くだらないことで奴らが喧嘩するのは、いつものことだ。



「だからーゆうじろの趣味は古いんばぁよ!今は取立戦隊ハラウンジャーの方がアツいのはじょーしきだろ!?」
「ぬーがよ!げんじつみがありすぎて見ててつらいやさ!昔やってた沖縄戦隊ヒガレンジャーのが面白かったさー!」

…どうやら日曜の朝っぱらからやっている戦隊ヒーロー物の件で言い合っているらしい。
今朝もふたりであれこれ言いながら見ていたので、すぐに内容は分かった。

ヒガレンジャーはわんが子供の頃見てたやつだから知ってる。
白石蔵之介がヒガブルーやってたやつだ。

わんはめんどくさかったので相手にせずにDSをやり続けていた。

「「慧君!!!」」
「…ぬー」

だが案の定わんにも矛先が向いた。

「慧君はどっちが好き!?」
「ヒガレンジャーやっし!世代ドストライクやさ!?」
「…わんはどっちでもいい」

確かに世代からいえばヒガレンジャーだけど、ハラウンジャーも別につまらなくはない。
うちは日曜といえど朝早くから起こされるので、興味ないけど一応ハラウンジャーも見てる。
(うちのチャンネル選択権は年が若いやつに託される)

「えー!?何で!?」
「ハラウンジャーは算数の勉強になるんばぁよ!」
「別にわん算数苦手じゃないし…」

尚も食い下がる弟達に若干嫌気が差しつつ適当に答えていると、二人は頬を膨らませた。

「もういい!慧君はアテにならん!」

凛はさっさとソファで新聞を読んでいた父ちゃんのところに走って行く。

人に無理矢理聞いておいてむかつく態度だ。



「父ちゃん!父ちゃんはハラウンジャーしちゅんやさー?」
「んー…?ああ、あれはでーじ面白いさぁ」
「ほら見ろゆうじろ!父ちゃんもハラウンジャーがいいんどー!」

勝ち誇った凛の声に裕次郎は不快そうに眉を顰めた。
そして台所で洗い物をしてるはずの母ちゃんのところへ走る。

無理矢理居間に連れてこられた母ちゃんはあからさまに不機嫌だ。

「…何、裕次郎クン。くだらないことだったらゴーヤ食わすよ」
「ゴーヤは今関係ないやし!母ちゃんはヒガレンジャーの方がしちゅんだろ!?」
「は?ヒガレンジャーって何でしたっけ」
「もーっ!昔慧君が見てたやつさぁ!金太郎の父ちゃんがブルーのやつ!」
「ああ、あれね。面白かったですね」

味方を見つけた裕次郎は満足げに笑って凛を見る。

「凛はハラウンジャーの方が面白いっていうさぁ」
「俺はあれ嫌いですよ、何か生々しくて」
「だーるなー」
「子供に見せる番組としてはヒガレンジャーくらいの勧善懲悪が必要ですよ。成長すれば嫌でも現実見るんだし」

っていうか母ちゃんの場合は単に白石蔵之介がポイントなんじゃないかと思ったけど、黙っておいた。



いつもなら母ちゃんが決めたことは絶対で、父ちゃんも「だーるなぁ」とか言いながら認めて、話はそこで終わる。

だけど今日に限っては違った。



「っていうか永四郎は単に白石蔵之介がお気に入りだからやっし…」

珍しく父ちゃんが反撃に出たのだ。

俺が思っても言わなかったことをあっさりと…
いつもは空気読める癖になんなんだ。

思った通り、そんな本当のことを指摘された母ちゃんはピクリと眉を吊り上げた。

「そういう知念クンこそ、ハラウンジャーのピンクの子、好みですよね」

そういえば今朝もハラウンジャーを見ながらピンク役の女を可愛いとか言ってた気がする。
父ちゃんも珍しくぴくっと眉を動かした。

「わんは別に女の子だけでハラウンジャーが面白いって言ってるわけじゃないどー」
「じゃあ何だって言うんです?」
「あれは結構話的にもシビアで現実味があって面白いだろ?」
「子供向けじゃないって言ってるんです。ああいう番組のニーズは大人じゃなくて子供でしょ?」
「よく言うさぁ。その子供向け番組の俳優のファンになって追っかけてたのはどこの誰やし」

凛と裕次郎そっちのけで夫婦間の空気が悪くなる。
喧嘩の原因を吹っかけた凛と裕次郎も少し居心地が悪そうだ。

「ヒガレンジャーは分かりやすくて面白かったですよ!」
「いっつも難解なもんばっか好きで見る癖に戦隊モノだけは別かやー?」
「ヒガブルーを最初に好きになったのは俺じゃなくて慧君ですからね!」
「けど最終的には永四郎の方がヒガブルー好きだったさぁ」

いきなりわんの名前が出されたのでびっくりした。
とばっちりを食う前に部屋を出よう…

…としたんだけど。

「慧君!慧君は当然ヒガブルーでしょ!?」
「いや、わんは正直どっちでも…」
「慧君!慧君だって頭はいいんだからハラウンジャーの面白さ分かるだろ!?」
「ほんとにどっちでも…」

部屋を出る前に両方の腕を父ちゃんと母ちゃんに引っ張られて、部屋を出ることは適わなかった。



…それから数十分が経過した。



「大体ね、ヒガレンジャーは沖縄戦隊ですよ!沖縄出身の癖に面白さが分からないって何事ですか!」
「敵がいっつもエイとかゴーヤとかでアホらしかったさー!」
「ハラウンジャーの敵は大抵悪徳高利貸しのヤクザじゃないですか!」
「子供のうちからああいう悪徳商法について学べていい機会さー!」



わったー子供達は居間のソファの前に三人並べて正座させられている。

わんの両脇には凛と裕次郎、テーブルを挟んで向かいには父ちゃんと母ちゃんが激しく意見を交わしている。

「…慧君、これ、わったーのせい…?」

裕次郎が恐る恐るわんに小声で尋ねる。

「そうやし。やったーがあんなこと言い出さなければこんなことにはならんかったんどー」
「くちはわざわいのもと…」

裕次郎の癖に難しい言葉を知っている。
凛は珍しく父ちゃんが大きい声で言い合っているからか完全に怯えている。半泣きだ。

「う…いつもの父ちゃんじゃない…」
「やーはネネちゃんか。泣いてもたぶん気付かんどー」

そのくらい激しく両者は言い争っていた。

「…でも父ちゃんがハラウンジャー派でよかったさぁ…」
「なんで」
「もしわんと対立しちゃったらどうしたらいいかわからんかったどー」
「………夫婦喧嘩自体は別にいいのか」

凛は気を取り直したのか目に浮かんだ涙を拭って、勢いよく父ちゃんに抱きついた。

「ぅおっ!?」
「父ちゃん!わんは絶対ハラウンジャーがしちゅん!」

前置きなくいきなり抱きつかれて少しバランスを崩した父ちゃんは、すぐに凛を抱えて笑顔を見せた。

「凛は物を分かってるさぁ。いいこやさぁ」

いつも通りの優しい笑顔で頭を撫でられて、凛は既に機嫌を直したようだ。

「母ちゃん!ゆうじろ!全面対決さぁ!ハラウンジャー派は負けないんどー!」
「凛クン…知念クンが味方についたからって随分強気ですね…俺に歯向かうのがどういうことかわかってるの…?」

母ちゃんに間近で凄まれて、一瞬凛は怯んだ。
でもすぐに父ちゃんの背中に隠れて強気を貫く。

「わん悪くないもん!父ちゃんが味方だから母ちゃんなんか怖くないんどー!」
「大丈夫さぁ、凛。わんが凛のことは守ってやるからな」

しっかりと抱き合って親子戦線を組まれた母ちゃんの眼鏡が光った。

「………裕次郎クン」
「はいっ」
「君はもちろん俺の味方ですよね?」
「………もちろんです!」

裕次郎は母ちゃんの気迫に気圧されながらも母ちゃんに抱きついた。
母ちゃんはそんな裕次郎の頭を満足げに撫でる。

「大丈夫ですよ、裕次郎クン。俺についている限り悪いようにはしませんから」

挑戦的に父ちゃんに向かって鼻で笑う母ちゃん。
父ちゃんもカチンときたのか思い切り裕次郎に睨みをきかせる。
(母ちゃんを睨まないあたりが父ちゃんだ)
父ちゃんは滅多に怒らないけど怒ると怖い。
元々目つきが鋭いから本気で睨むと裕次郎くらいのチビなら漏らしかねないくらい怖い。
案の定怯えた裕次郎はさっと母ちゃんの後ろに隠れた。

「…っでも!ヒガレンジャーの方がおもしろいもん!おもしろいもん!」



こうして我が家は分断された。



…そこから更に数十分。



「ヒガレンジャーの方が面白い!いいかげんりんもみとめろ!」
「ぜーったい!!!みとめない!ハラウンジャーのよさをわかれ!ばかゆうじろ!」
「大体今の戦隊モノはイケメンを使えばいいと思ってる節が腹立たしいんですよ!」
「やーも白石がイケメンやから好きになったんだろが!」

……………

喧嘩は更に白熱していた。



わんは「そろそろおやつの時間だなぁ」と他人事のように目の前の4人を眺める。
だけどこの喧嘩が終わらないことにはきっとおやつも食べられないんだろう。
ていうかわんはここにいる意味あるんだろうか…
絶対今4人共わんがここにおること忘れてるだろうし…

「慧クン」

今DSの電源入れても気付かれないかな。

「慧君!」

今ドラクエいいところだからさっさと進めたいんだよなー。

「「「「慧君!!!!!」」」」
「っ!」

目の前に4人の顔のどアップ。

色々余計なことを考えていたせいで4人の視線がわんに集まっていたことに全く気付かなかった。

「まったく、何度も呼んでるのに何ぼーっとしてるの」
「慧君大丈夫か?腹減ったか?」
「まぁ腹は減ったやしが…ぬー?」

とりあえず4人から少し離れる。
我に返った途端に家族のアップというのは心臓に悪い。どきどきする(悪い意味で)



「やっぱり4人じゃ埒が明かないんですよね」
「2:2で分かれてるから仕方ないんやしが」
「「ってことで」」

「「「「慧君はどっち派!?」」」」

「……………」



話すだけ埒が明かないことに気付いたのはいいことだ。
やしがわんに決定権を与えるとは。
とりあえず思ったのは、母ちゃんについておけば飯には困らないということだ。

でもそうなったらなったで父ちゃんの陰湿な視線を受けなければいけなくなる。
もしかしたら靴の中にサンピン茶をぶちまけられるかもしれない。
(父ちゃんはそういう子供っぽいところが時々、ある。しかも凛も一緒だし)

どちらに転んでもいいことはない。



「………わんは…」

「「「「慧君は!?」」」」



「…わんは、仮面ライダー派」



「「「「……………」」」」



部屋に満ちる沈黙。

それぞれがそれぞれの考えに耽っているようだ。
どうなるか分からないけど、とりあえず言ってみた一言だった。
実際にはそこまで興味はない。

だけど、このレンジャーで燃え滾る4人の脳には少なからず影響を与えられたようだ。



「…ライダーは…俺は最新のが好きですね」

最初に母ちゃんがぽつりと呟く。

「永四郎も?わんも」
「じゃあわんもあたらしいライダーがしちゅん!」
「りんがそうならわんもそれでいい。ライダーはあんま見やんけど」

そして父ちゃんが続けば、弟達もあっさりとライダーに鞍替えした。

「……………」

…良かったんやしが。

くだらないことで言い争ってこれ以上おやつが遅れなくて本当に良かったんやしが。



「…何か釈然としないさぁ…」



出来る限り小声で呟いたわんの声は、今度はライダー談義に華を咲かせるこの4人には聞こえなかったようだ。



 

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