「…眠れない。」

あんなに待ち遠しかった旅行もとうとう明日となった。
明日のためにと早く布団に入ったのに、わくわくしすぎてぱっちりと目が冴えてしまい寝返りをうつばかり。

「朝早いしもう一回荷物見とこうかな…」

何度もチェックした荷物はきっちりと並べられていて、明日着る服まで準備しているくらいだからもう点検の必要もないんだけど。
眠気が来る気配もないのでとうとう明かりを点けて布団を抜け出したその時、後ろから着信音が聞こえてきてまたベッドへ逆戻りだ。

「も、もしもし。」
「ひひっ、やっぱ起きてた。」
「へ?」

サッチさんの声は何だか楽しそうで。
しかもやっぱりだなんて…でも時計を見ればいつもの私なら寝ている時間で、サッチさんも普段なら掛けてこない時間帯なのに…何で?

「ハルタ経由で聞いてるぜ?フィルちゃんが明日からの旅行すげえ楽しみにしてるって。」
「!だ、だって、」
「おれも一緒。」

言い訳をしようと思っていたのにそう嬉しそうな声を出されると何も続けられない。
それはそうとアキめ…余計なこと言わなくていいのに!

「あ、そうだ。駅から旅館まで送迎バス出てるらしいんだけどそれ乗る?まあ歩いても十五分かからねえらしいし観光兼ねて徒歩でもいいんだけど…あ、時間あるし駅周辺観てからってのもありか。フィルちゃんどうしたい?」
「!え、えと、早く旅館に入ってみたいですけど、でも街並みがきれいって書いてあったから観光もしたいですし」
「……」
「あ、でもそれまでの移動で疲れてたらバスに乗る方がいいと思いますしあの、私は」
「くくっ」

電話越しにくつくつと堪えるような笑い声が聞こえてきて。
わ、私何か変なこと言ったかなあ…?

「サッチさん?」
「いやいや、本当に楽しみにしてくれてるんだなって。」

喋りながらもまだ収まりきっていないその様子に恥ずかしさが襲ってくる。
だ、だってサッチさんと泊まりがけの旅行に行けるなんて思ってもなかったし…。

「変…ですか?」
「何でそうなるの。あー…くそ、今めちゃくちゃぎゅってしたい。責任とって。」
「!な、何でそうなるんですか、」

サッチさんはいつも急だ。
その大体が私を慌てさせる内容で…しかもサッチさんが真面目に言うから余計に困る。

「…ま、楽しみにしてくれんのは嬉しいけど早く寝てくださいってこと。明日は予定いっぱいだぜ?」
「ですね。」

不思議だなあ。
さっきまであんなに眠れなかったのに…今布団に入ったらすぐ眠りにつけそうな気がするんだ。

「じゃ、おやすみ。また明日な。」
「はい。おやすみなさい。」

いい夢見られますように。
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