うちのクラスに転校生が来た。

名前は白石謙也。

やけに女子にキャーキャー言われてて、気に入らない。

べ…別に女子に人気があるからって妬んでるわけじゃなくて、そいつが俺の隣の席だから。
そのせいで休み時間に人が集って鬱陶しいってだけだ。そこのところ勘違いしないで欲しい。



「凄い人気だにゃー、転校生」
「キャーキャー煩くて昼寝もできねーよ」
「亮、ヤキモチ妬いてるだけだったりして」
「バッ…英二ふざけんな!」

体育の授業のために体操着に着替えていると、英二がからかってきた。
転校生は当然といえば当然だが男受けの方はさっぱり悪く、更衣室では一人ぼっちでいる。

「…でも一人ぼっちで可哀想だにゃ…別に悪いことしたわけじゃにゃいのに」

…それは俺もちょうど思っていた。

確かにいけ好かないタイプではあるけど、転校初日からいきなり男子にハブされるって可哀想だ。
男にとって、男の友情というのはとっても大事なものだ、と思う。
いきなりこれじゃ幸先悪すぎる。登校拒否とかになられたら寝覚めが悪い。

「………チッ…英二」
「やっぱ行くよね!さすが亮♪」

英二も同じことを考えていたらしい。
俺は英二と一緒に転校生の元に近づいた。

一人で着替えるソイツは心無しか寂しそうに見えた。



「オイ、転校生」

後ろから声をかけると、転校生は一瞬止まった後振り向いた。

う…近くで見ると確かに女子が騒ぐのも分かる美形だ。
大体その髪なんだよ。染めてんのか?
うちの学校は比較的髪型は自由だけど、うちのクラスには今までこんな髪色の奴は居なかった。

「…体育館、わかんねーだろ。一緒行くぞ」
「え…ほんま?助かるわぁ、おおきに」

転校生はにっこり笑った。何だか一気に恥ずかしくなる。

「べっ、別に親切心とかで言ったわけじゃないぞ!お前が場所わかんなくて遅れたりしたら俺らが怒られるからな」
「ちょ…亮それ典型的なツンデレ台詞。逆に恥ずかしいにゃ〜」

余計なことを言う英二の頭は軽くはたいておいた。

「いや、それでも助かるわ。俺どうやら嫌われとるみたいやし…どないしよ思っててん」

良心が痛んだ。
そりゃあれだけ露骨に男子に嫌な目で見られたらどんな奴でも気付くよな…
気に入らないなんて少しでも思ってしまったことを申し訳なく思った。

考えてみりゃ転校したてってきっと不安でしょーがないはずなのに…
俺と英二だけは他の男子の目なんか気にせずに出来るだけ仲良くしてやろう。そう思った。

「俺、跡部亮。よろしくな、転校生」
「俺は手塚英二だにゃ♪仲良くしよう!」
「おおきに、二人共。俺のことは謙也でええで。よろしゅうな!」
「俺らのことも亮と英二でいいぜ」

謙也は嬉しそうに笑った。何かちょっと俳優の白石蔵之介に似てるな、こいつ。
苗字も同じだし、そう感じるだけかな?

俺達は3人連れ立って体育館に向かった。



「しかし謙也君、転校早々凄い人気者だにゃ〜!前の学校でもそんなにモテてたの?」
「ん〜…前の学校ではそないでもなかったで。普通に男子の友達もおったし」
「マジ?そんなかっこいいのにモテなかったなんてどんだけ前の学校は美形揃いだったんだよ…」
「ていうか…大阪ではうちの家族って有名やってん。家族のが男前多いからな」

…家族の方が男前って…どんだけだよ。
謙也も充分男前だっていうのに。どんな家族なんだか見てみたいもんだ。

「亮の家族もこっちの学校ではかなり有名だよ!美形揃いだしね〜」

英二がそんなこと言うもんだから、謙也は興味深そうに俺を見た。
あの変人共のことなんて人に吹聴して回ることはないのに。

「そうなん?このデッカい学校で有名だなんて相当やなぁ。見てみたいわ!」
「そのうち見れると思うよ♪敷地広いけど、ここの兄弟目立つから…」
「英二、もう余計なこと言うな…」

学校に来てる時くらいあいつらから解放させてくれ…

「何や亮、嫌そうやん。家族嫌いなん?」
「嫌いってわけじゃねーけど…いや、嫌いなのか?変な奴ばっかりだから疲れる」



「……………」
「……………謙也?」

急に黙り込んだ謙也を不審に思って顔を覗きこむと、謙也は今にも泣きそうな顔をしていた。

「ちょ…謙也?どうしたんだよ?俺何か悪いこと言ったか?」
「け、謙也君大丈夫?」

異常に気付いた英二も慌てた声を出す。

謙也は感極まったような仕草で俺に思い切り抱きついた。
休み時間の廊下だというのに。人がいっぱい見ている。

「亮…」
「な、何だよ!いいから離れろ!俺が何か悪いこと言ったなら謝るから!」
「ちゃうねん!ちゃうねん…亮、お前俺と同じやねんな…」
「はぁ?」

わけの分からないことを言いつつ抱きついて離れない謙也にすっかり困り果てた。
横をすり抜けていくクラスメイトがからかいの声をかけてくる。

「…俺もやねん」
「だから何がって!」
「俺の家族も変人揃いやねん!ほんまアイツら顔だけで俺ばっかいつも苦労させられてんねん!」
「……………」

…その言葉を聞いた途端俺も不覚にも涙が浮かびそうになった。

「そうか…お前も俺と同類なのか…分かるぜ、お前の気持ち…!」
「アイツら俺のことなんてどうでもいいんや…常識人が泣かされるなんて間違ってると思わへん!?」
「…!そうだよ…そうだよな…!常識がある俺が間違ってるみたいな気分にさせられるんだよ!」
「あああああ亮!その通りや!全く俺と同じ境遇や!」

俺達は白い目で見られながらも、廊下だということも忘れて固く抱き合った。

「………何でもいいんだけど早く体育館行かにゃい?」

俺達の同志を見つけた喜びの抱擁は、英二の冷めた声に遮られるまで続いた。



「それにしても亮みたいな境遇の奴が二人もいるとは思わなかったにゃ〜」
「俺だってそうだぜ。俺は一生一人でこの苦労を抱えて生きていくんだと思ってたからな…」
「俺かてそうや!でもこれからは俺達二人で分かち合って生きていけるんやな!」
「謙也…俺達一生いい友達でいようぜ!」
「ああ!」
「…気持ち悪い友情育まないで欲しいにゃ〜…」

「おい!跡部、手塚、白石うるさいぞ!」

体育館に体育座りしつつ、小声で話しこんでいたら橘先生に怒られた。

「「「すいませーん…」」」



今日の体育はドッジボールだ。
ドッジは得意だ。ていうか体育だけは全般得意だ。
英二も身軽だからお手の物だろう。
たかが体育の授業とはいえ勝負と名の付くものは負けたくない性質なので、やるからには全力でやる。
俺と英二はいつも同じチームだから、今日は余裕で勝てそうだ。

問題は謙也だが…

あ、もちろん謙也も同じチームに入れた。

他の男子はちょっと嫌そうな顔をしたが、俺達が説き伏せた。
チーム一丸となって汗を流せばきっと友情も生まれるぜ!

「おい謙也、お前運動得意か?」

俺がちょっと不安げに聞けば、謙也はにやっと笑った。

「誰に言うてんねん。俺は浪速のスピードスター言われてた男やで」
「……………激ダサ…」
「!?」

何…浪速のスピードスターって…ダサ…久しぶりに心から激ダサって言った。

謙也は軽くショックを受けていたようだったが、その辺は流した。
俺は家族のおかげでスルースキルは高い。
謙也は同じ境遇にあるにしてはスルースキルが低いようだ。



とにかく、配置につく。

「手塚と跡部にはボール回らないようにしろー!」
「転校生狙え!」

敵チームのクラスメイトがそんな作戦会議をしている。
丸聞こえだ。まぁ賢明な判断だろう。
そんなことしたところでボールくらい奪い取るけどな!

ピーッ、と橘先生の吹く笛の音と同時に試合が始まった。

敵チームにはなかなかの力自慢がいる。
最初にボールを投げたのはそいつだった。
ボールはあからさまに謙也を狙っていた。

(チッ…あいつら弱そうな謙也をわざわざ狙うなんて激ダサだぜ!)

結構なスピードのボールが飛んでいく。
これは俺でも避けられそうにない。
謙也はボーッと突っ立てるだけ………のように見えた。



「「「「「……………え?」」」」」

敵チーム味方チーム(もちろん俺と英二も含む)が全員目を丸くした。



ボールの軌道にいたはずの謙也は、いつの間にかコートの隅まで移動していたからだ。

「な…なんで…?」

ボールを投げた張本人でさえ呆然としている。
そんな相手を見て謙也はふ、と得意げに笑った。

「NOスピード、NOライフ」
「激ダサッ!!!!!」

何その標語みたいなの!
俺は謙也の凄さに感心するのも忘れて思わず叫んでいた。

「…亮ひどいわぁ…そんなこと言わんといてんか…」

俺に罵られた謙也はコートの隅に蹲って半泣きの声を上げる。

「…っ、今だ!転校生を狙え!」

外野に渡っていたボールがまた謙也を狙う。
座った体制からじゃさすがに避けられるわけもないだろう。

「謙也あぶにゃい!」

英二の声が聞こえた頃には、謙也はコートの隅にもう居なかった。



「せやから、俺狙っても当たらへんで〜」
「は…早い…」

一気に俺達を含めた全員が謙也を見る目が変わった。



コートを何度も行き交うボールに次々被害者が出ていく中、謙也だけはボールを器用に避け続けた。



その後も白熱した試合は続き―――
そしてコート内には謙也一人が残るのみとなった。

「畜生…俺まで当たるなんて激ダサだぜ…」
「ドンマイ亮ー!向こうも一人にゃ!謙也にどんどんボール回すよ!」
「おう!謙也!」

俺は外野から謙也に向かってボールを投げた。
もちろんごく軽くだ。

そのボールを謙也は当然のようにひょいっと避けた。



「「「「「……………」」」」」



「…ば…馬鹿か白石ー!味方からのボール避けてどうすんだ!」
「ちゃんと受け取れ白石ー!」

白熱した試合の結果、謙也はいつの間にかクラスメイト達と少しは親睦が深められたらしい。
『転校生』から苗字を呼んでもらえるくらいには昇格していた(しかし罵倒はされている)

「関西人に馬鹿は禁句やで…アホって言うてんか」
「アホー!そんなこと言ってる場合か!いいからボール取れ!」

敵に回ったボールをこれまた器用に避けつつ、謙也は息ひとつ切らさずに言う。
いや、凄いのは分かったからボール取ってくれ!

「謙也!何でボール取らねぇんだ!お前が取らなきゃ誰が敵チーム倒すんだ!」

俺がそう怒鳴ると、謙也は今日一番といえるくらい真剣な顔で俺を睨んで、大声で言った。



「当たったら痛いやないか!!!」



「「「「「……………」」」」」

「………白石、覚悟」
「いたッ」

ぽーん、と飛んできたボールが、俺の方に余所見していた謙也の頭に当たった。



「はい、試合終了ー!」

橘先生の笛の音と共に試合が終わった。



「…っ…謙也…!この…!ヘタレがぁぁぁぁぁ!!!!!」

俺は怒鳴った。これ以上ないくらいの大声で怒鳴った。
他の味方チームの面々はぐったりと脱力している。
敵チームさえ喜んでいいのか分からない微妙な表情をしていた。

「亮までヘタレなんて言わんといてや…俺ヘタレ言われるんマジへこむねん…」

謙也だけが他の奴らと違う理由で凹んでいる。



その後、何だかんだと男子に認められた謙也は無事俺達のクラスに馴染んだ。

ついでに謙也が白石蔵之介の息子だと判明し、キャーキャー言う女子の大半は父親の方に流れた。



 

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