「いただきます。」

海で泳いでいたらエースさんが一緒にお昼を食べに行かないかと誘ってくれて。
食堂へ向かうと昼下がりだったためか人はまばらで簡単に座ることができた。
エースさんはお肉中心の料理、私は海草や野菜中心の料理がお皿に乗っていてあとは器の大きさが違うお揃いのスープ。
メインの料理はもちろんサラダやスープでも味付けは毎日違うものでそのどれもがすごくおいしいし、この船の人たちが毎日ご飯の時間を楽しみにしているという気持ちがわかる。

「フィル、お前もっと食った方がいいぞ?肉つけろ。」

右の頬をいっぱいに膨らませながら話すエースさんを見て器用だなあと思う。
自分のお皿に視線を移せば確かに私はこの船の人たちと比べたら乗っている量は格段に少なくて、ナースさんと同じかそれよりも少ないくらい。
でも決して遠慮しているわけではなく、むしろ四番隊の人たちがこれもあれもとお皿に乗せてくれるので毎回食べ過ぎかなと思っているほどだ。

「そうですか?でも私ここにお世話になってからその、少し太ったと思うんですけど…」
「そーかあ?」

頬を触っていると心底不思議そうな顔をしたエースさんが手を伸ばしてきて私に続く。
少し小難しい顔をしながら確かめていたけれど、しばらくするとうーんと唸りながらその手を引っ込めて。

「気にするほど変わってねえと思うけどなあ。」
「そうでしょうか。」
「そうそう。だからほら、食べろって。」

またぱくりとご飯を頬張ったエースさんに言われて私もそれじゃあとスープに手をつける。
今日はカボチャのスープだそうで、飲むと甘くてまろやかな優しい味。
そっとカップを置いて一息ついた時、正面のエースさんがお肉の塊に顔を埋めるように倒れてきた。
どうやら眠くなったみたい。
こんなおいしそうなクッションならきっと良い夢が見られそうだなと思いつつバターの香る貝を一口食べたところでさっきのやり取りを思い出す。
ここのご飯はとてもおいしいから私もつい食べすぎてしまうのかもしれない。
エースさんは気にするなと言ってくれたけれど…でもやっぱり気になるなあと頬をぺたぺたと触っていると。

「どうかしたかよい。」
「マルコさん」

少しまぶたの重そうなマルコさんがサンドウィッチとコーヒー、それと新聞を持ってやって来た。
くあ、と大きなあくびをして気持ち良さそうにぐっすり眠るエースさんの隣に座る。

「いえ、ここに来てから少し太っちゃったかなあって。」
「それでいいんだよい。来た頃はナースがたくさん食わせろっつってたしな。」
「そうなんですか?」
「そうなんだよい。」

思い返してみると最初の頃はもっと食べろと強制的にお皿に乗せられる量が今よりも多かった気がする。
きっとナースさんたちからそうするように言われていたんだろうな。

「フィルは寒いの苦手かよい。」
「…少し。どうしてですか?」
「冬島にも寄ろうかと思ってるんだよい。いろんな島見てえだろ?」

ふっと表情を崩したマルコさんに自然と笑顔になる。
うなずきながら返事をすれば、なら決まりだなと優しい顔を返してくれた。

「…雪、楽しみです。今までは海が冷たくてそういう島に近づけなかったから。」
「そうかよい。」

話を聞いただけでわくわくしてしまう。
前に聞いた話だと甲板いっぱいに雪が積もると像をつくったり雪玉をつくったりしていろいろと遊ぶらしい。
たくさん遊んだあとは四番隊のみなさんがつくったお汁粉という飲み物で温まるそう。
…わ、私また食べ物のこと考えちゃってた。

「フィル、ちゃんと食ったかー?」

呼ばれて振り向くと今日初めて出会うサッチさんの姿。
…そういえばサッチさんには私がちゃんと全部食べたかどうかよく確認されていた気がしなくもない。
サッチさんもナースさんから聞いていたんだろうなと思う。

「すごくおいしかったです。ごちそうさまでした。」
「おう。んじゃこれも食え。」

そう言ってサッチさんが私の目の前に小さなお皿を置く。
その上には丸く透明なものがのっていて、中にはゼリーでつくったという小さな貝殻や星の形をしたものが見えた。
ふるふるとやわらかそうで前に一度食べさせてもらったヨウカンというものに似ている気がする。
でもあれよりももっときれいで…かわいいつくりだ。

「…きれい。食べるのがもったいないです。」
「…お前本当に器用だな。んなツラしてんのによい。」
「おれにかかりゃこんなもんよ。あと一言余計だ。」

サッチさんは私の隣に腰かけると、机に肘をつきながら食べるようにすすめてきて。
付いていたフォークのようなものを入れればやわらかいそれは簡単に切れた。
しっとりとしていて、すごく上品な甘さがとてもおいしい。

「おいしいです。」
「おう。」

満足そうに、嬉しそうに笑ったサッチさんを見ると何だかあたたかい気持ちになる。
上手くは言えないけれど…嬉しくて幸せな気持ち。

「エースが起きる前に食っちまえよ。」

くつくつと笑いながら席を立つサッチさんにお礼を言う。
ひらりと片手を上げて調理場に戻っていくサッチさんの背中を私はずっと眺めていた。
- ナノ -