「じゃあ次の休みは水族館行くか。」
「はい。楽しみです、久しぶりだなあ。」
「おれも。ひひっ、フィルとデート。」
「デ、デートって…」
「そりゃそうだろ。結婚してたってデートなの。」

とあるテレビ番組で水族館が取り上げられていたのをちょうど見て、そんな会話をしたのが今週の始め。
一日ずつ近づく週末に楽しさを覚え、わくわくしながら待っていたというのに。

「…うぅ…、、はあ……」

世の女性を悩ませる、月に一度訪れるあれ。
朝起きたら始まっていて、今日だけは軽くありますようにと祈るけどそれも意味をなさず。
洗濯物の相手をしているときに痛み始めてその場にしゃがんでいると、起きてきたサッチさんが私に気づいて横になるよう勧めてくれた。
水族館へ行く日と被ったことだけでも運が悪いのに、今回のはいつもより症状が重いようだ。

「大丈夫か?洗濯物終わったから。」
「ありがとうございます…、ぅ…」
「…水族館はいつでも行けるし、今日は家でゆっくりしよ?な?」

水族館はすごく、ものすごく行きたかったけど、この状態じゃ楽しむどころか水族館までたどり着くことさえも困難だ。
サッチさんの言葉に甘えて、私はこくりとうなづいた。

「そんじゃ毛布かぶって。体冷やさねえようにしなきゃな。」
「ごめんなさい…」
「気にすんな。薬飲むか?」
「のみます…くすりばこのなかに、わたしがいつものんでるやつが…」
「わかった。ちょっと待ってろよ。」

足早に部屋をあとにしたサッチさんは、一分と経たずに薬と水の入ったコップを持ってきてくれた。
私の頭痛を気にしてか、足音やドアの開け閉めが静かなことがとてもありがたい。

「ほら。起きて飲むか?」
「いえ、このままのみます…」

少し行儀が悪いけど、そんなことを気にしていられないくらいに頭も痛いしお腹も痛い。
やっとの思いで飲み終えると、力を使い果たした私は頭を枕に沈めた。

「もう少しで薬効くからな。がんばれよ。」
「はい…」
「何かやっといてほしいことあるか?あと欲しいもんとか。」
「いえ、とくに…、ぅ…」
「腹痛ェのか?」

ずきりと一層強い痛みが腹部に走り、思わず顔に出してしまう。
するとサッチさんは私のお腹をゆっくりとさすってくれた。
私よりも大きくてあったかい手のひら。
手当てなんて言葉があるけど…本当に手を当てているだけなのに痛みが和らぐような気がするから不思議だ。

「…もうだいじょうぶです、ありがとうございます…」
「…家のことはおれがやるから。ゆっくり休んでろよ。」

サッチさんは普段から頼りになるけど、今日は一段と頼もしく感じて。
私の頭をそっと撫でて部屋を出て行くその後ろ姿に、この人と一緒にいてよかったなあと思うのだった。

ーー


あれから頭痛と腹痛と吐き気の三重苦にみまわれるも、毛布にくるまりながらどうにかこうにか耐えることが出来た。
けど予想以上に体力を消耗してしまったのか、強い睡魔に襲われて……しとしとと降る雨の音に目が覚めた。
隣のベッドではサッチさんが本を読んでいる。

「…さっち、さん?」

気がついたサッチさんは本を閉じて私の方に近づいてきた。
いつものサッチさんなら私の布団に潜り込んでくるだろうけど、それをしないのは私の体調があるからだろう。

「おはよ。窓閉めようか?」
「いえ、そのままで。雨の音好きだから…」
「ひひっ、言うと思った。…顔色ましになったな。具合どうだ?」
「はい、薬が効いたのでもう…」
「そっか。よかった。」

そう言いながらサッチさんは安心したように笑うので、私は上半身だけ起こすとそのまま体をサッチさんにあずけた。
サッチさんはきょとんとしていたけど、私に腕をまわしてぎゅっと抱きしめてくれる。

「どうした、サッチさんが恋しいか。」
「はい。少しだけ。」
「少しだけ?このやろっ。」

楽しみにしていた水族館には行けなかったし、しんどい思いもしたけど、今日は今日で幸せな一日だと思うんだ。
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