☆凛・裕次郎高校生編☆






屋上には、いつものメンツ。

「りんー、髪の毛やって」
「お前の髪セットしづらいさぁ。一体その癖毛誰に似たんばぁ?」

櫛とワックスを凛に手渡すと、ちょっとめんどくさそうな顔をされた。
わんだって好きで癖毛なわけじゃねーらん。自分の髪がサラサラでちゅらやからって失礼な奴さぁ。

「何、お前らまたナンパ?」
「おう。赤也も行くかー?」

コンクリートの上でゴロゴロしながら漫画を読んでいた赤也が顔を上げる。

「たまには行くかー」
「最近赤也付き合いいいさぁ」
「蓮二兄さんが角眼鏡と結婚してから帰ってもつまんねーんだよ」

相変わらず蓮二兄さん大好きな赤也は、不満げに唇を尖らせた。

「いい加減蓮二兄さん離れしたら?蓮二兄さんも迷惑でしょ」
「…うっせーな」

寝てるのかと思っていたリョーマが口を挟んだせいで、赤也の機嫌はますます悪くなる。
わったーも付き合い長いんだし、いい加減そうやって煽るのやめればいいのに。
とは思うけど、何だかんだで仲のいい二人は放っておく。

「裕次郎、このピンやるさー」

わんの髪の毛をワックスで整えながら、凛はポケットから出した赤い可愛らしいヘアピンをわんの手に載せた。

「ぬーがよ、コレ」
「クラスの女が前髪邪魔そうとか言ってくれたんばぁよ。前髪なら裕次郎のが邪魔だろ」
「ふーん…付けて」

凛は手慣れた様子で俺の前髪をピンで止めた。

「ははっ、裕次郎デコ出し似合うな」

赤也がぺちぺちと額を叩いてくる。

「…昔から似てなかったけど、ますます似てない兄弟になったよね、凛と裕次郎」
「凛は変わったしな〜」

確かに凛は変わった。
昔はわんにべったりで、すぐ泣くし騒ぐし先生らを困らせてたのに、いつの間にか落ち着いたモテ男になった。
まぁこうやってしょっちゅうわんと授業サボっとるし、先生らを困らせてるのは変わらんけど。

「凛はモテるからなぁ。わんもナンパの時は助かってますよ」
「だろ?わんがいれば女なんてゴロゴロ落ちてくるさぁ」
「…この態度ムカつかねえ?リョーマ」
「別に…ナンパなんかしないし」

リョーマだって整った顔とクールさで女子には大人気だ。
今んとこ彼女はおらんみたいやしが。
赤也は同意を求める人選を間違ってると思う。

「そーいえば今日金太郎は?」
「遅刻し過ぎて出席日数ヤバいって」

金太郎も初めて会った時から変わってない。
リョーマと変わらなかった小柄な体型だったのが、いつの間にかわったーの誰よりも大きくなったこと以外。
リョーマにべったりなついてるのも変わらんから、あんまり背が伸びなかったリョーマはよくのし掛かられて困ってる。

「今日どのへん行く?」
「駅前は?」
「狩りつくしたさぁ」

駅前はしょっちゅう凛とナンパに行くから、結構顔が割れてる。
こないだウロウロしてたら前ナンパした女の子に見つかって、凛はこっぴどくビンタ食らってた。
イケメンは罪だ。それ以上に凛は遊び方が下手だ。

「凛ってモテるのに長続きしねーな。よく修羅場ってるし」

その話をすると赤也は同情半分、見下し半分な顔して凛の頭を撫でた。

「何でかやー、裕次郎」
「知らん」

…本当は薄々、凛が彼女と長続きしないわけをわんは知ってる。
けど自分で気付くまで言う気はない。一人でモテとるやつは痛い目見た方がいい。






「リョーマぁ〜っ!やっと終わったでぇ!」

授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、程なくして屋上の扉が開いて金太郎がやってきた。
デカい体で犬のようにリョーマに抱き付くから、リョーマは半ば鯖折りだ。可哀想に。

「っ離れろ、」
「イヤやっ!授業中リョーマと会えへんかってんリョーマ不足なんや!」

…金太郎はリョーマを好きなんじゃないかとわったーは睨んでいる。恋愛的な意味で。
本人さえ気付いてるかは謎だけど。

「なぁ、もう授業終わりやろ。どっか行くん?」
「とりあえずマック行かねえ?腹減った」
「マック行くなら俺も行く」

珍しくリョーマが誘いに乗った。
よし、イケメンが増えた。ナンパの成功率アップ。
金太郎は食い物とリョーマを近くに置いて黙らせとけば問題ない。






マックでそれぞれ注文して、5人で店内のテーブルに座った。

もうどこの学校も終わったのか学生で賑わっている。
近くに新しく出来た女子校の生徒もいる。なかなかレベルが高い。

「…まだあそこの学校知り合いおらんさぁ。狙い目かねぇ」

凛がハンターの目になった。

「ナンパするなら一人で行ってよね。俺関係ないし」
「まぁまぁ、リョーマは立ってるだけでいいばぁよ」
「うんうん。口説くのは凛に任せとけばいいやっし」

とは言え向こうは3人。人数が合わない。
凛はとりあえず目をつけて保留にすることにしたようだ。



「そういえばな、千里兄結婚するんやて」

ビックマックをペロリと平らげててりやきバーガーに手を伸ばしながら、金太郎が言った。

「嘘!?」
「あの金太郎命の兄貴がかやー!」
「相手誰ね!?」
「奇跡だ…」

金太郎の千里兄といえばわったーの中で…というかうちの学校の中でもかなり有名だ。
高校生になった今でも長いカメラ(昔より進化している)を持って金太郎を撮りに来ている。
そんなあの人が結婚だなんて。
リョーマの言う通り奇跡に近い。

「中等部ん時一回担任になったやろ、橘先生」
「嘘!?」
「あー…でも何か納得」

確かあの二人は幼なじみだとか聞いている。
幼なじみで結婚って少女漫画みたいで憧れるさぁ…
わんの幼なじみといえば凛以外のこの3人。
…いつか結婚するとは到底思えない。

「まぁわからへんけど。あの人結婚するする詐欺やからなぁ」
「え、そうなの?」
「今までも何回か橘先生と結婚話あってん。せやけど千里兄が結婚直前になってあーだこーだ言い出すねん。で、破談」

その「あーだこーだ」に金太郎に関することが含まれてる気もするけど、突っ込むのはやめた。
金太郎のちっさい脳みそが責任感じたら可哀想やっし。

「…あーあ、蓮二兄さんも結婚しちまうし、なんでみんな結婚すんだろ…」

赤也が項垂れた。
蓮二兄さんが結婚してから赤也は情緒不安定だ。

「赤也も彼女作ればいいさぁ」
「お前みたいに簡単に出来たら苦労しねーよ!」

とは言うけど、赤也もモテないわけじゃない。
凛やリョーマほどじゃないけどそれなりにモテる。

「やーは理想が高すぎなんばぁよ」
「ていうかストライクゾーン狭すぎ」

リョーマの言う通りだ。赤也の理想というのは、

「だって黒髪短髪ストレートで身長が181センチで目が切れ長で頭が良くてデータ取るのが好きで俺を甘やかしてくれる人じゃなきゃ嫌なんだよ…」

それなんて蓮二兄さん。

こんなことを言ってるうちは彼女なんて夢のまた夢だ。



「…凛。あっち、人数増えた」

そうこうしてるうちに、さっき凛が目を付けた女子校3人組に友達が加わったのか5人になった。

「おっ、じゅんにちゅらさんばっかやっし。裕次郎、赤也、行くぞ」

端から行く気のないリョーマと金太郎は席に置いておくことにした。



「なあなあ、やったーなま暇かー?」

凛がいつもの調子で馴れ馴れしく一人の女の子の肩に手を置いた。

「…なぁ、俺も何か言った方がいい?」
「えー、いいから黙ってニコニコしとけー。凛に任しとったらいいさぁ」

赤也が小声で呟いた声に同じように小声で答える。
訝しげにこっちを見た女の子達は、凛の容姿とわったーの制服を見てちょっと表情を和らげた。
わったーの通う学校の制服はステータスだ。
全国区で有名な金持ち学校の制服に、この時ばかりは感謝する。

「わったー5人なんだけど男ばっかでムサいんさー。君達じゅんにちゅらさんやっし一緒にお話せんばぁ?」
「えー…どうする?」
「私はいいけどぉ…」

今凛が手を掛けている女の子はたぶん凛が狙ってる。
わんは隅に座った小柄な子に狙いを定めて、目が合った瞬間にっこり微笑んだ。
凛には敵わんやしがわんだって笑顔はカワイイと定評がある。
赤也は黒髪ストレートの子にしたみたいで、その子に「こんにちわ」なんて行儀よく挨拶してる。

「わったーの連れ、あっち。な?ちょっとくらいいいだろ?」

女の子達は凛が指したテーブルのリョーマを見て、皆で目配せした。

…よし…!今日のナンパ、イケる…!



「あれ、凛と裕次郎?何しとるんばぁ?」

勝利を確信した瞬間、背後から声がかかった。

「えー、ナンパかやー。邪魔してわっさん。でも女の子にあんまり無理言っちゃいかんどー」
「とっ、父ちゃん…」

ヤバい。これはヤバい。

ちらりと凛の方を見る。



「…っ父ちゃん!」



……………ああ、このふらー、またやった。

凛は顔を輝かせて父ちゃんに思いっきり抱き付いた。
赤也が固まっている。

「父ちゃん、仕事はっ?」
「ちょっと他校に行った帰りやっし」
「そうなんばぁ?今日直帰?一緒に帰るさぁ」

ちょっとだけ固まってた凛の狙っていた女の子は、果敢にも少しひきつった笑顔で声をかけた。

「お…お父さん、なの?カッコイイ人だね〜」
「はぁ?やー程度の女父ちゃんが相手するわけないやっし。わんくらいの美形に生まれ変わってから出直した方がいいどー」

………っあああああ………終わった………

「こらっ、凛。そんなこと言ったらならんばぁよ。わっさいびん、うちの息子が…」

父ちゃんが凛をたしなめるが、時既に遅し。
豹変した凛の態度に、女の子達は怒って席を立ってしまった。
わんと赤也はいきなりの展開に青ざめた顔で立ち竦む。

「…ほら、凛があんなこと言うから…怒らせたさぁ」
「知らんし。女なんかいくらでもおるやしが父ちゃんは世界に一人さぁ!」

やーにとってはたくさんいる女の一人かもしれないが、モテない男の気持ちも少しは汲んで欲しい。



「…裕次郎…凛が女と長続きしない理由、分かった気がする…」
「…わんだってとっくに分かっとるさぁ…」

呆れ顔の赤也は未だ父ちゃんに抱き付く凛を見て溜め息をついた。  
「今度ナンパ行く時は遠出しようぜ…学校の近くは、鬼門」

憐れみの目でわんの肩を叩く赤也に、力無く頷いた。



 


prev
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -