―ある日曜日―



「………うっ…う…っ、ひ、っく…」

かれこれ一時間近く、凛はずっと泣いている。

「りん、なくな」

その隣で裕次郎が凛を慰めてるものの、あんまり凛が泣くもんだからつられかけてるみたいだ。
裕次郎が帽子を深く被って唇を噛み締めてるからそれが分かった。

息子の凛と裕次郎は双子だからなのか、どちらかが泣けば2人で泣き、どちらかが笑えば2人で笑う。
長男の慧がそんな双子の弟を横目でちらり、と見て呆れたような顔をした。



「泣いても許さないからね!罰として今日はゴーヤ食わすよ!」
「ぎゃあああああああ!いやだぁああぁぁ!ゴーヤだけはかんべんんんん!!!!!」
「ぎゃあああああああ!りんなくなぁぁぁぁぁぁぁああ!」

妻の永四郎がぴしゃり、と厳しい声をかけた途端双子は爆発した。



事の起こりは一時間前。
そもそもわんがこの惨状を作り出した張本人であることは否定できない。

「そういえば凛、テスト返ってきたんば?」

俺がそう言った途端、畳に転がって漫画を読んでた凛の肩がびくっと震えた。

「え?凛君テストなんてあったの?俺聞いてませんよ?」
「………返ってきてない」

答えるまでの間から嘘なのは明白だった。

「ちょっと知念君、テストってどういうことですか?」
「あ、いや…おととい職員室で東方先生が今日テスト返しましたからって…」

わんは小学校の教師をしてる。長男の慧がいる5年3組の担任だ。
この前のテストは凛と裕次郎が入学して初めてのテストだった。
この双子がわんの息子だって知ってる先生達は逐一わんに双子の様子を報告してくるのだ。
全く毎日が家庭訪問みたいな気分で落ち着かない。
でも慧君が入学してからずっとそんな毎日だったからそれも慣れた。

授業時間の関係で凛のクラスの方が先にテストをやったみたいで、裕次郎のテストはまだ返ってきてない。
でもこの2人がテストでいい点なんて取れるわけがないから、永四郎に聞こえないように聞いたつもりだったんだが…
やけに耳がいい上に教育ママのこの妻にはしっかり聞こえてたみたいだ。

わっさん、凛…悪気はなかったんやしが…



結局永四郎の命令で抵抗する凛のランドセルを引っくり返せば、お知らせのプリントやら給食のパンやら、
ぐちゃぐちゃになったハンカチやら木の枝やら何やらが大量に出てきた。
まぁ凛の反応からしてテストの点が芳しいものじゃないことは容易に想像できていたものの、ランドセルの中の惨状に潔癖な永四郎はまず怒った。

そしてしわくちゃになったプリント類を丁寧に拡げていたら、目的のテストが出てきた。

結果は…



「全くどうすれば100点満点のテストで3点なんて点が取れるの!しかもその内1点は名前かけてたからオマケ点って!」
「だっでわがんながったぁぁぁぁぁ」

涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら凛も必死に言い返す。

「授業中裕次郎君のクラスに紛れ込んだりしてるからでしょ!俺本当に恥ずかしいですよ!」
「だっでわんだげゆうじろとぢがうグラズでざびじいぃいぃぃぃ」
「ワガママばっかり言うんじゃないの!」

凛と裕次郎の担任の、東方先生と南先生には本当に迷惑かけてると思う…
凛はどうしてもクラスに馴染もうとしないらしくて、裕次郎のクラスにたびたび進入を図っては東方先生を困らせている。
先週なんて裕次郎の帽子を被って裕次郎のフリをして(したつもりで)普通に席に座ってたらしい。
南先生も東方先生もいい人なだけに申し訳ないやら恥ずかしいやら。
今度2人に胃薬でもプレゼントしようかと思うがそれをわんがやるのは間違っているだろう。



「父ちゃん、そろそろあにひゃーうるさいさぁ」

ぎゃあぎゃあと泣き続ける弟2人にうんざりしたのか、慧君がDSで遊びながらもわんに文句をつけてきた。

「父ちゃんが止めないと母ちゃんいつまでも怒ってるばぁよ」

そう言われて、わんもいい加減この空気に疲れてきたところだったから立ち上がった。
わんは元々口下手な方やっし人を宥めたりするのは苦手なんだけど、永四郎を止めるのはわんの役目だ。

「永四郎、もういいさぁ。そんな怒らんでも」
「…知念君…」
「凛もちゃんと反省してるって。なぁ?」

凛を見れば必死で首を縦に振ってる。
(涙と鼻水が飛んだ。早く拭かないとまた永四郎に怒られる)

裕次郎は「母ちゃんわっさいびーーーん」と泣きながら何故か謝っていた。
そっちをどうしようか考えていると慧君が裕次郎を抱き上げた。
相当なうるささに我慢できなくなったのか、自分でさっさと泣き止ませることにしたらしい。
慧君は長男だけあって、弟達に優しいいい子だ。
ぶっきらぼうだし大食いだし雑だけど。
勉強が出来ないことは3人兄弟に共通してることなので少しくらいは同情してるのかもしれない。

「まったく、俺と知念君どっちに似ても頭はいいはずなのに…3人とも誰に似たんですか」
「性格が悪いとこだけは全員母ちゃんを受け継いでるさぁ」
「慧君、黙りなさいよ」

とりあえずお説教は終わりらしい。



「どうぢゃんんんん…」

まだ泣きじゃくる凛を膝に乗っけて頭を撫でてやる。

「凛、次のテストちばりよ」
「あい…」
「お知らせのプリントはちゃんと母ちゃんに渡すこと」
「あい…」
「給食のパンはちゃんと食べて。ランドセルに入れたらいかん」
「あい…」
「授業中はちゃんと自分のクラスにいないと駄目やっし」
「…でもつまんないんだもん…」
「友達作ったらいいさぁ」
「ゆうじろとゆうじろの友達の方が楽しい!」
「やーのクラスもいい子がいっぱいいるさぁ」

凛は黙り込んでしまった。

「東方先生も困ってるんばぁよ」
「………父ちゃんが担任だったらよかったのに」

そんなことを言われてしまえば教師として父として、かなりキュンとしてしまう。
鼻を啜りながら凛は俺の肩に顔を埋めた。
鼻水が絶対ついた気がするがこの状態の凛は可愛いから許すことにする。

凛は永四郎に怒られる回数が誰よりも多いからか、わんにこうして甘えてくることが多い。
厳しく育てようとしてる永四郎には悪いが役得だと思う。
わんは子供が好きやしが子供には容姿のせいで嫌われることが多いので、息子とはいえ子供に好かれるのは嬉しいのだ。



「知念君はまたそうやって甘やかして…」

台所に向かった永四郎がそうブツブツ言いながらエプロンをかけた。
やっと昼飯が食べられるらしい。



「ゴーヤはちゃんと食わすからね」
「ぎゃああぁああああああ!ゴーヤかんべんんんんんんん!!!!!」
「うわあぁああぁああああ!りんがないたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「あーッ!うるせぇッ!」

わんの肩に顔を埋めていた凛が弾かれたように顔を上げてまた叫んだ。
と、同時に慧君に抱っこされて落ち着いていた裕次郎もまた泣き出した。



耳元で大声で叫ばれた慧君は裕次郎を畳に投げつけて、諦めたのか隣の部屋まで行ってまたDSを始めた。



 

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