「この肉料理うまいなー!」
「こっちもおいしいよ!くせになりそう!」

この島は最高だな!
虹はきれいだし食べ物はうまいし…この島のやつらも観光目当ての客や海賊に慣れているらしくおれたちでも思う存分楽しめる。
特に…さっき買った肉料理!食感も味も次々と変わって本当面白いんだ!しかもうまいから文句もねえ。
…まあそれでも言うならこれの倍のサイズが売ってりゃよかったな、うん。

「あ。あれサッチじゃない?」
「本当だ。」

ハルタに言われて視線の先を追ってみる。
50メートルほど先の角から出てきたのは白の上下に首もとには黄色のスカーフ、そしてやっぱり目立つリーゼント。
ズボンのポケットに両手を突っ込んで煙草をふかしていて、周りには家族の姿もなくどうやらひとりらしい。

「そうだ、サッチに言ってここの飯船でも出してもらおうぜ。」
「さんせー!」

ふたりで白い背中を追いつつ声をかけた。
けど聞こえていないのかそのまま歩き続けるサッチにハルタとふたり揃って首をかしげる。
いつもなら気づいたサッチが顔だけこっちに向けるか、おれたちが声をかけるよりも早く気配を感じ取って立ち止まる…といった感じで。
珍しいなと思いながら背後に近づき背中を叩く。

「サッチ!」

サッチの広い背中はがっちりと肉付きがよくて、鍛えられていて固くもあるから叩くといい音が鳴るんだ。
やっぱり気づいていなかったらしくびくりと反応したサッチはゆっくり振り返った。

「…ああ、エースか。驚かせんじゃねえよ。」
「サッチがぼーっとしてるからだろ。」

眠そうというかやる気がなさそうというか…振り返ったサッチはそんな印象で。
何だろうなあと思いながら眺めているとそれが過ぎたのか指で額を押されてしまった。

「どうした?今日しかねえんだからしっかり遊んどけよ。」
「そのつもり。ねえ、これ船でも出してよ。」
「あとこれも!ここの飯すげえうまいぞ。船でも食いてえ。」
「りょーかい。」

サッチはまだ食べていないらしく店の場所を訊いてきたのでハルタに交代。
おれたちが島に降りてから軽く三時間は経ってると思うけど…なのにまだ島のものに手をつけていないようだ。
腹減ってねえのか?サッチはおれみたいに量食うってわけじゃねえからな…。

「このあと酒場行くけどサッチも一緒にどう?」
「あー…今日はそういう気分じゃねえんだわ。悪いな。」

今日のサッチはことごとく珍しい。
サッチが飲みの誘いを断るなんて…じゃあどういう気分なんだ?
まあ一日しかないしこのあと食材も料理も見るだろう。
そうじゃなくてもこの島ならずっと散歩してても十分楽しそうだ。

「そっか。何か適当に買っとこうか?」
「サンキュ。頼むわ。」
「おう。」

やり取りが終わるとサッチはじゃあなと背中を向けて歩いていってしまった。
その後ろ姿はどこか目指す場所があるようにも見えない。

「…変だったな、あいつ。」
「いつも変だよ。…まあ今日は特にかな。」

ハルタもやっぱりおれと同じことを思ったようでじっとその背中を眺めている。
しばらくしてその姿が人混みに消えると、どちらともなく歩き出した。

「…おいしいの、買って帰ろっか。」

酒場へ向けて歩いている途中ハルタがそんなことを呟いて。
口の中のものを飲み込んだあと、そうだなとだけ返した。
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