「どうした?」
「マルコ隊長が海に落ちたらしいっす。」
「何だあ?マルコ助かってるじゃねえか。」
「けど誰だよ、船のやつじゃねえぞ?」
がやがやとみんなが集まってきた。
海面から体を出しているのはぐったりしているマルコと、そのマルコを支えている髪の長い女。
何だ?遭難者か?
けどそれにしちゃあずいぶんと…
「あの!ロープか何か降ろしてもらえませんか!?」
澄んだ声が耳に届く。
やっぱりだ、声に張りがあるし遭難者のそれじゃねえ。
…っと、今はそんなこと考えてる場合じゃなかったな。
「ああわかった!ちょっと待ってろ!」
そこからすぐにロープを用意して下に降ろした。
おれたちの中じゃマルコは軽い方だといっても女ひとりじゃ抱えるのは無理だろう。
「おいマルコ!掴まるくらいできるかー!?」
声は出さなかったが片手をゆらりと返してみせる。
何人かで引き上げると、マルコはぐったりと甲板に倒れ込んだ。
「マルコ大丈夫?」
「何とかな…。エース、あとで覚えとけよい。」
「…スミマセンデシタ。」
くたばっていても鋭い眼光は健在。
さあっと顔を青くしたエースにご愁傷さまとみんなが声をかけている。
まあこれでマルコは助かったな、あとは…
「おい!お前も上がってこい!遭難者か!?」
海にいる女に向かってロープを降ろす。
遭難者じゃないとは思うが、それ以外でこんなところにいる理由が思い浮かばない。
「ち、違います。あの、それじゃあ私はこれで…」
…お、おい?ちょっと待て?
遭難者じゃねえってことはまだいいとしてもだ、何でどっか行こうとすんだよ。
「ちょっと待ちなよ。放っておけるわけないじゃん。」
「早く上がってこいって!風邪ひいちまうぞ!」
「仲間を助けてくれた礼させてくれよ!」
当然他のやつらもおれと同じことを思ったらしく、次々と言葉を投げかけていく。
なのに女は一向に首を縦に振ろうとはせず、ただただ居心地悪そうに船から離れようとするばかり。
「あの、本当に大丈夫ですから私のことは」
「あーもう!」
焦れってえ!
そうひとり叫ぶと海に向かって飛び降りた。
「ぷはっ!…悪いな、お前の言うことは聞けそうにねえわ。」
すぐ近くで顔を出すと、驚いた女が口をぱくぱくと開閉させる。
…ああ何だ、暗くてよくわからなかったが近くで見りゃイイ女じゃねえか。
「いいぞサッチ!」
「隊長のそういうとこ最高ッス!」
「早く連れて上がってこい!」
わいわいと上から声がする。
言われなくてもそのつもりだ。
女を見るとおれを警戒しているようで、浅く短い呼吸を繰り返している。
「怖がるなよ、別にどうこうしようってわけじゃねえ。ただちょっと礼がしてえだけ…」
「ひゃ!?」
ぬるり。
おれが触れたのと女が声を出したのと、変な感触がしたのは同じ瞬間で。
…い、いや待て?
おれは膝裏持って抱えようとしたんだ。
けどさっきのはどう考えても足触った感覚じゃねえ。
つーか…膝、あったか?
ばしゃ!
海に潜って、その部分を見てわかってしまった。
薄暗い視界だったが、あれは確かにそうだった。
「どうした?」
「怪我してんのか!?」
何でお前がびっくりしてんだよ。
おれの方が驚かされたぞ。
どうしたもこうしたもねえ。
怪我してるなんてもんじゃねえ。
「こいつ…人魚だ!」