『現在男子禁制!』

そう書かれた紙が張ってあるのは船医室のドア。
普段は海で泳いでいる私は今その部屋にいるんだけど…

「きゃあああ!?」
「フィル、大人しくなさい。」
「動いちゃだめよ。クルーの体調管理は私たちの仕事なんだから。」
「そうそう。この海の上で私たちに逆らうとひどいことになるわよ?」
「さてフィル?この船に乗ったからにはまず身体検査を受けてもらいますからね。」

私を囲むのは何人ものきれいなナースさん。
心なしか目をきらきらと輝かせながら私を椅子に座らせると、一斉に手を伸ばしてきた。
髪をさわる人、顔をさわる人、体に抱きつく人、尾ひれを撫でる人…それはもう楽しそうだ。
ただならない様子に身の危険を感じて立ち上がろうとすれば、すかさずナースさんたちに取り押さえられる。

「あ、あの、私元気ですから」
「だめよ。ちょっと失礼。」
「ひゃっ!?な!何するんですか!?」

いきなり上の服を捲り上げられて、じいっと観察されて。
お、女同士ですけどさすがに恥ずかしいです…!

「あら?あなたって結構着やせするタイプなのね。」
「本当ね。形も良いし…」
「きゃあ!?」
「すごくやわらかいわね、肌も滑らかだし。ふふ、人魚ってみんなこうなの?羨ましいわ。」

さ、さわられた…!!
さも自然なことのように私の胸やお腹に手を滑らせたナースさんたちはにっこりと笑顔をつくる。

「あああの、身体検査ってもっと別のことするんじゃ」
「これも立派な検査よ?」
「心配しなくても検査することはたくさんあるわ。」
「ほらほら、まだ始まったばかりよ。大人しくなさい。」
「ふふ、イイコにしていればすぐ終わるわ。」

カルテやらメジャーやら。
それぞれに何かを持って私を取り囲んだナースさんたちに、一切の抵抗が無駄だろうということを悟った。

ーー


「はい、マルコ隊長。特に異常もありませんでしたしフィルの体は健康そのものでしたよ。」

長い長い身体検査を終えて。
ナースさんたちに抱きかかえられながら部屋を出た私を迎えてくれたのはマルコさんだった。
だらりと髪を垂らした私を、マルコさんは無言で受けとる。

「…フィルがぐったりしてんのは気のせいかよい。」
「あら、そうですか?初めてのことだったので少し疲れたんでしょう。」
「…まあいいよい。ご苦労だったな。」
「いえ、私たちもこんなに楽しい仕事は久しぶりでしたから。それでは。」

ふふ、ときれいな笑い声をつけてナースさんたちは部屋へ戻っていった。
マルコさんは私を抱え直すと、今だぐったりとしている私に目をやる。

「…大丈夫かよい。」
「は、はい…。」

とりあえずそう返してしまったけれど、全然大丈夫じゃない。
私はただ椅子に座っていただけのはずなのに…今は返事をするのもやっとなくらい疲れきっている。

「もうわかってると思うが…あの部屋入ったらあいつらには逆らわねえ方がいいよい。」
「…そうですね、身をもって実感しました。」

マルコさんが同情しているように優しい声を出すので、きっとマルコさんも似たような目にあったことがあるんだろうなと何とも言えない気持ちになった。

「疲れただろい。今日は海でゆっくりすりゃいい。」
「はい…あ、」
「どうした?」
「あの、あとで話さないかってみなさんが誘ってくれてたんですけど…。」

用が終わるまで食堂で待ってるからって言ってくれた。
ここの人たちとお話しするのは楽しくて大好き。
私の知らないこの世界のことをたくさん教えてくれるんだ。
今日はどんな話をしてくれるのかな。
そんなことを考えていたら、マルコさんは何だか苦いものを食べたような顔をして。

「…悪いことは言わねえ。おれから言っとくから今日はやめとけよい。」
「え?でも、」
「頼むからやめとけ。フィル、お前のためだよい。」

頼むから、と再度念押しをされてしまって。
でもマルコさんがそこまで言うのだからと思ってうなずくと、マルコさんは申し訳なさそうな顔をして謝るのだった。
- ナノ -