二翼+妹達
俺の目下の悩みを知りたいか?
「…どうせミユキのことだろ」
さすが桔平、よく分かっている。
「で、ミユキがどうしたんだ?」
「…最近、ミユキがどんどん女っぽくなっていくとよ…!」
「そりゃあミユキも女の子だからなぁ。そういう年頃なんだろう」
それだけじゃない。
「最近俺のこともウザそうだし!」
今日もミユキと一緒に散歩にでも行こうと誘うと「日焼けしたくないから行かん」と断られた。
それどころか「うちの年になってお兄ちゃんと散歩だなんて恥ずかしかもん」とまで言われてしまった。
桔平にそう言うと、あっさり頷かれた。
「反抗期だな。うちの杏もそうばい」
「だけんミユキはまだ小学生ばい!」
「まだまだ子供と思ってるうちに少女は女になるもんたい」
「俺は認めん!」
ちょっと色つきのリップをお小遣いで買ってみたり、お袋のトリートメントを借りてみたり、レースやフリルのワンピースを買ってみたり、日焼け止めをこまめに塗り直したり、そんなのはミユキにはまだ早か!
「…それは千歳、ミユキは恋をしてるんじゃないのか?」
……………
……………は?
目の前が真っ暗になった。
恋?
…恋?
恋って何ね。
「恋だなう」の恋?
「…特別な夏が始まる予感なんて許さんばい!」
「は?」
「Supernova探しに行くんは早すぎる!!!」
激昂する俺に桔平は憐れみの視線を向ける。
そげん目で俺ば見るな!
そんなわけがない、ついこないだまで「お兄ちゃんお兄ちゃん」って腕に絡み付いて来とったとに!
「女の成長は早いもんだぞ、千歳」
「認めん!ミユキはまだ子供ばい!」
「そうやって兄が抑圧するのも良くないんだ。俺のように毅然として…」
その時、玄関のドアが開く音と共に階下から賑やかな声が聞こえた。
杏と出掛けていたミユキが帰ってきたらしい。
俺達の会話は自然と止まる。
華やいだ二人の声は俺達のいる2階にも聞こえてくるが、本人達は気付いているのかいないのか。
「でも分かるよー、うちのお兄ちゃんもいちいち干渉してくるしー」
「うちももう子供やないのに、鬱陶しかよねえ」
「そうそう、スカートの丈とかさぁ〜、お前は父さんかっつーの!」
耳をそばだてた俺達は同時にダメージを受けた。
「休みの日なんかさぁ、出掛けようとすると誰とどこに行くのか聞き出そうとすんの!」
「うっわぁ〜、それはうざかねぇ」
桔平が青ざめるのが横目に見えた。
「うちも似たようなモンっちゃ。お前にはまだ早い〜とか」
「そうそうそれよく言われる!ほっとけって感じ!」
「こんなんじゃ彼氏なんか作れんし、ほんとお兄ちゃん早く大阪帰らんかなあ」
か れ し
今度は俺が青ざめる番だった。
「作っちゃえばいーじゃん」
「でもー…フラレるの怖かもん…」
「ミユキちゃん可愛い〜☆大丈夫だよぉ、思い切って告っちゃえ〜」
ミユキ…!お前は俺の知らんとこで好きな相手がおったとや…!?
「でもぉ…ドロボーの兄ちゃんモテそうだし…」
ド
ロ
ボ
Ι
の
兄
ち
ゃ
ん
…だと…!?
俺の脳裏に飄々としたアンニュイな髪型の無表情が蘇る。
「手塚さんもミユキちゃんのこと好きに決まってるよ〜」
「もー、杏ちゃんからかわんで!杏ちゃんこそ桃城くんとどうなっとると?」
ちらりと桔平を見たら金髪を通り越して白くなっている。
その目は瞬きさえしていない。
「んー、脈アリ?な感じもするけど〜…まだ友達止まりかなぁ〜」
「杏ちゃんこそはよ告ったらよかよぉ」
「でも向こうはテニスに夢中だしー」
「それはうちも同じっちゃよぉ〜」
たぶん桔平からも真っ白になった俺が見えていることだろう。
「あー、何にしてもお兄ちゃんウザッ」
「ほんとほんとー。お兄ちゃんなんかいなくてよかぁー」
…トドメだった。
きゃっきゃと騒ぐ声はまだ聞こえていたが、もう何も耳に入らない。
「…手塚を殺して俺も死ぬ…」
「待つばい、千歳」
「止めても無駄ばい」
「…手塚を殺すの、手伝うけん、桃城を殺るん手伝ってくれんね」
俺達の絆はより一層深まった。
end.
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