ひとり、またひとりと甲板に寝そべるやつが増えてきたころ。
ふと辺りを見ればオヤジと長女の姿がどこにもないことに気がつき、そろそろなのか思いながらそっと席を立った。
船長室に向かえば予想通りふたりの姿があって、おれが来たことがわかるとひとりは上機嫌に笑い、もうひとりは手を大きく振っておれを迎え入れる。

「マルコ、誕生日おめでとう。」
「さっきも言っただろい。」
「ここではまだだもん。ね、オヤジ。」

オヤジとナマエとおれと。
ふたりと出会った今日をおれが生まれた日だと決められてからは毎年場が一段落ついた頃にひっそりと集まっている。
最初の方こそそんなものはいらないと言うおれをナマエが強制的に連れ出していたが回数を経てくるともう諦めが入ってきて自主的に動くようになり、近年では信頼されているのか放っておかれるようにまでなった。

「これでもう何回目だっけ。」
「…ちょうど二十回目だな。」
「そっかあ、そんなになるんだ。」

特に変わったことはしない。
三人で酒を飲んでたわいもないことを喋って終わる、ただそれだけの時間だ。
しかしそんな時間こそ大事なのかもしれないと思うようになってきたのはおれが歳をくった証拠なのかもしれない。
まあ20年もここで過ごしているのだから当然かと思っていれば、ナマエにじっと見られていることに気がついた。

「何だよい。」
「マルコが乗った頃のこと思い出してた。あの時のマルコひどかったなーって。」
「グラララ、お前よりナマエの方がよほど大人だったなあ。」
「だよね。覚えてる?初めてお祝いしたときなんか恥ずかしくて逃げ出してたよ。」

オヤジと出会ったのはおれが17の時で、オヤジの隣には当時のおれの膝丈ほどしかないナマエもいた。
おそらく4、5歳だったろうナマエは親に捨てられてのたれ死ぬ寸前のところをオヤジに拾われたと聞いている。
あの頃のおれは見た目もそうだが特に中身がガキで急に出来た家族を受け入れられずに反発を繰り返していたからオヤジや家族、それに幼いナマエにまでたしなめられていた。
エースのようにオヤジに手を出すようなことはなかったものの、あいつと同じくらい扱いにくい存在だったろうと思う。
…実際そうだったとしても掘り返されて気分が良い記憶ではないことは確かだ。

「…もう忘れろよい。」
「やだ。…本当、びっくりするくらい変わったね。」

自分でも変わったとは思う。
しかしおれが変わったのはあれほど受け入れることを拒んでいた家族…特にナマエの存在が大きなきっかけとなったのだが本人はきっと知らないんだろう。
だがそれでもこの船で最前線に立つようにまでなるなんて自分も想像すらしていなかったなと少し可笑しく思っていればナマエに声をかけられた。

「マルコ、いつもありがとう。」

急に真面目な顔をするので驚いていればくすりと笑われて。
付き合いの長い家族だからこそこんなことを面と向かって言われると素直に受け取ることが難しい。

「…おれはおれの出来ることをやってるだけだよい。」
「素直じゃないなあ。…そんなお兄ちゃんはこうだ!」
「っ!?」

完全に警戒を解いていたせいもあって、何の反応もできないままナマエに抱き込まれてしまって。
そのまま髪をすかれて頭を撫でられ…まるで子ども相手にするようなそれに顔が熱くなる。

「な、何すんだよい、放せ、 」
「いいからいいから。ほら!オヤジも!」
「グラララ。こうかあ?」

ナマエの何倍もあるオヤジの手が伸びてきて視界に影が落ちた。
ナマエも巻き込んでのそれは撫でられているというよりも覆われているといった方が近く、オヤジの手にころころと笑いながらもナマエはおれに触れることを止めない。
本気を出せば簡単に逃げ出せるがそこまでする気も起きず、しかしながらこのままでいるのは少々恥ずかしくある。

「たまにはさ、マルコにもお姉ちゃんぽいことしたいんだ。」
「…じゃあ他でやってくれよい。」
「えー?例えば?」
「次の上陸での振り分け頼むよい、オネエチャン。」
「そ、そういうのはマルコの方が得意でしょ?ね?」
「グラララ、それじゃあ締まらねえなあ。」
「ひ、ひどい!オヤジまで!」

やらなければいけないからだとか立場がそうであるからだとか…そういうのとは少し違う。
おれは今までもらったものを返しているだけだ。


リクエスト内容
∠長女な夢主とオヤジさんがいつも長男してるマルコさんを甘やかす
∠誕生日の夜はいつも三人でこっそりお祝いしてる
∠マルコさんふたりに拾われ日=誕生日設定
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