「…食費が…ヤバイ…」



家計簿をつけながら、俺は思わずテーブルにつっぷした。

これまで注意して使ってきたつもりだったが、やっぱり育ち盛りの子供がいるとそう思うようにもいかず…
うちの旦那の稼ぎではこのままでは我が家は破産してしまう!



「と、いうことです」

「……………」



その日、仕事から帰ってきた旦那の知念クンに早速今月の家計簿を見せる。
知念クンは特に危機感がある様子もなくただ数字の羅列を眺めているように見えた。

「…えーしろー…これ数字間違ってるわけじゃないんばぁ?」
「俺も何度も計算したんですけどね。どうやら間違いではないようです」
「うーん…これは…」

眉を寄せて家計簿を捲り、考え込む知念クン。
その姿はとってもかっこいいんですけどね…生憎それどころじゃありません。



「と、いうわけで」
「慧君、裕次郎、凛。こっちおいで」



各々の部屋で好き勝手に遊んでいた子供達を居間に呼び集める。
俺が言ってもなかなか来ない下の双子達は、知念クンの呼びかけならすぐに来た。



「父ちゃんどうしたんばぁ?」

定位置、とばかりに知念クンの膝に乗る裕次郎クンと凛クン。
慧クンは俺の目の前に座った。

「母ちゃん、夕飯まだ?もう腹ペコさぁー」
「そのことなんですけどね」

俺は台所から今日の夕飯を持ってきた。

俺が持つ皿の上に盛られた食事を見た途端、予想はしていたが知念クンの膝の上の2人が騒ぎ出した。



「ぎゃあああああああああ!!!ゴーヤァァァァァァァァアアア!!!!!」
「今日なにもわるいことしてないのになんでぇぇぇぇええええぇ!!!!!」

「わんは別にいいやしが………それだけ?」

慧クンの言葉に俺は頷いた。

「………え…冗談だばぁ?」
「いいえ…今日から一週間、ゴーヤしかありません」



「「「…はぁぁああ!?」」」



珍しく子供達3人の声がハモった。



「大体ね、君達がいけないんですよ、特に慧クン」

俺はテーブルにゴーヤチャンプルーの皿を置いてため息をついた。

「なっ、何でわんのせい!?」
「君がこっちのことも考えずに馬鹿みたいにおかわりしまくるからおかげで我が家のエンゲル係数は上がりっぱなしです」
「エンゲル…?」
「とにかく知念クンの給料日までの一週間、我が家にはお金は2千円しかありません」

「「「……………」」」

やっと事態の深刻さに気付いたのか、子供達は大人しくなった。
まぁ、あんまり頭は良くない子供達のことだからどこまで理解できているのかは甚だ怪しいものですが。

「でも幸い俺が庭で育ててるゴーヤはまだまだあるからね、飢えて死ぬ心配はないと思います」
「死ぬさ!毎日ゴーヤなんて食わされたらわったーが死ぬ!」
「黙りなさいよ。飢えて死ぬよりは腹が満たされた状態で死ねるだけでもありがたいと思いなさい」
「死ぬことに変わりないやっし!」
「あとね、慧クン、君は今日から毎食おかわりは禁止です」
「!!!!!!!!!!」
「当たり前でしょう。そんな余裕は今のウチにはないんだからね!」

我に返ったらしい子供達の非難の声が相次ぐが、片っ端から黙らせる。
我が家が一週間生き抜くためにはこれしかないのだから分かって欲しい。



「嫌だぁ…ゴーヤ…毎日ゴーヤ…」

畳の上に転がって嘆く裕次郎クン。

「………」

これからの毎日を思ってかもう既に知念クンの膝の上で死にかけている凛クン。

「おかわり…できない…おかわり…」

慧クンに至っては今まで見たこともないほどの憔悴ぶりだった。



「気持ちは分かるけど、仕方ないの。一週間だけだから協力して下さいよ。分かった?」

「「「……………」」」



あまりにも普段の威勢がなくなってしまった子供達に少し申し訳ない気持ちになる。
さすがに育ち盛りの子供達にゴーヤばっかりって…確かに可哀想ではあるんだけど。



「…わっさん…永四郎、慧君、裕次郎、凛…」



消え入りそうな声で知念クンが呟いた。
その声にその場にいた全員が知念クンの方を見る。

彼は俯いていたが、背が高いから俯いたところで表情は丸見えだ。
その顔は明らかに落ち込んで、下手したら今にも泣きそうだった。

「わんの甲斐性がないせいで…やったーに辛い思いさせて…わっさん…」

知念クンはその大きな右手で己の顔を覆った。
心なしか肩も震えている。



そうなると、知念クン大好きな凛クンが黙っているはずもない。

「父ちゃん!大丈夫やっし!わんゴーヤ食べる!」
「凛…」
「昼ごはんは給食あるし!ぜんぜん大丈夫!だからなくな!」

知念クンに向き直って首に手を回して、必死に知念クンを慰める凛クン。
凛クンがそうなってしまえば裕次郎クンも

「まぁ仕方ないさぁ…一週間やっし、何とかなるさぁ…」
「裕次郎…にふぇーでーびる…」

双子達に慰められて、知念クンは涙目のままお礼を言った。
ふと慧クンの方を見れば、さっきの落ち込みはどこへやら、もう平然としている。

「慧クンも分かってくれた?」
「まぁいいさ。最近学校で跡部がお菓子くれるし…」
「………跡部クンが?何で?仲良かったでしたっけ」
「別に。でも何かわからんがくれる」
「…脅したりしてるんじゃないでしょうね」
「そんなことしとらんっし!父ちゃんの話してるだけやし」

よく分からないがとりあえず慧クンも納得してくれたらしい。



「じゃあ、そういうわけだから皆、一週間協力よろしくね」

「「「「はーい…」」」」

言いたいことは多々あるだろうが、とりあえずこれで家族の協力は得た。
後で文句なんて言わせないからね!



「じゃあわん、ご飯よそってくるさぁ」

知念クンが立ち上がったので、俺も後をついて行く。
自己嫌悪に陥っているらしいその情けない背中に子供達は一様に胸を打たれているようだった。
俺はそんな姿をつい笑ってしまった。



台所でご飯をぺたぺたよそう知念クンの後姿に俺は笑いかける。

「…さすがに知念クンの嘘泣きは凛クンには効きますねぇ」
「えーしろー、声がでかいさぁ」

振り返った知念クンはにやり、と人の悪い笑みを浮かべていた。

「凛に言うこと聞かせたかったらわんが泣くしかないやっし」
「凛クンが落ちれば裕次郎クンも勝手に落ちるしね」
「慧君はそんなに手ぇかからんから問題ないしな」

2人で顔を見合わせて、子供達にバレないように小さく笑った。

「…しかし、凛クンは本当に知念クンが好きですねぇ」
「学校でも見つかったらベッタリさー」
「ふーん…」

ご飯をお盆に載せる知念クンにそっと近づく。
台所のテーブルの高さのせいで知念クンはその高い背を丸めている。
いつもより顔の位置が近かった。



「…いささか妬けますね」



背伸びして耳元で囁くと、知念クンの耳が一気に赤くなる。

「っ、えいしろー、」

ちゅ、と音を立てて頬にキスして、俺は知念クンの持っていたお盆を受け取って居間に戻った。



悪いことも何もしてないのにゴーヤを食わされる双子達は最初はやっぱり嫌そうな顔をしていたものの、
悲しそうな顔で見つめる父親の顔を見て飲み込むように無理矢理食べていた。
まったく本当に…知念クンの涙の効果は凄すぎる。この半分でいいから俺にも懐いて欲しいものですねぇ…
全部食べ終わった裕次郎クンと凛クンは死にそうな顔してたけど、知念クンに褒められて嬉しそうに笑っていた。
一人不満そうな慧クンでしたけど、まぁ一週間は我慢してもらいましょう。

多少貧しいくらいじゃわったー比嘉家族はめげませんよ!



給料日まで一週間。
残金二千円―――







それから本当に毎食ゴーヤ生活を一週間―――



「…わん、もう食べたくない…」
「わんも…ごちそうさま…」

半分は残ってるっていうのに裕次郎クンと凛クンは箸を置いた。

「要らないならわんがもらうどー」
「「どうぞ…」」

反して思わぬおかわりをゲットできた慧クンは嬉しそうだ。

「えいしろー、わっさん。わんももう食えん…」
「知念クンも残すなんて珍しいですね。具合でも悪いんですか?」
「いや…さすがに飽きた」
「俺なんて毎日ゴーヤでも全然飽きませんけどねぇ」

若干うんざりした顔で箸を置く知念クンは、俺の言葉に苦笑した。



「でもまぁ、今日で一週間。明日は給料日ですから、明日からはもう普通の食事に戻しますよ」

「しんけん!?」
「やったああああぁぁぁあああ!!!」

文字通り飛び上がって喜ぶ双子達。
久しぶりにそんなテンションの2人を見れたことに、俺も柄にもなく嬉しくなる。

「明日は美味しいもの作りましょうね。皆何がいいですか?」
「わんミミガーサラダ!」
「わんはエビフライ!」
「わんはいっぺー食べれるなら何だっていいさぁ」

やっぱり皆笑顔の方が可愛いですね。



その時知念クンの方を見れば、何やらカレンダーを見て眉を寄せている。

「…知念クン?どうかしましたか」
「いや…今日何曜日?」
「金曜日ですけど?」

……………

あ。



「給料日が土日祝日の場合、翌日払い…」



知念クンが呟いた言葉に全員が凍りついた。
弾かれたようにカレンダーを見る。

そこには来週の月曜日であるはずの日に赤い数字が…



「…月曜日、祝…日…」



火曜日まで給料は入ら…な、い…



期待した分受けたショックは計り知れなかったものらしく、子供達は再起不能なまでに落ち込んだ。
知念クンの嘘泣きも、今度は簡単には通用しそうにない。



給料日まで、あと4日。
残金、285円―――



 

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