、拘束する力が一層強まった。