「こっち向いてチェリー」の続き






…かわいい。
何て可愛いんだ。



跡部部長。



俺のものに、なってくれますか…?



二度目の、俺からのキスは深く長いものになった。
さっき触れただけだった部長の唇は部屋の温度であたたかくて―――
本当はずっと触れたかった部長の温度に、俺自身の熱も上がっていった。

「…ん、」

目を閉じたまま眉を顰めて、吐息を漏らす部長。
興奮した。
唇を離せば唾液が糸を引く様を見て、部長は頬を赤らめて目を逸らした。

「…部長、可愛すぎです」
「だ、って…こんなキスとか、初めてなんだぞ…!」

その告白が恥ずかしいのか部長の語尾はどんどん小さくなって、部屋に溶けた。

―――こんなかっこいいのに。
強くてかっこよくて、いつも俺の憧れだった部長が。
こんな表情見る日が来るなんて思わなかった。
どうしたらいいのか分からないらしく、その手は俺を抱きしめそうで、抱きしめない。

―――ちょっと優柔不断。

新しい部長の発見。
意外に恥ずかしがりやで…童貞だし、奥手。
顔赤くして俯く様が可愛くて、俺が攻めてもいい気分だったんだけど…

(…童貞貰うって言っちゃったしな…俺が下、か…)

でも当の本人はなかなか行動を起こそうとしない。
ここまできたら本能のままに求めてくれたっていいのに。
まだ俺を強引に部屋に連れ込んだことが後ろめたいらしい。

…もうちょっと…強引になってくれないかな…
と思ったところでいきなり部長がケダモノに豹変するわけもなく。



…仕方ない。俺が動くか…



キスだけで息を上げて、硬直した部長の制服のカッターシャツに手をかける。

「!ちょ、ちょちょ…ひ、ひよし!?」

慌てて部長の手が俺の手を押さえる。

「…なんで…?童貞、くれないんですか…?」

出来るだけ熱を持って響くように、吐息混じりに囁く。
可愛すぎる部長に欲情して潤んだ目で見上げるのは、計算。

部長が息を飲んだ。

「お、俺…本当にどうしたらいいか分かんねぇ…」

そりゃそうだろうな。
女すら経験ないのに最初が男相手なんてハードル高すぎだ。

「俺がリードしますから、大丈夫…部長は感じてればいいですから」

ってこのセリフ本来なら攻める側のセリフだぞ?

やっと部長の手が俺の手を押さえることをやめたから、再びシャツを脱がし始める。
白くて細い、けれど鍛えられた体が露になる。

普段―――ユニフォームとかに着替える時はなるべく見ないようにしてたから、新鮮だ。
見ないでおいてよかった。こんな体見たらその場で欲情しかねない。
ベルトに手をかけた時部長はまた一瞬俺の手を止めようとしたけど、視線でそれを遮った。

制服のスラックスの下の下着はもう既に半分勃ちあがっていて愛しさが増す。

「もうこんな?今からこれじゃ…持ちませんよ?」

嬉しさに笑いが止まらなくて、撫でながら言うと部長の顔は更に赤くなった。

「う………頑張る」

頑張るって。
調子狂うな、こんな部長。
体を屈めて部長のを下着の上から舐め上げた。
途端に部長の体が跳ねる。
可愛くて嬉しくて、更に舐めて、甘噛みする。

「ん!…ぅ、」

たったそれだけで漏れそうになる声を抑える部長は妖艶だった。

…駄目だ…物足りなさに腰が疼く。

「全部、脱いで…?」
「………、」
「俺も脱ぐから。恥ずかしくないですよ?」

部長が何か言うより先に俺も自ら洋服を脱ぐ。
全てが露になった俺を見て、部長はまた興奮したみたいだった。
良かった、ここまで来て男じゃやっぱ勃たないとかなったらシャレにならない。
お互い全裸になって改めて部長を抱きしめる。
今度は部長は躊躇わずに俺の体に腕を回してくれた。
どちらからともなく重なる唇。

「―ん…は、ぁ…」
「ぁとべ、さ…ぁ」

静かな部屋に唾液の絡まる音が響く、それさえお互いを煽る。
舌を絡めたまま手を伸ばして、部長のそれを握りこんだ。

「ひよ…、」
「…黙って…」

「ん!やめ…そんな急に…ッ」

激しく扱き上げれば明らかに引けてる腰。
与えられる快感に慣れてない体は快感より先に恐怖を与えるらしい。
自分の体なのに制御できない…って、怖いよな。

けど…

「怖くないですよ?」
「う…ッ…」

次第に乗ってきたらしい部長の腰が緩やかに動く。
嬉しくて、もっと感じさせてあげたくて、今度は直接口に咥え込んだ。

「…ちゅ…あとべさん…もっと、感じて…?っん…」
「ひ、ひよし…ッだめだ…ッ、そんなしたらすぐ出…ッ」

慌てたような声に笑いが漏れる。

「ん…イッてもいいんですよ…?」
「っう…それ、ヤバ…」

咥えたまま喋ると軽く歯が当たる。
その感触さえ経験のない体には過剰な刺激となるらしい。
でもやめてあげるつもりはなくて、益々口の中で大きく育ったそれを愛撫した。
目線を上げれば目を細めて快感を堪える部長の顔。



かわいい。



もっと見たい。



ほんと、攻めてる気分だ…
くちゅくちゅと濡れた音は耳を犯す。

「はぁっ…あ…」
「ん…んッ、く…」

口の中のそれは段々体積を増して、それに俺も感じてしまう。
自分の指を伸ばして、割と使い慣れた自分の後ろに触れた。
大好きな部長を、俺の好きなように出来てるなんて―――――
体は心以上に正直に出来ていて、俺の後ろは触れてもいないのに期待にヒクついてた。

「ぁ…っ、ん…んぅ…」
「ひょ、し…やばい…エロすぎだ、お前…」

部長のを咥えながら自分のも慣らす俺の姿に部長の目が段々獣じみてきた。

「…っ、俺も…日吉、のナカ、触らせろ…」

初めて部長が自分から行動を起こした。
咥えていた俺を体から引き離して、床に押し倒される。

「ッ!」

思ってたより勢いよく倒されて、一瞬息が詰まった。
いて…ベッド行くんだった…背中が痛い。
部長はもうそんなことには意識がいかないのか、慣れない指先をそっと俺の後孔に伸ばした。

「あ…すご…こんななのか…」

いちいち思ったことが口に出る部長に俺も何だか初めての時みたいに恥ずかしくなってきた。
ゆっくり指が中に進入する。

「…っあ…」

焦らすような緩やかな動きに思わず声が漏れる。
物足りなさに腰が揺れる。

「中…きついな…俺の本当に入るのか…?」
「あッ…ん!ん…あとべさ…ッ、ぁ、もっと…強くして…?」
「え…でもこんなキツイぞ…?痛くないのか?」

優しさがもどかしい。

「もぉ…ッ、平気、だからぁ…焦らさない、で…ぇっ」

思わず泣き声を上げると部長が途端に慌てだした。

「す、すまん!え、と…こうか…?」
「ひぁ…ッ!」

さっきまでとは一変して激しい動き。
きょ…極端すぎだこの人…加減分かってない!

「やッ…あぁん!んぅ…ッい、た…」
「痛いか?」
「ん、ん…ッ、も、っとぉく…!」
「え…平気…か…?」

壊れたように喘ぐ俺に驚きながらも、部長は俺に言われるまま指を更に奥に進めた。
奥まった処にある俺のイイ場所。
そこに部長の指が触れた瞬間腰が跳ねた。

「…ぇ、」
「あっん、止めないで…ッ、ソコ、いいから…ッ」
「…これ、気持ちいいのか…?」
「ん、うんっ、そこ、もっとぉ…!」

…かわいい。
俺の言うままに動く部長が、堪らなく可愛い。

「あ…んぅ…ああッ、だ、めッ…イッちゃ、」

執拗にイイ場所だけを擦り上げられて襲い来る吐精感。
部長は思い出したように俺の前にも手を伸ばした。

「…日吉のって、綺麗だな…」

もう…今そーゆーこと言うか…

堪らなくなって、俺のを握った部長の手の上から自分の手も重ねて強く扱いた。

「あっあっ…あ…ッ駄目、もう…ッん―――っ」

部長と俺の手に散る、俺の精液。
息を上げて脱力する俺と精液塗れの自分の手を見比べて、部長はおもむろにその手についた液体を舐めた。

「跡部さん…ッ…そんなの、しなくていいです…ッ」

さすがに恥ずかしくて止めるものの、部長はやめない。

「…あんま味しねぇな」

全て舐め取ってふっと笑う部長の顔はこのシチュエーションにそぐわない無邪気さだった。

「…そこは嘘でも美味しいって言うとこです…」
「そうなのか?すまん、美味しい」
「………もういいです…」

力の入らない笑いを浮かべた俺に、部長は今度は目に見えて凹み出した。
…めんどくさいなぁ…
でも何かそんなんもかわいいから、許す。

「今度は、跡部さんの番…ね?」

しょんぼり項垂れた部長の頭を引き寄せて、額にキスする。

「…いいのか?」
「いいですよ」

そのまま仰向けになって足を開く。
そんな俺を見て部長はまたさっきの獣っぽい目に戻った。

「…ココ、挿れて…?分かるでしょう?」
「あ、ああ…」

緊張してるのか目が赤い。
すごい真剣な顔。
その顔はテニスをやってる時と何ら変わらなくて、このシチュエーションでその顔が見れると思わなかったからときめいた。
…やっぱ顔はいいな…思ってたよりもヘタレだけど。

「ん…」

入り口に部長の雄が触れる。
熱いその感触だけで俺の体はまた火がつきそうだ。
ぐ、っと腰が押し付けられる…けど、そんなんじゃ入らない。

「…あれ」

どうもうまく腰を進められないらしい部長にまた笑いが込み上げた…
けど、また凹まれるのも面倒だから、起き上がった。
そのまま部長を押し倒して俺が上に乗る。

「日吉…?」
「…もう待てない…俺が挿れる」
「え、ちょ―ひよ、…ッん…」

屹立したそれの上に跨って、思い切り腰を落とす。
想像以上に大きいそれが俺の体を拓いた。

「あ―ッ、んぅ…!」

その熱に俺の体も一気に燃え上がる。
そのまま腰を更に落として、全てを中に収めた―――

…ら、

「あ…日吉…ッんッ!ぅ…」

…奥に感じる熱い飛沫。
目前には荒い息をつく部長。



こ、こいつ…挿れた瞬間イキやがった…



「すっ、すまん、日吉!本当にすまん!」
「……………」



駄目だ。
今度こそ堪えられなくて、中に部長を収めたまま笑ってしまう。

「…っく、あはは…ッあはははははははは!」
「日吉…笑い過ぎだ!」
「や、これは…笑うでしょう!あははははは…」
「う…」

顔を赤くして情けない顔。
眉尻下がってるし。

もぉほんと…

愛しいなぁ…

「だって、日吉…ナカ、凄いんだから仕方ねーだろ…」
「ああ、そうですねぇ、俺名器ですから仕方ない仕方ない」
「…また馬鹿にする…」

決まり悪そうな部長。
今日何度も見たな、その顔。
何度見てもいいものだ。

しばらく声を殺してくつくつ笑ってたら、その振動が響いたらしい。
じきにまた部長のそれが中で成長してるのが分かった。

「でも跡部さん…まだイケるでしょう?」
「…っん…日吉が笑うから…締まってヤバイ…」
「なら、もうちょい付き合ってくださいね」

部長が頷くのを見て俺はそのまま動き出した。
摩擦で更に部長の熱が復活するのを感じる。

「っあ…あっ、あっ…あぁ、ん…!」

動くうちにさっき笑ってたことも忘れて快感を追ってしまう。
部長も目をつぶっていつの間にか俺の腰を支えていた。

「あ…ぁとべ、さ、おっき…ぃ、あぁ…んっ、」
「!そんなこと…言うな…」

再び興の乗ってきたらしい部長は、今度こそ本能のままに腰を動かしてきた。
もう俺が動かなくても、部長の下からの突き上げだけでヤバイ…

「ひ、ッあ!ああッ…ん、あと、べ…さッ…」
「日吉…ッ」

突然俺の下にいたはずの部長が起き上がって、視界が反転する。
部長が上にいた俺を押し倒したんだ、って気付いた時にはもう律動が始まってた。

「やぁあっ!あとべさ…ッそこ…そんなに突いちゃ…ッあん!」

的確に俺のいいところを突いてくる部長に驚いた。
もう多分、頭で考えての行動じゃないんだろう。
俺ももう何もわからないくらい、全身で快感に酔ってた。

「あっ…ああっ、ぁ、と…ッんぁ…」
「凄い…ッ締まる…、俺、またイキそ…」
「跡部さんっ…ぁ、俺も…ぉ、だめ…!あぁあッ」

部長の大きい腰の動きと、肌のぶつかる音。
部長の激しすぎる動きに体がついていかなくて、ただただ喘いだ。

「んッ…ひよ、し…イく…ッ」
「ん…ッあッだめ…もう駄目…ッ」

俺が先に果てた。
その後数回出し入れして、部長も再び俺の中に出して

「ぁ…ッ、跡部、さん…好き…」
「………、俺…も、好き…だ」

中に出された熱を感じながら呟いたら、部長も返事を返してくれた。



―――――何て可愛い人。跡部さん。






今日も賑やかな氷帝学園テニス部。



「岳人こないだの子はどうやねん」
「もう別れた」
「「「「はっえーーー!!!」」」」
「…最短じゃねーか、向日」
「いくらなんでも堪え性なさすぎですね」

向日さん、忍足さん、芥川さんの3人に部長と俺が加わって、5人揃って向日さんの恋愛話に花が咲く。

「俺、もういい…テニスに生きる…」
「「「「今更?」」」」
「うるせーな俺より跡部だよ!どうなってんだよ!」

半ば逆切れした向日さんが矛先を跡部部長に向けた。

「………」
「「「………」」」
「………内緒だ」

部長は意味ありげに笑って、さっさと自分の荷物をまとめて部屋を出た。
その行動を合図にしたかのように、部長の言葉を勝手に解釈しながら皆もそれぞれ荷物をまとめ始める。



部屋に残ったのは忍足さんと俺。

「…で?日吉」
「とりあえずは付き合ってます」
「とりあえず?」
「…まぁとりあえず、ですね」
「跡部、やっぱ童貞やったやろ?」
「あー、忍足さんに聞いた時はまさかと思ったけど…本当でしたね」
「あいつ自分で思っとる以上に顔に出とるからなぁ」
「でも忍足さんのおかげで助かりました。その情報がなかったら落としにかかってませんし」



そう。

本当は跡部部長が童貞なこと、俺は知っていた。



忍足さんからの情報でそれを知って、部長を落とす決意をした。
きっと大事な秘密を明かしてくれた俺のこと、部長は拒んだり出来ないだろうからって。
根は優しいんだ、本当に、良くも悪くも。

「うまくいきそうなん?」
「今のとこ好きって言ってくれてますけどね」

けどたぶん、実際はその場の空気に流されただけ。
最初にセックスした相手に執着してまうのは当然とも言えるし。

「忍足さんが余計なことバラしたりしなければ大丈夫ですよ」
「ああ、何跡部知らへんの?」
「部の連中は食わないって言いましたから」
「ははっ、よう言うわ」

忍足さんが俺の秘密を知ってるのも、俺が部長の秘密を知ったのも、

俺が忍足さんと寝たから。

今はまだ、明かせない。

「…でも、そのうちに」

部長の言う『好き』が本物になったときはちゃんと言うつもり。
それまでに、この告白をされても部長が離れていかないように、俺は部長を虜にさせてみせる。
それだけの自信があったから、行動に出た。

「好きだっていう気持ちに嘘はないんで」

それだけ言うと俺も荷物を持って部屋を出た。



今日も犬みたいに大人しく、俺を校門で待ってるはずの愛しい人の許へ。



 


prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -