「…ん、」
どさりと重そうな音に目が覚めた。
顔をあげると近づいてくる人物がひとり。
体を屈めて私をのぞき込んだ先生は少し疲れたような顔をしている。
「…せんせい?もう終わったんですか?」
あのあとも先生を眺めていたものの、だんだんと眠たくなってきて。
ちょっとだけ、ちょっとだけ。
そんな軽い気持ちで目を閉じたのがいけなかったらしい。
「バカ。見てみろ。」
「………、!?」
目の前に突き出された先生の携帯。
その画面には『23:16』の表示。
私がこの部屋に来たのが18時すぎで…どう考えても寝過ぎだあああ!
「す、すみません!」
「…帰るぞ。」
鞄やら上着やらを適当に引っ付かんで帰る準備を始めた先生を見て、慌てて私も立ち上がる。
来たときよりもずいぶんと足の踏み場があるところを見るに、先生は終わってから本の整理をしていたらしい。
私が寝てなかったらその時間で先生とご飯行けたかもしれなかったのに…最悪だ。
「着いてこい。」
外に出てみると夜風が気持ちいい。
振り返らずにそれだけ言い、先生は夜道をまっすぐ進んでいく。
この方向は先生が車を停めている場所。
…先生、駅まで送ってくれるつもりなのかな。
私の予想通りそう遠くない距離に先生の車はあって、無言で乗るように促された。
「ありがとうございます。」
先生からの返事はなく、代わりに聞こえてきたのはエンジン音だった。