一緒に入ろうと提案されたのは喜ぶべきことなのか、そうでもないのか。
提案後おれの返事を待たずして行動を開始されてしまい反射的に引き留めそうになったが、じゃあ別々に入りたいのかと言われれば返事に困る。
普段のおれであればここで断るべきなのか。
しかしながらそれを少なからず望んでいないおれも存在してしまうわけで。
結果片付けに向かうナマエを黙って見送ることになってしまった。

「マルコさん!出来ましたよー!」

片付けが終わると今度は颯爽と浴室に向かってしまったナマエの妙に元気な声がとうとう聞こえてきた。
それでも仕事用のパソコンをさわっていると、待ちきれなかったらしいナマエがぱたぱたと音を立てる。

「ほら、早く早く、」

ドアから上半身をひょこりと出して。
嬉しそうに手招きをする姿が子どものように見えて仕方がない。
…ああもう!そんな仕草をするな!

「先入ってろよい。というか何で今日に限って一緒に…」
「だって泡が少なくなっちゃうと困るじゃないですか。…ほら、」

すぐに着いていくのは何だか許せなくて、気だるそうな動きを見せながら立ち上がってナマエのあとに続く。
ある程度想像はしていたが実際に見ると思っていたよりも浴槽は泡に満たされていた。
ふわりと微かに甘いにおいがしてそういえば蜂蜜が入っているらしいことを思い出す。

「…確かに泡だな。」
「早く入りましょうよ、ね?」

今日はナマエの様子がどうもおかしい。
こうも積極的で、恥ずかしさなんて欠片も見せずにこんなことを言い出すし…思い返せば朝起きた時点ですでにこの上なく機嫌がよさそうだった。
ただでさえ押されてしまっているのに、こんな誘われ方をされてしまっては断るなんてとてもじゃないが出来なくて。

「先入っててくれよい、…仕事のメール片したらちゃんと行く。」

ーー


「…マルコさん体洗うの長すぎです。」

濡れた髪をまとめ上げているナマエが浴槽からくすくすと軽く不満を口にしてくる。
わざと長くしているんだということがばれているらしく、からかわれているようにも思えたのでそれに対抗するように多めの湯をかぶった。

「終わりました?」

こちらへどうぞと言わんばかりにスペースを空けられてしまい、いよいよ覚悟を決めないといけなくなって。
何だか唐突に叫びたくなったがそれをするとあまりにも情けない気がしたのでため息と一緒に吐き出してから浴槽へ入る。
どうやら湯は三分の一ほどで残りが泡のようだ。
やわらかいたくさんの泡に包まれる感覚は何とも形容しがたく、ふわふわと少し落ち着かないながらもまあ嫌いではないなと思う。
ひとしきり体験が済んだところではっとして正面を見ると、膝を抱えているらしいナマエがにこにこと楽しそうな顔を向けていたので眉間にしわを寄せてやった。

「何だよい。」
「楽しそうだなあって。」
「そっくりそのまま返すよい…、っ!?」

突如おれの顔面を無数の泡が襲って。
手で大雑把に拭い取ればナマエがおれを見ながら控えめに小さく肩を揺らしている。

「ごめんなさい。でも一度やってみたくて…ひゃっ!」
「おれ相手にいい度胸だな?」

さっきの倍の量はあるだろう泡の塊をお返しだとばかりに投げつけてやると、ナマエは間抜けな声を出して驚くので遠慮なしに笑ってやった。
子どものようにふざけあうなんて滅多にないので少しむず痒いものを感じるが何せふたりとも初体験なのだから仕方ない。

「…マルコさん」

先程とは変わって落ち着いたやわらかい声。
向くとナマエがおれの方に近寄り優しげに見つめてくるので、おれも応えるようにそっと抱きしめてキスをする。
触れ合うだけのそれは長く、終わるとナマエはうっとりとこの上なく幸せそうな顔を向けてくるものだからたまらずふいと視線をそらした。

「…調子が狂っちまうよい。」
「どうしてです?」
「ナマエがいつもと違うからだよい。」

こういうことになると大抵はナマエが恥ずかしがる側なんだがな。
いつにも増して積極的なナマエに翻弄され続けて何だか逆に可笑しくなってきてしまった。
少し笑いながら告げると、ナマエはやはりにこりと笑って。

「だってマルコさんの誕生日じゃないですか。だから私も嬉しいんです。」


リクエスト内容
∠現パロ恋人で泡風呂
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