「ほら、ナマエの分。」
「あ、ありがとうございます。」

彼女と出掛けるのはこれで四度目になる。
一度目は喫茶店へ行き、二度目は話題になっていた映画を観に。
三度目はあいつらも一緒に遊びに出掛け、そして今日はふたりで水族館。
今は館内をまわり終え、来た記念にとここで人気の白鯨を模したストラップを買ったところだ。
お揃いのものを買うなんて歳に合わないことをしたものだなと考えかけていたが、受け取った彼女がそれを見て嬉しそうな顔をするものだからまあたまにはいいだろうと思い直してしまう。
自分に似つかわしくない可愛らしい白鯨を改めて眺めてから隣の彼女を見ると、何やら考え事をしている様子。

「…どうかしたかよい。」
「えっと、どこに付けようかなって…。マルコさんはどうするんですか?」
「そうだな…」

買ったはいいが…おれはもともとこういった類いのものを何かに付けるということをしない人間である。
せっかく彼女と買ったのだから付けないという選択肢を選ぶつもりはない。
しかしながら例えば携帯に付けてしまうとからかってくださいとあいつらに言っているようなものなのでそれは避けたいと思う。
だが付けていることを彼女に見てもらうためにもそれなりに使用頻度の高いものに付けるべきだ。
となると…

「…車の鍵にでも付けるか。」
「…そう、ですか。じゃあ私はどうしようかな…」

困ったことになった。
おれはそこまで鈍くないと思うし勘は鋭い方だと自負している。
だからわずかに視線を落とした彼女がどう思っているか、どんな返答を望んでいたのかがわかってしまうのだ。
おれは同じものを持っているということだけで満足しているが、彼女はまだ若いしそれ以上も期待してしまうのだろう。
さてどうする。
おれの平穏を守るか、それとも彼女の密かな希望を優先するか。
そんなものは決まっている。

「…まあ、」
「え?」
「たまには携帯に付けてみるか。…ナマエは決まったかよい。」
「…わ、私も携帯にしようかなって。何も付いてないですし。」
「そうかよい。」

ああ、言ってしまった。
明日会社へ出たらからかわれるに違いない。
おれが携帯に物を、しかもおれと組み合わせれば違和感しかないこんな品物を付けているなんてとんだ笑い種だ。
そうは思うものの…やはり嬉しそうにストラップを通している姿を見てしまうと悪い気はしないし、この際あいつらに何か言われたら開き直って見せつけてやるのもいいかもしれない。

「楽しかったですね。」
「そうだな。」

建物を出て車の元へと向かう。
傾いていく日を眺めながらおれはぽつりと切り出した。

「ナマエ、今日…店予約してるんだよい。そこでもいいか?」
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