空は鮮やかな青色。
風は少し冷たいけど春を感じる日差しのおかげで気分は晴れやかだ。
私たちが最初に訪れた場所は敷地内に何十種類もの梅が咲き誇る梅の名所。
白やピンク、鮮やかな赤色が広い園内中を彩っていてその美しさについ圧倒されてしまいそうになる。
春休みと被る今はちょうどお祭り期間だそうで、ツアー客だけじゃなく家族連れで来ている人たちもたくさん。
「きれいですね…」
「うん。…もう春かあ。」
賑やかな一帯を抜けて、ゆったりとした時間の流れに添うような歩調で景色を楽しむ。
所々で気に入った梅の写真を撮りながら歩いていると、もう少し先で分かれ道になっていることに気がついた。
えっと…左は池で右は休憩所があるみたいだ。
「サッチさ…」
思わず声が止まる。
そよ風に吹かれながらたたずむサッチさんの横顔はとても穏やかで…普段とはまた違った雰囲気につい目を奪われてしまった。
「ん?」
「!いえ、」
「何?花が似合わない男だなあって?フィルちゃんひでえ。」
た、確かにサッチさんと花の組み合わせって意外だなとは思いましたけど!
本当は見とれていただなんてきっと知らないサッチさんはぶうぶうと口を尖らせる。
「ちちちがいますよ!そんなこと思ってないです!似合ってます!」
「ほんとにィ?」
「ほ、本当です、」
「ひひっ、…ありがと。」
…ま、またその顔。
いつものあの明るいサッチさんも好きだけど…不意に見せるこの表情に私はどうも弱いらしい。
「すみません。」
後ろから聞こえてきた声に揃って振り向く。
そこにいたのは優しそうな顔をした男性と、そのすぐ後ろで少し大きくなったお腹に手を添えている…妊婦さんだ。
「はい?」
「あの、写真を撮ってほしいんですけど…お願いできませんか?」
こんなにきれいな景色だもんね。
楽しい思い出づくりのお手伝いなら大歓迎。
それはきっとサッチさんも同じはず。
「ああ、いいですよ。」
「ありがとうございます。…これでお願いしますね。」
そう言ってふたりが立ったのはこの辺りで一番大きいピンクの梅が咲く場所。
優しい顔をしてふたり寄り添う姿に何だか私まであったかい気持ちになる。
「はーい撮りますよー。笑って笑ってー。…いいですねー、それじゃもう一枚…」
…サッチさんって写真撮る役慣れてるのかなあ。
明るい声で次々と誘導するサッチさんはちゃんと相手の人たちも笑顔にしているから余計にすごいなあと思う。
「どうぞ。これで大丈夫ですか?」
「…はい、ありがとうございました。あの…もしよかったらおふたりもどうです?」
「!?」
わ、私たちも!?
サッチさんとふたりで撮るなんて私の予定になかったんですけど!
不意打ちを受け私は内心大慌て。
でも隣のサッチさんは至極あっさりと。
「あ、じゃあせっかくだしお願いしようかな。」
「!」
「じゃあ…これで。ほらフィルちゃん、こっちこっち、」
まままって!サッチさん待って!
ぐいと手を引っ張られあっという間に場所移動。
携帯が構えられると、サッチさんが私の肩を引き寄せて距離を無くしてくるからもうどうしていいかわからなくなる。
「彼女さん、表情が固いですよー。」
「!は、はい、」
だって、だって…!
サッチさんとふたりだけで写るなんてどんな顔をしてたらいいかさっぱりなんです…!
長いような短いような、とにかく緊張しっぱなしの撮影が終わるとふたりが携帯を片手に近づいてきてくれた。
「何枚か撮ったんですけど…撮り直しましょうか?」
「んー…」
携帯を受け取ったサッチさんはどうしてか手を高い位置で止めるから私には少しだって見えなくて。
ぴょんぴょんと跳んで覗き見ようとしても、それに合わせてサッチさんが腕を動かすせいで結果は変わらず。
サ、サッチさん!私にも見せて…!
「…いや、これで大丈夫です。ありがとうございました。」
サッチさんの声を聞いて私も慌てて頭を下げる。
私たちの攻防をくすくすと笑いながら見ていたふたりも再度お礼を口にしてくれた。
そうしてふたりと別れたあと、サッチさんはまるで何事もなかったかのようにすんなりと携帯を差し出して。
「さっきの見る?」
…あ、あれ?いいの?
戸惑いはするものの…うなずきながら携帯を受け取る。
そこに写っていたのはいつもの私と、いつものサッチさん。
「何かおれらっぽいだろ?だからいいかなって。」
どの写真も大して変わらずサッチさんは正面を向いて笑っていて、一方の私はうつ向き加減。
でも少し赤くなった顔は隠しきれていなくて…やっぱりいつもの私たちだ。
「おれ結構気に入ってんだけど…撮り直した方がよかった?」
「……」
何だか上手く言えないけど。
私もこの写真は嫌いじゃなくて、サッチさんがいつになく嬉しそうにするから余計に嫌な要素が見つからなくて。
「いえ、…大丈夫です。」
「ひひっ。フィルちゃんのにも送っとくな。」
そう言って携帯を見つめるサッチさんはやっぱり機嫌が良さそうだった。