「あー…、ナマエはおれの妹で…ほら、」
「うん。えっと…お兄ちゃんがお世話になってます、妹のナマエです。」

ナマエがぺこりと頭を下げると甲板中からどよめきの声が上がった。
おれも今の今までナマエのことは一切話してこなかったし当然と言えばそうなんだが…少し驚きすぎな気がしなくもない。
おれが完全に故郷を離れたのはナマエが5歳にも満たない頃。
それから何年と時が経ちある日届いた手紙でナマエも旅を始めたと知ったときは頭を金槌か何かで叩かれたような衝撃を受け、以降も何度か手紙は送られてくるもののこの目で無事を確認したいとずっと思っていたから予想外の出来事だったとしてもこうやってナマエの元気な姿を見ることができて本当によかったと思う。

「グラララ、知らなかったとはいえ悪かったなあ。」
「いえ、私も怪しかったですし…。」
「マルコお前嘘つくなよ!?どうせ前の島で転がした子か何かなんだ…げふっ!!」
「そうだぞ!こんな金髪カワイコちゃんがお前みたいなおっさんの妹だなんて信じられ…いてえっ!?」
「お前ら騙されるんじゃねえぞ!隠し子に決まっ…ぐおっ!?」

黙れ!ナマエに近寄るな!
詰め寄ってきたそいつらを容赦なく蹴り沈め、ごろりと転がしたあと驚いているナマエの前に立つ。

「ナマエは正真正銘おれの妹だよい、…まあ年は離れてるがな。今は18だったか?」
「う、うん。それよりお兄ちゃんだめだよ、暴力ふるっちゃだめ。お兄ちゃんの大事な人たちなんでしょ?」

ぱっと手をとられて見上げられてしまい言葉に詰まる。
もちろんこいつらは大事な仲間だが…それ以上にお前の方が大事なんだ。
やっと出会えた大事なかわいい妹においそれと男を近づけてなるものか。
そうは思うがナマエがせっかくこんな顔をして怒ってくれているのだからここは素直に従っておこうと思う。

「…わかったよい。けど何で急に…」
「前いた島でお兄ちゃんたちのこと見たって聞いたから探してたの。だって今日誕生日でしょ?おめでとうって言いたかったんだもん!」

ああくそッ!何て出来た妹なんだ!
嬉しそうにぎゅっと抱きついてくるのでおれも目一杯甘やかしてやりたかったが、残念ながら家族の前ということもあり頭を撫でる程度でとどめておく。

「いもうと…かわいい妹…」
「お兄ちゃんって言われてェ…」
「お兄ちゃん…何て甘美な響きなんだ…」

人が心穏やかに妹を可愛がっているというのに周囲から決して無視できない言葉が聞こえてきた。
撫でる手は優しいまま、しかし射殺す勢いでそいつらをぎろりと睨み付ける。

「…お前ら覚悟は出来てるんだろうな?」
「!そ、それより妹も能力者なのか?空飛んできたんだろ?」
「…ナマエ、見せてやれよい。」
「うん。」

注目を浴びて少し恥ずかしそうにしながらも一歩前に出たナマエの腕から炎があがり、それがぶわりと全身を覆った。
勢いがおさまり現れたナマエの姿はまさしくおれと兄妹だということを思わせる。

「トリトリの実、モデル『朱雀』です。」

赤とオレンジに輝く炎をまとい、ゆっくりとその翼が広げられる。
夜ということも相まって幻想的とも言えそうな光に周囲から上がるのは感嘆の声ばかり。

「すげえな!お前も戦えるのか?」
「いえ、私はそういうの苦手なんですけど…でもお兄ちゃんとお揃いだからそれだけで嬉しいんです。」

…くそ!おれの妹がこんなにもかわいい!
ナマエ、おれだって嬉しいぞ。
おれと揃いの能力だとわかったときは内心両手を上げて喜んだほどだからな。
すっと元の姿に戻ったナマエを見ていると力の扱い方を教えていたあの頃を思い出して懐かしくなってくる。

「ほら、」

そこで聞こえてきた馴染みの声。
見ればそいつはナマエにサンドウィッチが盛られた皿を差し出していて。

「え?」
「おれはサッチってんだ。…話は食いながらでもできるだろ?飛んできて腹減ってんじゃねえ?」

思い出したのかナマエから発せられたのはくう、というかわいらしい音がひとつ。
恥ずかしさに顔を赤くしつつもこくりとうなずけばサッチも含めた家族全員が表情を緩めた。

「おっし、遠慮すんなよ。甘いモン好きか?」
「大好き!」
「ひひ。じゃあ食べながら待ってな。」

ーー


「お兄ちゃんいいなあ、こんなおいしいご飯毎日食べてるんでしょ?」

ナマエは空腹だったことに加えてここの飯が気に入ったらしく、おれの隣で幸せそうな顔をしながら小さな口に何度も料理を運んでいる。
まあナマエが純粋に飯だけを楽しんでいるのならいいが…さっきからおれの頭では警鐘が鳴り響いているのだ。
おそらく自覚はないのだろうがさっきあいつに見せたナマエの表情は一瞬だったにしても確かに女のそれで、あいつもあいつでナマエに目をつけた気がしてならない。

「…ナマエ、あいつだけはやめろよい。だめだ、絶対やめろ。」
「?どうしたのお兄ちゃん、私ここのご飯がおいしいって…」
「ナマエー」

…もう戻ってきたか。
声にナマエが顔を向けると皿を持っていたサッチがもう片方の手をひらりと上げてみせる。
そのまま真っ直ぐに歩いてきたあとナマエのすぐ正面でしゃがみこんだ。

「サッチさん、料理すっごくおいしいです!」
「そりゃよかった。」
「あ!わ、私チーズケーキ大好き!ありがとう!」
「おう。好きなだけ食えよ。」

頬を緩めてケーキを頬張るナマエの幸せそうな顔をしばらく眺めてから問題の男をぐいと引っ張り寄せる。
そいつも察しがついていたのか抵抗する素振りも見せずににやにやと顔を歪めてきたのでそれが余計に勘に障った。

「おいサッチ、」
「なーにマルコさん、いくらかわいいからって過保護は良くねえよ?ちったあ経験積ませてやらなきゃなァ?」
「てめェ…」

過保護で何が悪い、ナマエは大事な妹でおれにとっての天使だ。
ナマエに近寄る男はおれが全員排除してやる。
もし、もしもナマエに男がつくならそいつがおれよりも強いことは絶対条件。
あとはおれのように真面目で誠実、甲斐性があって責任感があってナマエのことを命がけで守り抜く男であれば多少は考えてやらないこともないが…まあそれらにかすりもしないこいつは論外だ。

「サッチさんありがとう!ごちそうさまでした!」
「お、もういいのか?」
「うん、お腹いっぱい。でもすごくおいしかった!毎日食べたいくらい!」

幸せそうなナマエにふとここで名案が浮かぶ。
久しぶりに会えたのだからしばらく船に乗せてはどうだろうか。
オヤジはきっと反対なんてしないだろうし他のやつらもそうだろう。
仮に反対されたとしてもおれの権限を使えばどうとでもなる。
…まあ反対の声など挙げさせるつもりはないがな。
部屋はもちろんおれと同室、つもる話だってあるし広い船内を見たいと言っていたから案内もしてやりたいし…そうかナマエ、誕生日プレゼントはお前自身だったんだな?どこまでもかわいいやつめ。
そんなことを考えて気分がよかったのはここまで。

「じゃあウチに来るか?」
「え?」
「そんでおれの嫁さんになってくれりゃあこれよりうまいモン毎日食わせてやるぜ?何たって愛情たっぷりだからなァ?」

かあっと顔を赤くしたナマエは誰が見たって本当にかわいいがそれをさせているのがおれ以外の男で、しかもよりにもよってこいつだという事実に思わず手に持っていた樽の持ち手をばきりと握り潰してしまった。
落ちた樽から中身が溢れるがそれを気にしている場合ではない。

「えと、お、およめさんって、」
「くくっ、…まあ先にコイビトからか?」

ひくりと顔がひきつるのが自分でもわかって。
覇気をびりびりと撒き散らすおれを仲間が慌てて制止してきたが、次のサッチの一言にどうにも我慢がきかなくなって勢いのあまり周囲を吹き飛ばしてしまった。

「マルコ、おれお前のことお兄さんって呼ばなきゃいけなくなるかもしれねえわ。」

こいつの嫁にだけは絶対にさせてたまるか!


リクエスト内容
∠海賊で実妹からサプライズお祝い
∠お揃い飛行系能力者夢主
∠夢主の気を引く隊長さんにセコムマルコさん発動
- ナノ -