「放してください!」
「お、おい!?逃げようとすんなって!」

おれの腕の中でばたばたと暴れる人魚。
上はおれたちと何ら変わらない姿で、触れた感じも人間の女そのまんま。
けど腰から下は足の代わりに尾ひれがあって、鱗がついていて。
何つーか…でっけえサカナ捕まえてるみたいで変な気分だ。

「人魚!?おいサッチ!早く連れてこい!」
「見てえ見てえ!早く上げろ!」
「魚人島以来か!?久しぶりだなあ!」

船の上は一層騒がしくなる。
いやいや、おれもそうしてえけどこの人魚さんがおとなしくしてくれねえのよ。
まあ人魚だからな、人間…それも海賊なら嫌がって当然か。

「お願いです!放して!」
「悪いな、ちょっと手荒だけど許してくれよ。」
「きゃっ!?」

ぐい、と力に任せて担ぎ上げたあともう一方の手でロープをしっかりとつかむ。
…お?この人魚さんってば見た目よりも発育がよろしいようで。

「おい!上げてくれ!」

ーー


「うお!こいつはまた美人さんだなあ!」
「見ろよ!きれいな鱗だ!宝石みてえ!」
「人魚ってどれくらいの速さで泳げるんだ?勝負しようぜ!」
「「「マーメイドゥー!マーメイドゥー!」」」

船に上がったあと。
特別に用意された椅子にさっきの人魚を座らせて、そこからは大騒ぎだ。
質問攻めするやつ、目ェ輝かせるやつ、だらしねえ顔を引っ提げて踊るやつ…そんな男どもに囲まれた人魚は困惑するばかり。
けど、このどうしようもねえ家族をまとめられるのがこの船の船長であるエドワード=ニューゲート。

「アホンダラ。そんなに見てやるんじゃねえよ、緊張しちまうだろうが。…礼が遅くなってすまねえな、さっきはおれのバカ息子を助けてくれてありがとうよ。」

オヤジの存在に人魚はぽかんと口を開けて驚いている。
…何だ、オヤジのことも知らねえのか?
魚人島はおれたち白ひげのナワバリだからおれたちのことは知らなくてもせめてオヤジのことくらいは知ってると思ってたんだけどな…。

「い、いえ。水もそこまで飲んでないみたいでよかったです。」
「グラララ。おいマルコ、命の恩人だぞ。そろそろ礼のひとつでも言ったらどうだ。」

オヤジの一言を受けたマルコが人魚の前にやってくる。
一番隊隊長サマはもう完全復活したらしい。

「マルコだ。さっきはすまなかったな、助かったよい。」
「フィルです。能力者さん…なんですよね?無事でよかったです。」

フィル。
ぐるぐるとその言葉が、名前が頭を巡る。
…いい名前だ。
それに笑った顔がきれいだと思った。

「いろいろ話もしてえしな、どうだい一緒に。」
「え?」
「白ひげ流の礼ともてなし、たっぷりと受け取ってくれよい。」

マルコの言葉に野郎共が雄叫びをあげて反応する。
さて、飯と酒の追加でもしますか。
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