「何でなんだよー!」

おはようございますと挨拶をしたからてっきり同じ言葉が返ってくると思っていたのに、突然そんなことを叫ばれるとびっくりしてしまう。

「え?わ、私何かしてしまいましたか?」
「「「それ!!」」」
「それ…?」

揃って指し示された先はどうみても私の下半身。
まだよくわからなくて眉を寄せていると、みなさんが次々と指摘してきた。
どうやら私の格好に問題があるらしい。

「せっかくなんだからもっとこう…!な!?」
「そうだ!特に姉さん方を見習え!」
「で、でも恥ずかしいですし…」
「その恥じらいがまた良…ぐふっ!」
「恥ずかしいならこういうのでもいいから!」

そう言うと自身のズボンをパシパシと叩いてみせられた。
私が今着ているものはふわりと柔らかい生地のスカートで、足首まで隠れる長いもの。
足が変化した直後にナースさんに貸してもらった服なんだけれど、ありがたいことに私にくれると言うのでそのまま着させてもらっている。
でもそれだけだと不便だからって違うもの…それこそみなさんがさっき言ったようなものを次々出してくれたんだけれど、馴染みがなかったりやっぱり抵抗があったりして半ば逃げるような形で部屋から出てきたというわけだ。

「一度試してみたんですけどその、足に服が引っ付いてる感覚に違和感があって…」
「大丈夫、何事も慣れだ!」
「そうそう!新しいことに挑戦すると思って」
「ずいぶんと楽しそうなこったなァ、ああ?」
「「「!!」」」

あ、この声は。
くるりと振り返れば、いつもの髪型ではなく後ろでひとつにまとめたサッチさんが近づいてきた。
今ではもう当然慣れたけれど…最初の頃は髪型が違うと一瞬誰かわからなくなってたなあ。

「サッチさん。今日はお休みですか?」
「おう。おれも混ぜろよ、何話してたんだ?」
「いいいえ、何でも」
「せっかくこの姿になったんだから服装を変えてみたらどうかって…」
「こ、こらフィル…!」

え?と視線を返せば「いや何でも」と言われてしまって。
何だかたどたどしい様子を不思議に思っているとサッチさんに声をかけられた。

「いい機会じゃねえか。例えば?」
「…ナースのみなさんみたいな短い丈のものとか、スカート以外のものとか…」
「成程。気分変えるにゃいいんじゃねえの?それにそういうのは野郎にも受けるんだぜ?」

今まで着飾って楽しむということがなかったからそういうことに目を向けるのもいいかもしれない。
なるほどなあと納得していればサッチさんはもう私を見ていなくて、その表情が違和感を覚える笑顔だったので何となく私も視線を追った。
すると。

「そ!そういや今日はわた雨が降ってくるかもしれねえって航海士が言ってたぞ!」
「!そそそうだったな!フィルちょっと上行って来いよ!」
「隊長と一緒に!な!!」

提案…にしてはみなさんが必死すぎるように見えるのは気のせいだろうか。
その雰囲気に返事を躊躇っていると、最終的にはお願いだからと懇願されるような形になってしまった。

「…は、はい。そうします。」

じゃあ行くか、と後ろから声がかかり甲板へと足を向ける。
わた雨というと、空からふわふわの甘いわたあめが降ってくるという不思議な現象だ。
味も違う色とりどりのそれは見ているだけでも楽しく食べるともちろんおいしいので、みなさんのはしゃぐ姿がきっと見られるはず。
…それはそうと。

「…サッチさん、」
「ん?」
「サッチさんも…短い方が好きですか?」

男性に受けるというと…サッチさんもそうなのだろうか。
それで好きだったらどうこうというわけじゃなくて、ただ気になるというか…知りたいと思ってしまって。
遠慮がちにサッチさんを見てみるとぱちりと目が合ったものの、一秒と経たないうちにふいと視線をそらされた。
返答に困っているらしいその姿は珍しくてついじっと見てしまう。

「まあ……見て悪い気はしねえとだけ。」

やっぱりそうなんだ。
でもサッチさんにしては小さい声だなあと思っていると、サッチさんとの距離がだんだんと開いてしまっていることに気がついた。
追い付こうとペースを上げようとしたところで足がもつれてしまい、咄嗟に壁に手をつく。

「っと…大丈夫か?」
「は、はい。」
「まだ慣れねえなあ。」
「…すみません。」
「謝らなくていいっつの。」

苦笑したサッチさんに追い付き再び甲板を目指す。
今度は距離が開くことはなかった。
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