「マルコ、今日の酒は格別だろう。」

兄弟たちの来訪がやっと一段落したところでオヤジが声をかけてくれた。
これで何度目だろうなと思いながら注がれた酒を飲み干すと、あまりの気分の良さについ息が溢れる。

「文句もねえよい。」
「そりゃあいい。ほら、もっと飲みやが…」

そこで言葉を止めたオヤジにどうしたと問いかけると、オヤジは月が雲の切れ間からのぞく空をちらりと見やる。
注がれたものを一口飲んで様子をうかがっていればオヤジが軽く笑って。

「いや、…だがせっかくの席を邪魔されるのも困るしなァ。」

…なるほど、望んでもいない来客があるらしい。
有名になるのはかまわないが美味い酒をゆっくりと味わうことができないのには参ったものだ。
気づかないなんて少し飲みすぎたかとおれも見上げようとしたところで隣のオヤジが覇気を振る舞う。
びり、と震えた空気に何事かと注目が集まる中、空から降ってくる人影はどんどんと大きくなって最後にはオヤジの手の上にどさりと転がった。
ぐるぐると目を回している来訪者はオヤジに首根っこを摘ままれ宙に浮いている。

「グララララ、名は何ていうんだ?ひとりで来た度胸は認めてやらァ。」
「わーお!金髪カワイコちゃん!」
「空から落ちてきたってことは…飛行系の能力者か?」
「お嬢ちゃん、おれたちのとこ攻めようってならもっと強くねえとだめだぜ。」

女でどうやら飛行系の能力者らしいそいつは単身で乗り込もうとしていたらしい。
無駄な装飾もなく軽装で年も若く見え、誰もが目を奪われるであろう金色の整った長い髪をふわりと揺らしている。
金の髪に飛行系の能力者か…何だか懐かしい気分になるなと思ったところでぴたりと思考が止まった。
いや待て、これは…

「……ナマエ、」

まさか、そんなはずは。
それほど大きくもない声だったが注目を引くには十分だったようで不思議に思った兄弟たちが次々とおれを見てくる。

「何だよマルコ、知り合いか?」
「どこで出会ったんだあ?紹介しろよー。」
「い、いや…」

想像もしていなかった人物の登場に答えあぐねていると、目を回していた来訪者の意識がやっと戻ったらしい。
よろよろと顔を上げれば現状を理解したのか小動物のように怯え始めるそれと目があって。

「おにいちゃん、たすけてえ…」
「「「……オニイチャン!!?」」」
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