「今日はカボチャずくしにしてみました。」

にこにことおれに料理をすすめるナマエの言う通り、今日の夕食はかぼちゃのコロッケにパンプキンスープ、そして南瓜の煮付けというように全ての料理にそれが使われていた。

「うまいな。」
「よかったです。今日は特別にパンプキンパイもありますよ。」
「そりゃ楽しみだよい。」

おれが愛してやまないナマエは行事を大事にする方だ。
なのでイベント事の日はそれが行動に表れるか料理に反映されるか、もしくはその両方に出てくる。
今日は10月31日。
世間一般的にはとあるイベントがあったりする日であるから、ナマエもこうやって料理に反映しているわけだ。
しかしおれが待ち望んでいた行動はない。

「どうしました?」
「いや、…今年はしねえのかよい。」
「何をです?」

…この様子だと本気で覚えがないらしい。
おれは今日帰宅するのを楽しみにして、まだかまだかと待っていたというのに。

「去年やってただろい。ナマエが誘い受けするやつ。」
「……trick or treatですか?」
「それだよい。」

若干の間はあったがおれの発言に何も突っ込まないのはナマエの優しさだろうと理解する。
おれからすれば、10月31日と言われて思い浮かぶのはこれしかない。

「…マルコさん覚えてないんですか?」
「何をだよい。」
「去年ですよ。やるなって言いませんでしたか?だから今年は料理だけにしたんですけど…。」
「……」

言った、確かに言ったぞ。
しかしだナマエ、おれはナマエがしていた格好をやめろと言ったわけであってその事自体をするなと言ったわけじゃないんだ。
去年お前はどんな格好をしていた?黒いマントにおれの黒のスーツ一式を着て中にはおれの白シャツ、そこに赤い紐を結ぶというおれにとっては衝撃的すぎる姿のお前がおれを出迎えたんだ。
お決まりの台詞を言ったあとは吸血鬼の真似だとして呆けたおれの肩口に吸い付くようなしぐさをするからうっかりそのまま抱き潰してしまった。
そうしてナマエがせっかくつくってくれた料理も食べないまま朝を迎えてしまい心底反省したおれはナマエに先のことを告げたのだ。

「…ああ、言った気がするよい。」
「ですよね。」

だがナマエ、冷静になって考えてみろ。
今日はお前が自分から誘い受けをしてくれる日だぞ。
そんな男の夢が詰まった行事をおれがやめろと言うわけがないんだ。
ナマエ、お前もほぼ毎日おれの愛を受け止めている側なのだから今回くらいおれの思考を読んでくれないものか。

「ごちそうさま。」
「はい。お茶いりますか?」
「ああ。」

腹もいい具合に膨れていよいよナマエがほしくなってくる。
帰宅すればナマエが誘い受けをしてくれるとばかり思っていたのだ、だから今の状態は「今日はしませんよ」と告げられているような気がして非常に精神に悪い。
…こうなれば仕方がない。

「ナマエ」
「どうしました?」
「trick or treat」
「え」

温かいお茶を飲みながら一息ついていたナマエがぴしりと固まって。
さすがに予想が出来たのかあわあわと慌てだす様は本人には悪いが見ていてかわいい。

「マ、マルコさん、それはやるなって」
「trick or treat」
「!待ってください、今パンプキンパイ取ってきますから…きゃっ!」

それは困る。
逃げ出そうとするナマエを押し倒し腕を縫い付け、邪魔になるであろうシャツのボタンをはずしながらこう言ってやった。

「今年はおれがやる。そういう意味だよい。」
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