「おーい!朝のこと記事になってるぞ!」

ばたばたと慌ただしくも無事出航し、穏やかな波に揺られての航海が再び始まった。
対応が一段落つくと家族の注目は当然フィルへと集まり日が落ちた今でこそ落ち着いたが…それまではすごい騒ぎで。
訳あって出航の際に海軍を落としたことも一因となり、夜の甲板はいつものごとく宴会場と化している。

「うおー!上手く撮れてんな!」
「『不死鳥マルコ、海軍を挑発か?』だってよ!」
「隊長格好いいっす!」

上からばさりと各方面に放られる数部の新聞。
一面には海に沈み傾く軍艦と、その一隻の船頭に立ち青い炎を広げているマルコの写真が大きく掲載されている。

「どれどれ?…うわ、お前悪そうな顔してんなー。」
「ねー。」
「睡眠妨げられてイラついてたんだよい。」

家族からの称賛、そしてエースたちの言葉も軽く受け流して酒をあおるマルコ。
本当のことを知っているおれからすれば、らしい理由をついてみせるのは鼻につくというもの。

「どうだか。不要な戦闘は避けろとか言ってたのはどこのどいつだったっけなあ。」

そのあと三人分の視線を感じとることができた。
しかしそれには返さず手に持った樽を黙って傾ける。

「さっき言っただろい。叩き起こされてイラついたから」
「へェ?おれの話聞いて飛んでったくせにか?」
「…やけに突っかかるじゃねえかよい。」

…あーくそ、いちいち腹立つ野郎だなお前は?
おれがブッ潰してえと思ってたんだよ!一番!最初に!!

「お前少し特別だからって調子に乗りすぎなんじゃねえ?」
「ああ?」
「軍艦三隻程度なんてなあ、おれでも簡単に落とせんだよ。」

不可解そうな顔を浮かべていたマルコも察しがついたのか少しの間の後にくつくつと堪えるように笑いだして。
普段なら難なく流すことのできるその姿も今は余計に腹立たしい。

「そっくりそのまま返すよい。それにおれからすりゃお前の方がよっぽど執心」
「マルコさんよォ、ちっとばかし口が過ぎるんじゃねえの?」
「くくっ、本当のこと言われんのが怖ェのかよい?」

ばちりと向け合う鋭い視線。
別におっ始めようというわけじゃなく、本気で怒っているわけでもねえ。
ただいつも余裕かましてやがるこいつを少しばかり打ち負かしてやりてえなという程度で、ほどほどに入った酒がそれを助長しているということだ。

「…ハルタ、何とかしろよ。」
「やだよ面倒くさい。それに面白そうじゃん…はいはいふたりとも、宴の席なんだからそれ以上はこっちで争ってよね。」

そういってハルタがおれたちを割るように置いたのは二本の酒瓶だった。

ーー


ここ数ヵ月、そう見せることはあったもののまともに酒をいれてこなかったから今回の量が許容範囲を軽く超えているのは自分でもわかったし、それはきっとマルコも同じだったんだろう。
これは相当やばいことになるなんて容易く想像できたが途中で負けを認めるという選択肢はどちらにもなく、観客も増えたその場の雰囲気も手伝ってか熱は上がっていく一方で。
終いには今回の事に至った経緯さえ忘れて…いつものように根性競べをしていると思い違えるほどだった。
騒ぎが収まったのは心配する家族が出てきたころ。

「はーい、サッチの勝ちー。」
「…ッしゃあ!!」

空になった物をドンと甲板に叩きつけると同時に周りで見ていた家族からの歓声やらが聞こえてきた。
甲板に伏せているマルコは肩で息をしている。

「見たかエース!おれの勝ちだ!」
「はいはいすげえすげえ。おいマルコ、大丈夫か?」
「…見てわからねえかよい。」
「あーもー飲みすぎなんだよ。水持ってきてやるから…」
「オヤジ見てくれたかー!おれが勝ったぞー!」

瓶を持った方の手を高々と上げるとオヤジがそれに応えるように盃を掲げてくれるから気分がいいことこの上ねェ。
…ぷはッ、勝った後の酒は格別だな!

「そろそろ止めとけば?明日絶対キツいよ?」
「ンだよ、おれはまだいける…お、」
「どしたの?」

ちらりと見た先にはひとつの小さな姿。
邪魔なやつがやっと消えたのを確認していると、その相手と偶然目があった。
一瞬の間はあったがいつものようにやわらかく微笑んで、それからぺこりと頭を下げられる。

「何でもねェよ。お前らはそいつの介抱でもしてな。」
- ナノ -