「フィル!お前歳いくつだ!?」
「んなジュースばっか飲んでねえで!酒いるか!?うめえぞ!」
「足触っていいか!?尾ヒレも!」
「きれいな髪してんなー!何色だ!?これ!」
「フィル!人魚って何食うんだった!?肉食え肉!」

そりゃもうフィルは大人気。
マルコ助けた恩人で、美人で、そんでもって人魚で。
酒と料理追加して戻ってきてみりゃフィルが質問攻めくらってる最中だった。

「え、えっと、歳は今年でたぶん二十一になります。ジュースもおいしいですよ?お酒は飲んだことないのでわからないですけど…あとでいただきます。足は触ってもいいですよ。で、でも控えめにお願いします。あと髪は…少し蒼色がかってるんだと思います。それから食べるのは海草とかなのでお肉はちょっと…。」

フィルもフィルで全部の質問に丁寧に返すもんだから野郎共が余計に気分良くするわけで。
本っ当こいつらときたら…

「こらお前ら!フィルが困ってんだろうが!」

声を張り上げ手で追い払う。
その時の野郎共の残念そうな顔のこと。

「「えー!?」」
「無理矢理飲ますな!足も触るな!自重しろ!髪は…確かにきれいだな。あとエース!肉はお前が食ってろ!」
「歳は!?」
「ナイスだ!…じゃねえ!とにかく少しは落ち着け!」

少し本音がこぼれたのは仕方がないとして…おれが威嚇するとようやく落ち着き始めた。
フィルを見ると小さな樽に注がれたジュースを両手で持ちながら呆気にとられたような顔をしている。

「悪いなフィル、こいつら遠慮ってもんを知らなくてよ…。」
「いえ、こんなに賑やかな場所初めてです。ここの人たちは楽しい人ばかりなんですね。」

くすくすとフィルが笑うと薄く蒼色がかった髪が揺れた。
少しあどけなさの残る笑顔。
警戒されたときはどうしようかとも思ったが…今ではこうして笑ってくれるほどだ、そのことが素直に嬉しく思う。
まあこんな騒がれ方して寄ってこられりゃ警戒するのも馬鹿らしくなるよな…。

「うるせえだけさ。…おれはサッチ。この船の隊長格やってんだ、よろしくな。」
「よろしくお願いします。」
「サッチ!お前がフィルと話してえだけだろ!おれも話すぞ!」

ーー


それからもフィルには途切れることなく質問が相次いだ。
あちらこちらから飛んでくる声にフィルが丁寧に返して、そんでまた声が飛んできて。
ま、フィルも楽しんでいるようで何よりだ。
こりゃしばらくはおとなしくしてるかなと酒をあおった、その時だ。

「なあフィル、お前何でこんなとこにいたんだ?」

またどこからか飛んできた声。
ああ、そういやそうだなとフィルを見たところでその話題が地雷だったということに気がついた。

「それは、……」

フィルは言いかけて、そのあと沈黙してしまって。
言いよどむ様子にざわりと空気が冷える。

(…お、おい?これしちゃいけねえ質問だったんじゃねえ?)
(やっぱ訳ありか?)
(人魚だもんな、しかもこんなとこでひとり…。)
(デリカシーねえやつだな!誰だよ!)

ひそひそと。
慌てたように、または困惑したような声と顔。
今だうつむき加減のフィルにそっと声をかける。

「…悪い。答えたくねえならそれでいいから。」
「いえ!その、話すと少し長くなるんですけど…それでもいいですか?」

おれも他のやつらもうなずいてみせると、フィルは一度だけ笑ってみせた。
あまり良い話ではないんだろうと思う。
…あのな、笑うときはもっと楽しそうにするもんだぜ?

「確か…私が五歳の頃だったと思います。」
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