それから車で小一時間、途切れとぎれの会話をしながらマンションに到着した。
…うん、ここはどこだ?
私はてっきり駅まで送ってくれるものだと思ってたけど、ここは駅でもなければ私の住むマンションでもない。
「さっさと降りろ。」
「!はい、」
すたすたと先を行く先生を早足で追いかける。
エレベーターに乗って歩いて、止まった場所は見慣れない部屋の前。
部屋の前には見慣れない部屋番号。
そして慣れた手つきで部屋の鍵を開ける先生。
まさか、まさか。
「…あの、ここってもしかして…」
「おれの家だ。」
いつもと変わらない調子で答えた先生は愕然とする私を置いて部屋の中へ。
ぱちりと照明がつけられると見慣れているような、けれど確かに初めて見る光景。
私が言葉を失い立ち尽くしている間、先生は何ら気にする様子もなく事を進めている。
「…せ、先生!」
「あの時間だったら駅行っても終電過ぎてただろ。ほら、荷物寄越せ。」
「え、あ、」
「それ、適当に使っていいから風呂入れ。」
先生は困惑する私から鞄を引ったくると同時に何やら荷物を押し付けてきた。
何だと思って見てみると、タオルがいくつかと液体の入ったボトルなどなど…お風呂場で使いそうなものが揃っている。
「じゃ、じゃあ私のマンショ」
「入れ。」
反論すら許されないままに浴室に押し込まれ、さらには扉をぴしゃりと閉められた。
私に許された行動はひとつしかないようだ。
ーー
ー
ぽちゃん。
「(はあ…気持ちいい。)」
……ってそうじゃない。
なぜ私は今、お風呂に入っているんだろう。
いや、気持ちいいし落ち着くしお風呂には何の罪はない、ないんだよ。
展開が急すぎて流されちゃったけど(お風呂だけに)、ここからはしっかりしなきゃいけない気がする。
というか先生は熱めのお風呂が好きなんだろうか…私の家より温度高めだし。
「フィル」
もくもくと考えていると一枚挟んだ扉の向こうから知った声。
びくりと反応したせいで浴槽のお湯が大きく波打つ。
「せ!せんせいストップ!待って!絶対に開けないでくだ」
「うるせえ。着替え、外置いてるからそれ使え。」
「……」
しばらく経ったあと、感謝の言葉がぽつりとこぼれた。