お風呂からあがってみると確かに着替えが確認できた。
たぶん先生のものなんだろう、シンプルなトレーナーとジャージのズボンが置いてある。
少し大きいけど…とりあえず問題はなさそう。
それよりも服からその…あれだよ、せ、先生の私物ということは当然先生も着てるわけで…

「……」

…だ、だめだ!これ意識したら余計にだめなやつだ!
というか早く出よう!一応先に入らせてもらってるんだし!

がちゃ。

「先生、お風呂いただきまし…」

…何だろう、衝撃の連続でついに目がおかしくなったのかなあ。
先生が…料理?

「飯、できてんぞ。」

腕捲りをした先生は出来たばかりであろう料理の並ぶテーブルにコップやお箸を置いている最中だった。
…おかしい、絶対におかしい。
半年間先生を見てきたけど…家庭的なイメージなんて一切与えてくれなかったぞ?

「…」
「…ああ、ドライヤーか。近くにあっただろ。」
「いや、そうじゃ…」

乾かしてこい。
準備をする手を止めて私をじとりと見た先生がそんなことを言っているような気がしたので、おとなしく従うことにした。

ーー


「そこ座れ。酒は?」

髪を乾かして戻ってきても、先生に対する違和感はぬぐえない。
というかこの状況にまだ戸惑いを隠せない私がいる。
そんな私を知ってか知らずか先生は特に気にする様子もなく話しかけてきた。

「い、いえ、出来ればお茶で…」
「熱いのと冷てえの、どっちだ。」
「、じゃあ暖かいのを…」
「ん。」

返事のあと、ケトルのスイッチが入った。
沸騰するのは早く、もしかしたら一度沸かしてあったのかもしれないと思う。

「どうした、食わねえのか。」

お茶をいれながら先生が訊いてきたけど、何だか答えにくい。
もう日が変わっているのでお腹はもちろん空いている。
それでいて食べようとしないのは変に落ち着かないのと、自分から新しい行動をとりづらいからだ。

「えーっと…」
「嫌いなもんあったか?」
「いえ!…いただきます。」

……、普通においしい。
女子として悔しいとかそんな感情は一切なく、おいしい以外に何かあるとすれば驚きくらいだと思う。

「どうだ。」
「…おいしいです。」
「ならいい。」

そう言う先生の表情はさっきからちっとも変わらない。
間違いなく先生がつくったものなのに、まるで他人事みたいだ。
次いでテーブルに置かれたお茶にお礼を言うと、先生は立ち上がり部屋を出ていこうとする。

「…先生は食べないんですか?」
「風呂入ってくる。おれのは別に取ってるから食えるなら全部食っていいぞ。」

そう言い残して先生はお風呂場へ向かってしまった。

「…ごゆっくり。」

取り残された私はまたもやひとり呟く。
私は、私の知らない先生が増えていくことにただただ驚くばかりだった。
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