「うおー!」
「すげえ!!」
「どうなってんだこれ!!!」

船頭で身を乗り出したりマストや見張り台に登って上から眺めたり、新しく着いた島にみなさん興味津々のようだ。
もちろん私もだけれど。

「すげえな、島中虹だらけだ。」
「…きれいです。こんな島があるんですね。」

いつもなら若い人たちの反応を後ろから見ているサッチさんも今回ばかりは一緒になって驚いているみたい。
今回立ち寄ったところは島全体にかかる大きな虹が目を引く島で海岸や森、それにここから見える中心街にも大小様々な虹があちこちにかかっていて…それはもう見ているだけでわくわくしてくる島だ。
すぐにでも駆け出してしまいそうなみなさんに待ったをかけるのはマルコさんのお仕事。

「お前らいい加減落ち着けよい。いいか、さっきも言ったがこの島の近辺で海軍を見たって情報がある。明日の昼に出航する予定だが念のために全員朝までには戻ってこいよい。それから各隊長は必ず電伝虫を携帯…」
「要は気を付けろってことだろ!じゃあお先!」
「隊長おれも!」
「エース!虹肉あるって!それ食べよ!」

…マルコさんって上陸の度に頭を抱えている気がするなあ。
颯爽と船から飛び降りたエースさんを見て我慢できなかった人たちがそのあとに続く。
まだ迷って足踏みしていた人もマルコさんが諦めたように合図を出せば苦笑しながら、それでも軽やかに船を後にした。

「グラララ。マルコ、お前も大変だなあ。」
「…オヤジも笑ってねえで何か言ってくれよい。」

手にしていた数枚の書類に顔をうずめたマルコさんはやっぱりため息をついている。
そんなマルコさんには悪いなと思うけど…島につく度に見られるこの光景が私は好きなんだ。

「もっと気楽に考えりゃいいのにな、あいつも。」
「ふふ、…でもマルコさんみたいな人も必要だと思いますよ。」
「そりゃそうだ。」

上陸前のお話は自然と終了してしまい残っていた人たちも揃って島に足を向ける。
まだ船にいるのはマルコさんと船番の人たち、それに数人のナースさん。
隣のサッチさんはというと…陸を背にして船にもたれながら煙草をふかしていて動く様子はない。

「サッチさんは行かないんですか?」
「…それ聞くか?」
「え?」
「いや、…行く。けど男ひとりは寂しいだろ?誰か一緒に行ってくれねえかなと。」

そう言ってサッチさんはじっと私を見つめる。
サッチさんの言う誰かとは、つまり、

「わたし…ですか?」
「そ。おれとは嫌か?」

こんな誘われ方をされたのは初めてで少し戸惑ってしまう。
私に向き直るように体勢を変えたサッチさんに慌てて首を横に振った。

「も、もちろん嫌じゃないです。でもやっぱり迷惑かけたくないですし…ナースさんも何人か船に残るそうですからお話ししてます。」
「だからひとりで行ってこいってか?」
「そ、そういうわけじゃ…」

何だか今日のサッチさんはいじわるらしい。
むっとした顔をされるのでどう返そうか迷っていると、突然手がのびてきてわしゃわしゃと髪をかき乱された。

「冗談だ。隊のやつらと遊んでくるっつーの。」

上からくつくつと笑う声が降ってくる。
乱された髪を手で整えながら顔を上げたときにはサッチさんは私の目の前からもう消えていて。
辺りを見渡していると下から呼ばれたので船から顔を出せば、すでに島へと降り立ったサッチさんが片手を上げているのが見えた。
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