「んで?話って何だ?」

深夜に訪ねたのは自隊長ではなくその専で最も頼りになるだろう人。
愛用の椅子に深く腰掛けて足を組んでいるサッチ隊長がお酒を飲みながら向かいの椅子に座るようすすめてくれる。

「わ、私ケーキをつくりたいんですけど、隊長にみてほしくて…。」
「…ふぅん?いつ?誰にあげんだよ。」

サッチ隊長はその答えを知っているはずなのに、にやりと目を細めてわざとらしく訊いてきた。
サッチ隊長は私の密かな恋心を知っていて、度々私の悩みを強引に聞き出してはがんばれよと応援してくれているからだ。
自分で食べる可能性だってあるのに…サッチ隊長には敵わないなあと思う。

「…隊長が想像してる人ですよ。」
「そーかそーか、そりゃがんばらねえとなあ?で、何つくるんだって?」

サッチ隊長はくつくつと可笑しそうに笑っているけど、ちゃんと協力してくれるんだってことを私は知っている。
普段はふざけてるのに本当は人一倍真面目で、隊員のことをしっかり見てくれるサッチ隊長だから家族からの信頼も厚いんだ。

「オペラです。」
「…結構面倒だぞ?」
「は、はい。でも前に上陸したとき隊長が食べてて気に入ってたみたいなので…。」

マルコ隊長と一緒に上陸したとき、隊長が面倒ごとに付き合ってくれたお礼だと言ってお茶をごちそうしてくれて。
そのときにマルコ隊長は何層にも重ねられた茶色と白のケーキ…オペラを食べていたんだけど、珍しいことに隊長はそのケーキを気に入った様子だったから他のケーキをつくるよりもきっと喜んでくれる気がする。

「隊長、…みてもらえますか?」
「任せとけってんだよ。けどおれは厳しいぜ?」
「ありがとうございます!」

サッチ隊長がみてくれるならきっと上手くいく気がしてきた。
これで味の心配はないだろうから、あと気になることと言えば…

「あの、」
「ん?」
「…隊長ってひとりになるときあります?」
「あー…」

問題はいつ渡そうかということ。
家族の前で渡すのは当日の賑やかな雰囲気があるとしても恥ずかしいし、マルコ隊長の大事な日だからこそふたりきりになりたいという贅沢な望みもあったりするから、出来ることならそういうときがいいんだけど…。

「まあ誰かしらはずっといる…お?もしかして大事なハナシでもすんの?」
「!そ、そういうつもりはないんですけど、その、せっかく渡すなら隊長がひとりのときに渡したいなって、」

気持ちを伝えるなんてとんでもない。
せっかくの誕生日なのに自隊員からそんなことを言われたらいくらマルコ隊長といえども困るはずだし、私はこうやってケーキを渡すことだけでも十分なんだ。
サッチ隊長ってばすぐそういう風に話持っていこうとするんから…ってあれ、サッチ隊長…

「…な、何ですかその顔。」
「別にィ?何も?…じゃあ当日頃合い見てあいつの部屋に誘導してやるよ。プレゼント置いてるから見てこいとか言ってな。それでいいか?」
「はい。隊長、ご指導よろしくお願いします。」
「おう。じゃあさっそく明日から…」

ーー


それからサッチ隊長との秘密の特訓を経て迎えたマルコ隊長の誕生日。
サッチ隊長との事前の打ち合わせで、ケーキを渡すためにマルコ隊長を探していた私は隊長が自室に向かったとの情報を聞いて部屋を訪れる…ということになっている。
少し前にサッチ隊長から目で合図を送ってもらい、今はマルコ隊長の部屋が確認できる場所でこっそりと隠れながら待機中だ。
当然のことながら家族はみんな甲板で騒いでいるから、その声が遠くに聞こえることを除けば船内はしんとしている。
どくどくと早くなる心臓を必死に抑えながら待つこと数分、ひとり分の足音が聞こえてきて。
ずっと聞いてきた足音は間違えようがなく、すぐにマルコ隊長のものだとわかった。

(隊長、喜んでくれるかな…。)

小さな箱には小さなケーキ。
けど、気持ちはたくさん込めたつもりだ。
ドアが閉められたのを聞いて、そっと部屋に近づく。
緊張してきた…!
大きく、けれど静かに深呼吸してさあ行くぞとドアノブをつかもうとすれば、ドアが勝手に開くという予想外の展開。

「入らねえのかよい。」
「マ、マルコ隊長何で…ひゃっ!?」

マルコ隊長は驚きのあまり突っ立っていた私の腕をぐいと引っ張り部屋へ入れるとドアを閉めてしまった。
ケーキは…う、うん、ちゃんと守れてる。

「どうした?おれに用があったんだろい。」

私とは対照的にマルコ隊長はいつものように冷静で。
感覚が鋭い隊長のことだから私が部屋の前にいた時点で気配を感じ取っていたのかもしれない。

「…こ、これ、どうぞ。お祝いにケーキつくったので渡したくて。サッチ隊長に教えてもらいましたから味は問題ないはずです。」

おずおずと差し出したそれをマルコ隊長は迷いなく開けた。
備え付けたフォークを使わず手でつかんで食べる姿は普段の隊長からすれば意外にも思えたけれど、やっぱり男らしくて格好いい。
指についたクリームを舐めとる動作にだってどきどきさせられてつい見とれてしまう。

「…ああ、確かにうめェよい。ありがとうな。」
「いえ、喜んでもらえてよかったです。」
「で?」

さも当然のように訊いてくるマルコ隊長にぱちくりと瞬きをひとつ。
なのに隊長がにやりと悪いことを考えていそうな笑みを浮かべるものだからさすがに嫌な予感がした。

「…はい?」
「おれはサッチに『大事な話がしてえってやつがいるから部屋に行ってくれ』って言われたんだけどな?」

サッチ隊長ー!?打ち合わせと全然違うじゃないですか!!
しかも何余計なこと言ってるんですか!?

「『大事な話』ってのはこれのことか?」
「え、えっと、」
「ナマエ、早く言えよい。」
「いや、それは」

瞬間肩を押されて。
背中をドアに預けた私のすぐ横にマルコ隊長が手をつく。
何か問う以前にあまりの距離の近さに息をすることさえも忘れてしまい、ただ心臓の音だけがうるさい。

「こっちは喰っちまいてェの我慢して待ってやってるんだけどな?」

その言葉通り、隊長の目はまるで獲物を狙う獣のよう。
初めて見る隊長の男の顔にたまらず目をつむると、急かすように唇を指でなぞられてしまいふるりと体が震えた。

「すき、です」

直後、ほんの数秒ではあったけど私に隊長のものが重ねられてまた体が硬直する。
離れたのを感じてやっと目を開けるとくつくつと笑う隊長がいて、遅れて感じた甘さに恥ずかしさが一気に襲ってきた。

「あんまり焦らすなよい。おれはそんなに気が長くねえ。」
「…だ、だってマルコ隊長が…」
「くくっ。…まあちゃんと話も聞けたことだし」

戻らねえとな。
そう言って私を手荒く抱えて部屋を出たマルコ隊長は家族の前で「今日からこいつはおれの女だ」と高々に報告し、私はそれに終始顔を赤くするのだった。


リクエスト内容
∠海賊で夢主がマルコさんに告白
∠隊長さんに協力してもらう
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