「コイツはおまけだよ。」

おじさんはにこにこしながらそう言うと、バニラアイスの上にチョコアイスをひとつ乗せてくれた。
二段になったアイスを差し出され、困惑しながらも受けとる。

「あ、ありがとうございます、」
「落とさないように気を付けてな。観光かい?」
「そう…ですね、はい。」
「そうかい、なら楽しんでいってくれ。羨ましいねえ、こんなべっぴんさん連れて。」
「ああ。美男美女でお似合いだろ?」

ふふん、とサッチさんが得意そうにすると、おじさんは可笑しそうにしながらもうひとつのアイスにもおまけをつけてくれた。
もう一度お礼を言ってからお店をあとにし、街の景観を楽しみながら冷たいアイスを味わう。
船の上で食べる四番隊のみなさんお手製のデザートに負けないくらいのおいしさだ。

「いいだろ、こうやって食うのも。」
「はい、おいしいです。」
「何だあ?普段よりうまそうな顔しやがって。おれがどれだけ丹精込めてつくってると…」
「ええ?そ、そんなことないですよ、」

サッチさんと一緒にいると話が弾むし、気がつけばたくさん笑っている。
こんなに楽しいのに、気持ちが浮わついたようにふわふわしてサッチさんの話が頭に入ってこないときだってあるんだ。
私に合わせてゆっくりとした歩調で歩いてくれていたサッチさんが、突然何かを見つけたように足を止めた。

「あそこ、寄っていいか?」

その先にあったのは色んな履き物が並んだ靴屋さんだった。
私と違ってサッチさんたちは毎日ほとんどの時間靴を履いて過ごしているわけで…その上他の海賊や海軍の人たちと戦闘なんてしていたらすぐ磨耗してしまうんだろう。

「靴が欲しかったんですね。」
「おれのじゃねえよ。ちゃんと合ったやつ買ってやりてえんだ。」

そう言ってサッチさんは私が履いているものを視線で指した。
これはナースさんがいくつか用意してくれたものの中のひとつを借りていて、なるべく自然な動きを心がけていたつもりだったけれどサッチさんには気づかれたようだ。

「ごめんなさい、気をつかわせてしまって…」
「いいっての。島着く度に買おうとしてたんだが…やっぱ本人が履いてみねえとわからねえからな。」

そう言いながらサッチさんが店先に揃う商品へ近づくと、店員さんがにこやかに挨拶をくれた。
様々なデザインの履き物が陳列されていて、見ているだけでも楽しくなる。

「かわいい…」
「急がねえからゆっくり選べよ。」
「ありがとうございます。」

きらりと輝く装飾のついたものや、花飾りがついたもの、シンプルなデザインのもの…見た目はもちろん、靴の形も色々だ。
ナースのみなさんは島での買い物が楽しくてついつい時間を使ってしまうなんて言っていたけれど…その気持ちがよくわかるなあ。
視界に入りやすい上段にあるものを立って眺めていたところ、隣で下段に並んだものを屈んで見ていたサッチさんが声をかけてきた。

「それ疲れねえか?」
「え?」
「ヒールだよ。無い方が歩きやすくねえか?姉さん方もその辺気にしてやりゃ良かったのになあ…」
「ち、違うんです、」
「ん?」
「これを選んだのは、その、私で…」
「お前が?」

サッチさんは心底不思議そうな顔をしたあと、少し気まずくなったのか頬を掻きながら視線をそらした。
気にしないでほしいと私が告げたものの、サッチさんの表情は晴れない。

「まあそこまで高さがあるわけじゃねえけど何で…ああ、ヒールあるやつしかなかったのか?」
「いえ、無いものも出してくれたんですけど、その…」
「じゃあ何でだ?履き慣れてねえだろ。」
「そ、それは………かなって…」
「何だって?」

大事なところが聞こえにくかったようで、サッチさんは立ち上がって私に一歩近づいた。
もう一度と促すようにじっと見つめられてしまい、途端に心臓の動きが速くなる。
しどろもどろになる私にサッチさんが問い直してきたので、覚悟を決めて声を絞り出した。

「こっちの方が好きかなと思って…」

い、言ってしまった、恥ずかしさで顔が熱い。
この状況なら『誰が』なんて明らかだろう。
船に乗っているナースさんはみんな高さのある靴を履いていたし、その方がきれいに見えるんじゃないかとか、もしかしたらこういう靴の方が見慣れている分好きなんじゃないかとか…いろいろと考えた結果だったんだけれど。
どう思われるだろうかとどきどきしながら待っていると、サッチさんはくるりと背を向けて。

「…一本吸ってくる。外いるからもし決まったら呼んでくれ。」
「え?あの、」
「好きなの選べ。お前が好きなやつ。それでいいから。」

それだけ言うと、サッチさんは戸惑う私の横をさっさと通りすぎてお店の外で煙草を吸い始めてしまった。
そのときのサッチさんの顔がわずかに赤みを帯びていたから、私は思わず商品を見るふりをしてその場に屈んだのだった。
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