息子達の通う小中高一貫の学校は、授業参観日が統一されている。
その日は一日中学校が解放されていて、親は自分の都合のいい時間に授業参観に行くことが出来るのだ。

それはうちのように子供が多い親に絶賛されている。

その日は一日かけて、子供達の普段の姿を見れるわけだ。



「え。千里も行くん?」

授業参観当日の朝、いつものように皆で朝食を取っていた。
いつもならスーツに着替えてるはずの千里がまだパジャマだから不思議に思って聞いてみれば、奴も授業参観に行く気らしい。

「当然ばい。金ちゃんの初めての授業参観たい」
「何やぁ、千里学校来るんか!?じゃあ学校でワイと遊んでんかー」
「金ちゃん、授業参観は一緒に遊ぶんと違うたいよ」

…まぁそうだろうとは思っとったけど、やっぱり目当ては金ちゃんみたいや。

「何でもええけど仕事はどないしてん」
「手塚ブチョーに言って休み取っといたばい」

俺も今日は一ヶ月前から仕事を入れないで欲しいとマネージャーに言っておいたおかげで休みが取れた。
俺かてこっち来て初めての授業参観やからな、楽しみにしとったんやで!

「親父、その服で来るん?ちょい派手ちゃう?」

謙也がちょっと嫌そうに俺の服装を見た。
別にいつも通りの格好のつもりなんやけど、何か変か?

「何やホストの私服みたいッスわぁ。俺のクラス来なくてええですよ」
「よっしゃ光のクラスは一番に行くわ」
「人の話聞いてます?」

何やら不評や。もっと普通のスーツとかの方がええんやろか?(持ってへん)

「あらぁ、お父ちゃん、うちは好きやで、その服♪」
「さよか。ほなこのままでええか?」
「うん♪お父ちゃん来はるの楽しみにしてるわ」
「小春は服の趣味もええからなぁ。今度俺にも服見立ててくれんか」
「嫌や。ええ男の服以外見立てたくないねん」
「そ、そんなぁ〜…小春ぅ…」

小春のお許しは出たことやし、別にこのままでもいいか…
俺はこういう若干チャラいくらいの方が似合うし世間ではそこがええって言われとるしな!

「…親父、出来るだけ目立たんようにして来てくれん…?」
「ホンマっすわ。そんなすぐ白石蔵之介や分かる格好で来られたらこっちが迷惑っすわ」

謙也と光だけがいつまでも俺の服装に文句を言っていた。

「まぁまぁ、謙也はん、光はん。蔵は何言っても聞かんからな、堪忍したり」
「せやで。俺は何言われても聞かんで!」

親父はさすがに長い付き合いだから俺のことをわかりきっている。
謙也と光を説得してくれた。
二人とも「銀じーちゃんが言うなら」と仕方なさそうに納得した。
(ていうか何で自分らの親父の言うことは聞けんねん)

「あっ!もうこんな時間や。親父の服装なんてどうでもええことに付き合って朝の時間無駄にしたわ」
「光ー、あんまそういうこと言うたるなや本人の前で」
「ほなワイも学校行くー!じゃーな、じーちゃん、父ちゃん、千里!また後でなー!」

子供達は続々と家を出て行く。
その後姿を千里と並んで見送った。



「…つーか千里、その服で行くん?」
「ん?ならんとね」
「…別にええけど…」

いつの間にか着替えてた千里は、いつも着ている普段着の何か微妙なアレやった。(ドコに売ってるん…)
まぁ俺が着るわけやないからええけどな!

その後まだ時間あったから、千里と親父と三人で茶ぁ飲んだ。

「蔵、あんまり子供達に迷惑かからんようにしなさい」
「何や親父…俺が子供みたいなこと言うなや」

親父にそんな注意をされて、複雑な気分で家を出た。



「千里はあいつらの学校行くん初めてやな」
「親父はあるん?」
「一回だけあるでー、転校してきた時に書類持ってかなあかんかったからな」

道すがら千里と話す。
仕事が忙しくてなかなか二人っきりで会う機会もなかったから少し新鮮な気分や。

「最初どのクラス行くー?」
「やっぱ金ちゃんったい」
「えー?金ちゃんは大トリやろ」
「つか俺金ちゃんのクラスに一日おるつもりばい」
「えっ俺よかお前のが迷惑やん!」

というわけで最初に金ちゃんのクラスに行くことにした。



学校に着くと、まだ生徒がいたるところにチラホラといた。
何やこんなに学校って始まるの遅かったっけ?
ところどころにいる生徒達は俺に気付くときゃあきゃあ黄色い声を上げた。
(そんなん慣れっこやから絶頂スマイルを顔に貼り付けることは忘れない)

「ほぉ。さすがたい。皆すぐ親父のこと分かっとるばい」
「当たり前や。俺がテレビに出ない日なんてないからな」

一応自分の人気は自覚している。
特別な変装もせんで来たからには囲まれるのも覚悟済や。

「金ちゃんのクラスこっちや」

好奇の視線に晒されつつ金ちゃんの教室を目指した。



金ちゃんの教室に入ると、教室内はやけに騒がしかった。

「あ!父ちゃん!千里ー!」

授業中だというのにも関わらず俺達を見つけた金ちゃんが大声で手を振ってくる。

「学校におる金ちゃんもむぞらしかね」
「千里は病気や」

笑顔を金ちゃんに向けたまま小声でそんなことを言う千里に俺も小声で返しておく。
周りはもう完全に俺に気付いてざわめきはじめていた。

「へぇ。本当に白石蔵之介だ」
「マジだったんだな、金太郎の親父が白石蔵之介って」
「隣の人でけー!わったーの父ちゃんくらいあるやっし!」

金ちゃんの近くの席にいた三人が顔を寄せ合って話している。
俺はその三人に向かって笑顔を向けた。

「「…かっけー」」
「…まだまだだね」

「ほらそこ三人!騒いでないで授業いい加減始めさせてくれ!」

先生の声に三人はやっと正面を向いた。
俺達もその声に慌てて前を向く。
教卓に立つ先生は若くて地味で、先生に見えなかった。

「俺も教師役やったことあるけど、教師ってあんな地味なもんなんやな」
「ああ…生徒をとっかえひっかえする悪い教師の役たいね。普通の教師はあんなもんばい」

千里と小声で話す。
声は教卓までは届いてないはずだ。

「じゃあ今日は、前の授業で書いてもらった家族についての作文を読んでもらうぞー」

おお!定番やな!

大阪におった頃はこっちでの仕事が多すぎて授業参観なんて出てやれんかったし、実質今日は俺にとっても初授業参観や。
けど知識としてはあった授業参観=作文というイメージを裏切られなかったことで俺のテンションはやけに上がった。



「じゃあ…最初は知念に読んでもらおうかな」
「はーい」

知念と呼ばれて立ち上がった子はさっき金太郎の周りにいた三人のうちの一人だった。

「親父、あの子金ちゃんの友達たい」
「ホンマ?つか何で千里が知っとるん」
「金ちゃんがよう話してるっちゃ」

金ちゃんの友達か…ほならちょっと真剣に聞いたろか。

「『わんのおとうさん。いちねんよんくみちねんゆうじろー』」

知念君とやらは目の前に作文の紙を掲げて大きな声で読み始めた。

「『わんのおとうさんは5ねんせいの先生です。なぜか男にモテます。』」

…どうなん、それ…
しかし5年の先生か…光のクラスの担任とかやったらおもろいのにな。

「『りんも、おとうさんがだいすきです。でもさいきんライバルが多いって言ってました。』」

「…何や最近の小学生は壮絶ばいね」
「気になるなぁ、知念先生。どんな人なんやろ」

邪魔にならないように小声で千里と話す。
千里も知念先生に興味を持ったようだった。

「『がっこうでは若と光がいるからとうちゃんとあそべない、と言っておこってました。』」

……………

「…何や今光て言わんかった?」
「言ったけど…そんな珍しい名前じゃないし…」

「『そんなモテモテのおとうさんがわんもりんもだいすきです。』おわりっ」
「はいありがとう。知念座っていいよ」

読み終えた知念君が席に座る。
俺と千里は黙って顔を見合わせて、他の保護者や生徒達と同じように拍手した。

俺も、きっと千里も、心の中は彼の言った『光』がうちの光なのかどうかということだけが気になっていた。



「じゃあ次は白石、読んでくれるか?」
「よっしゃー!任しとき!」

名前を呼ばれた金ちゃんが勢いよく立ち上がる。
立ち上がった勢いで椅子が倒れた。
当の金ちゃんはそんなことは気にする様子もない。

うーん、ちょっと金ちゃんに関してはほとんど千里に教育任せたのがいかんかったんか、ガサツに育ちすぎたわ。
千里はそんな金ちゃんすらも可愛くて仕方ないようで、すっかりやに下がっている。

「金ちゃんがんばるったい!かわいか〜」

小声でいちいち賛辞の声が入るのが我が息子ながら気持ち悪い。

「『ワイの父ちゃん。いちねんよんくみしらいしきんたろう』!」
「金ちゃんよく言えたばい☆」
「千里うっさいわ…ちょっと黙ってなさい」

高い位置にある千里の頭を軽く叩く。
千里は不満そうな顔をしながらも一応大人しくなった。

「『ワイのとうちゃんはしらいしくらのすけです。テレビにぎょーさんでてます』」

保護者がざわついて、俺に一気に視線が集まった。
どうせ俺と金ちゃんのこと似てへん思て見比べとんのやろ。
俺は集まった視線を絶頂スマイルで散らす。

「『とうちゃんはほとんど家にいません。だからせんりがいつもいっしょにおってくれます』」

隣で千里が無言でテンションを上げたのが分かった。

「『ワイはずっとせんりがとうちゃんだと思ってました。とうちゃんは近所のにいちゃんかと思ってました』」

まぁ大阪おった頃は週1回自宅に帰れればええ方やったからな…
寂しい思いさせてるかと思っとったのに…千里が親父て…俺立場ないやん!

「『ひっこしてからはとうちゃんもけっこう家にいてくれるからたのしいです』」

「金ちゃん…」

「『せんりととうちゃんとにいちゃんらがおるから、かあちゃんおらんくてもぜんぜんさびしくないです』おわりや!」

「金ちゃん…!」

感極まったと言わんばかりに千里が涙目で金ちゃんに抱きついた。

「おわっ!千里何やねん!びっくりしたわ〜…」
「金ちゃんよぉがんばったたいね!いい作文だったばい…!」

「あ、あの…お父…お兄さん…?授業中なんで…」

先生の制止の言葉も聞かずに、千里は金ちゃんに抱きついて離れない。
あーもうあかん、千里の駄目スイッチが入ってもーた。
こうなってしまうとなかなか金ちゃんから離れんようになるで。

「金ちゃん大好きばい〜!!!」

「……………」

面倒なのでもう千里は放って教室を出ることをした。



まだ授業は終わってないから廊下は静かだ。

あてもなく校内を歩いていると、向こうから人影が現れた。
よく見ると光や。何で授業中なんにこんなところにおるんやろう?

「光ー」
「…何や、何でおるんッスか」
「お前こそ何してんねん。まだ授業中やろ?授業はちゃんと受けなさい」

光はちっと舌打ちをして俺から顔を逸らした。

大方サボりやろう。
光の耳に繋がっていたイヤホンを片方ぐいっと引っ張ると、光は嫌そうな顔をして俺を見た。

「サボりとちゃいますわ。先生に頼まれて職員室に教材持ってったんや」
「…ホンマか?」
「ホンマっす」
「光が先生の言うこと聞くことなんてあらへんかったやん」
「今の先生は好きだから、ええんや」

ふと頭を過ぎったのはさっき金ちゃんのクラスにいた、帽子の子。

「光、知念先生って知っとる?」

光は珍しく驚いた顔をした。

「何で知っとるん。俺の担任っすわ」
「……………あー…」



『がっこうでは若と光がいるからとうちゃんとあそべない、と言っておこってました。』

さっきの子の声が蘇る。



と、同時にチャイムが鳴った。授業終了のチャイムだ。

「とりあえず、光。下級生には優しくしたりなさい」
「はぁ…?意味わかんないっすわ…」
「せっかくやからこれから光のクラス見に行くわ」
「ええっす。来ないでください」
「まぁまぁそう言わんと」

光の肩を抱いて歩き始める。
光は嫌そうに俺の腕を払った。



この捻くれモン、手懐けたなんてすごいやん、知念先生。
コツ教えてもらいたいくらいやわ…



 

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