家族パロ※謙也大学生・光高校生






「謙也くん、生意気やわ」



朝大学に行くために洗面所でヒゲ剃っとったら、起きてきた光が歯ぁ磨きながら呟いた。

…モゴモゴしとってよう聞こえんかったけど、今生意気やとか言うた?
何が悲しくて高校入ったばっかの弟にそない言われなあかんねん。

思わず剃刀を滑らせる手を止めてガラガラうがいしとる弟をじっと見つめた。

「…なんすか、気安く見んといてください」
「お前は視界に留めるだけで許可が必要なんか」
「さっさと剃ったらええでしょ、ヒゲとやらを」

何やいつにも増して棘がある。
腐っても兄弟、長い付き合いや。
喋り方で何に腹を立ててるのかくらいは何となく察することは出来る。
どうやら光は俺がヒゲを剃っとるのが気に入らんらしい。



「ヒゲなんて俺高校ん時から剃っとるやん。何で今更怒るねん」
「……………」

光は不満げに視線を逸らす。
その表情が妙に子供っぽかったから、俺はこの理不尽な怒りを向けられた原因がどうやら若くんにあるらしいと当たりをつけた。

「ヒゲなんか生えてもいいことあらへんよ?」
「…うっさい」
「うっさいて何やねん。俺ヒゲ濃いから毎朝剃るん面倒なんやからな!」
「確か耳より下は男性ホルモンでしたっけ。謙也くん脛毛も濃いですもんね」
「おん」
「ってことは謙也くん、絶対将来ハゲますね。かっわいそうに」
「容赦なく失礼やな!」
「髪が大事ならアホみたいにブリーチして髪傷め付けん方がええんやないですか」

思わず傷んだ髪に手をやる。
今はフッサフサで多くて扱いづらいくらいやけど、そう言われると惜しくなるんが不思議や。

確かに昔よりちょっと髪にコシなくなってきた気ぃする…と考え込む俺に、光は意地悪く鼻で笑った。

「ま、俺には無縁の悩みすわ」
「………そうやな!お前毛ぇ薄いもんな!足とか腕ツルツルやし!」

どうやら体毛が薄いことが今日の光の不機嫌の理由らしいので、俺は意趣返しのつもりでそう言うたった。

…そしたら光はみるみる表情を曇らせた。
なんやねん!俺がいじめてるみたいな顔すんなや!

そんな顔をされてしまうと、自他共に認めるお人好しな俺は思わず話を聞いてやりたくなる。



「…もう、なんやねん。聞いたるから話し」
「謙也くんに俺の気持ちなんかわからへん」

仕方なしに話聞いてやろうとしたんにこの言い種。
せやけど光がこうして拗ねたことを言うんは話聞いて欲しい証拠やって分かっとるから、俺は話を促した。

「………高校生になって背も伸びたんに全然ヒゲ生えへん」
「個人差あるんちゃう?ちゅーか別に生えんでもええやん」

むしろ光は俺や親父がヒゲ剃ってんのを「朝からめんどくさいことごくろうさん」みたいな小馬鹿にしたような目で見てたはずや。
それが何故急に。



「…若が」

出た、若。
予想はしてたとはいえつい笑いが込み上げて、光に睨まれた。

「若が…こないだ朝初等部行ったら知念先生が寝坊してヒゲ剃るの忘れたとかで学校で剃っとったらしくて、」
「へー、知念先生も寝坊とかするんや」
「で、それ見て「ヒゲを剃る姿っていいよな…小一時間は見ていられる。大人の男って素敵だ」とか言うとって」
「…物真似うまいなぁ。ユウジ並や」

いちいち話の腰を折っとったら頭を軽く叩かれた。 
 
まぁ要するに知念先生に嫉妬したって話やろ?いつものことやん。
それに若くんは別に男のヒゲ剃るシーンなら誰でもええわけちゃうやろ。
もしそうならどんなフェチやねん。小一時間て。

…と思ったけど、また殴られるから言わんといた。

「せやのに俺全然ヒゲ生えへんねんもん…」
「もんてお前。拗ねんなや」
「謙也くんみたいにもさーっと毛深くなりたい…クラスの女子のがよっぽど毛深いわ」

いや別に俺もそこまで毛だるまなわけちゃうんやけど。
確かに光は同年代の男と比べたら手足のツルツル加減は子供みたいやもんなぁ。
男としては毛深くなりたいっちゅーんは分からんでもないけど、日々脱毛やらに励んでる女子にそんなん言うたらフクロにされると思うで…

「…どないしたら毛深くなるんやろ」
「うーん…千里の髪でも切って植毛する?」
「…謙也くんに相談した俺がアホやったわ…」

光は大きく溜め息をついて、洗面所を出ていった。



静かになった洗面所で一人ヒゲ剃りの続きを再開しながら、俺は思う。

若くん、どうせなら「家族に優しい男って素敵だよな…」とか言うてくれへんやろか。 
 
そしたらあの何気に盲目な弟が少しは俺に優しくなるかもしれんのに。



end.



 


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