「凛、裕次郎、知念先生、誕生日おめでとうございます」



今年は凛と裕次郎の誕生日の日に祝ってやれなかったので、少し遅れたが祝ってやることに決めたのは、先週。
ちょうどわんの誕生日もあったので、せっかくだからと纏めて祝うことになった。
何故かわんの誕生日が今日であることを知っていた跡部が「パーティを開催しましょう」って言い出した時はさすがに困ったが、
凛と裕次郎が嬉しそうだったので、有難く開催してもらうことにした。

「せっかくの知念先生の誕生日だというのに、規模が小さくて申し訳ないです」
「………いや、こんな広い家の庭使ってガーデンパーティなんて充分すぎるさぁ」

パーティをしようと決めた日曜日は梅雨の最中にも関わらず良い天気で、少し暑いくらいだった。

「跡部、しんけんにふぇーでーびる。凛と裕次郎も喜んでるさぁ」
「そんな…お礼なんて…知念先生に喜んでもらえるなら俺何だってします」
「有難いさぁ。こんな大規模で祝ってもらったのなんか人生初やっし」

凛と裕次郎は最初こそ広すぎる庭の隅っこで草をつつくくらいだったが、慣れてきたのか今は庭全体を縦横無尽に走り回っている。
一緒に来た永四郎はもう諦めているのか庭に点々と置かれた椅子に座ってシャンパングラスを傾けていた。



「…まぁ…邪魔者はいますけどね…」



跡部は不愉快そうに眉を寄せて、ちらりと庭にいる人々を見た。
跡部の視線に気付いた何人かがこちらに寄って来る。

「何や、若。わざわざ遠くからガンつけんな」
「煩い。わざわざ文句言うために遠くから来るな」
「まぁまぁ、今日くらいは喧嘩したらならんばぁよ」

仲がいいのか悪いのか、跡部と白石光は最近よく一緒にいる。

「ついうっかり楽しみすぎて知念先生の誕生日パーティのことを漏らしてしまうなんて…迂闊だった」
「何が迂闊や。色々触れまわっとった癖に」

二人は機嫌悪く喚きながらもテーブルの食事を二人で分け合って食べている。
恐らく見た目よりは険悪なわけではないんだろう。

随分、跡部も棘のない子になったなぁ。
白石も、最初は誰彼構わず威嚇する猫みたいだったあんに…

そう思うと微笑ましく、わんは未だ喚き続ける二人を少し苦笑しつつ眺めた。



「とうちゃーん!」
「とうちゃんこっちきてー!」

凛と裕次郎が向こうからわんを呼んでいる。

跡部と白石に軽く挨拶してからわんはそっちに向かった。
二人の周りには小さい子供達が群がっている。
恐らく今日、跡部が凛と裕次郎が喜ぶようにと呼んでくれた二人の友達なんだろう。
全てを手配してくれた跡部に感謝の気持ちが改めて沸き起こる。

丁寧に刈られた柔らかい芝の上に直接座り込んだ二人の周りには、綺麗に飾られた包みがいくつも積み上がっていた。

「リョーマとあかやときんたろと若ときんたろのにーちゃんがくれたんばぁよ!」
「プレゼントいっぱい!プレゼントいっぱい!」

嬉しそうに包みを抱えてきらきらした目で見上げてくる。
二人の頭を撫でると嬉しそうに上気した頬を綻ばせた。
こんな二人の顔を見れただけでも今日ここに来て良かったと思える。

ずっとテーブルを回って食べ物をいう食べ物を漁っていた慧君がいつの間にか傍にいた。
その両手には皿を抱えて、この上まだ食べるのかというような量の食べ物が載っている。

「こりゃ一年分の幸運を使い果たしてるさぁ…やったー残り半年は不幸しか待ち受けてないどー」

せっかくの誕生日パーティなのに水を差すようなことを言われた二人は勢いよく反論している。
足元でちょろちょろと動かれながら騒ぎ立てられて、慧君は面倒臭そうに二人を蹴飛ばした。

「かしまさい!あっち行け!」
「けーくんが意地悪言うからいけないんどー!」
「そうだそうだ!けいくん謝れ!」
「かしまさいって言ってるやし!オラッ!」

慧君は肩からかけていたバッグの中から四角い何かを二つ取り出して二人に向かって思い切り投げた。
そしてそれは見事二人の頭に当たった。

「いたッ!」
「…ぬーよ?これ…」

二人がその四角い箱を拾い上げる頃にはまた慧君は違うテーブルの食べ物のところにいた。

二人の手元を覗き込むと簡単に包装されただけのそれはどうやらプレゼントらしかった。
包装の上からマジックで雑な字で「たんじょうびおめでとう」と書かれている。
それを見た二人はさっきまで慧君に向かって怒鳴りつけていたことも忘れて顔を輝かせた。

「…とうちゃん!けいくんがプレゼントくれた!」
「これわんがほしかったゲームだ!」

いち早く包みを開けた裕次郎が嬉しそうに声を上げる。

「二人とも良かったさぁ。後で慧君にお礼言わなならんどー」
「「うん!」」

いつも邪険にしてるし顔を合わせればからかったりしてる癖に、弟達の誕生日プレゼントはきちんと用意してたのか…
慧君のそっけない態度はいつだって照れ隠しだ。
わんは相変わらずテーブルを転々として食べ物を貪っている慧君を見て笑った。



「なぁなぁ、他には何貰ったの?」
「開けてみてよ」

凛と裕次郎と仲のいい、リョーマ、と赤也、という子が二人を急かす。
二人は次々と包みを開けていった。
中身はそれぞれの人が選んでくれた二人の欲しかったものが沢山入っている。
二人はいちいち大騒ぎして喜びながら皆にお礼を言っていた。

ただでさえ二人して同じ誕生日で、性格も欲しいものも全然違う上二人分の出費が嵩むというのに、
こうして二人それぞれにプレゼントをくれる友達がたくさんいるというのは有難いことだ。
永四郎でさえ「二人でひとつでよくないですか」とか言ってるというのに。

「赤也がゲームくれた!」
「リョーマはわんに帽子くれたどー」
「金太郎の父ちゃんのDVDまじいらねー!」
「ていうか金太郎のにーちゃんのプレゼントも白石くらのすけのDVDやし!」
「ギャー!若がWiiくれたー!」
「ギャー!しかもソフトが10本入っとる!!!」

…跡部…やりすぎやっし…

この調子じゃしばらくはゲーム三昧の日々を送りそうだ。
永四郎の雷が落ちる日も増えるだろう。
(白石蔵之介のDVDで永四郎の機嫌は取るしかない)



「知念先生、今いいですか」

声がして振り返ると跡部がいた。
ちょっと頬を赤くして俯いている。

「ん?ぬー?」
「………これ…受け取って欲しいです」

差し出されたのは少し大きめの包み。
綺麗なすみれ色のリボンが掛けられている。

「え…これ、わんに?」
「はい。今日は本当は知念先生の誕生日だから…」

凛と裕次郎にあんなにいいものを貰ったというのにわんまで貰っていいんだろうか。
でも緊張したような顔をして包みを差し出す跡部からの贈り物を断るのも気が引ける。
わんは有難く受け取ることにした。

「にふぇーでーびる」
「…!知念先生…!」
「これ、中身なに?」
「浴衣です!知念先生に似合うと思って!」

浴衣…って結構高いんじゃないんばぁ?
自分で買ったことないから分からんやしが…
包みを見る限り結構高級そうだし。

「あの…良かったらそれ着て今年の夏祭り一緒に行ってくれませんか…!」

一世一代の大告白を言わんばかりの気迫で跡部は言った。

「別にわんは構わんやしが…しんけんこんないいもの貰っていいんばぁ?」
「いいものだなんてそんな!知念先生に似合うと思ったから買ったんです!受け取ってください!」
「それなら有難く頂くさぁ。…夏祭り楽しみやっし」
「…はい!俺も楽しみです!」

跡部はそれだけ言うと身を翻して庭の向こうに走って行ってしまった。

そうか…夏祭りに行きたかったのか…
跡部はおぼっちゃんだから夏祭りとかあんまり行ったことないんだろうな…
そんなに夏祭りが好きだとは知らなかった。

わんは貰った包みを丁寧にバッグに仕舞って、この辺の一番でかい祭りはいつだったかな、なんて考えた。



「おい、知念」
「あ…跡部さん…」

いきなり肩を掴まれて振り返れば跡部のお父さんだった(この人は少し苦手だ)

「お前今日誕生日らしいじゃねーの」
「はぁ…まぁ…」
「あのみすぼらしいガキ共と共同の誕生日パーティだって?」

みすぼらしいとは何事だ…とは思ったがとりあえず頷いた。
さすがに自分の職場の上司(と言っていいのかどうか)に歯向かうようなことはしない。
わんも汚い大人の一人なので、権威には弱い。

「そうか…それはめでたいな」

しかし跡部家の家長であるその人は尊大な態度を崩さず、でも思っていたよりずっと柔らかく微笑んだ。

「あのガキ共にも後で何か贈ろう」
「いや、そんな…若君にも充分すぎるプレゼントを頂いてますし…」
「アーン?俺様がしてやるっつってんだ、大人しく受け取っておけ」

意外だった。
わんのことを絶対嫌っているであろうこの人がまさかこんなことを言ってくれるとは。
そもそもわったーの誕生日のために庭を借りたんだ。
そんなことを認めてくれるなんてやっぱりこの人は心の広い人なんだろうか。



「とりあえずお前には何がいいかな…そうだ、俺様が歌ってやろうか」

彼に対する見識を改めようとした矢先のその台詞に少し反応に困った。
こんなに上から目線で「歌ってやる」という人間はジャイアン以外で初めて見た。

わんがリアクションに困っていると遠くから跡部が走ってきて思いっきり父親に飛び蹴りを入れた。



時間はそのまま楽しく過ぎ(結局跡部家家長は歌った)、陽も傾いてきたということでわったーは跡部家をお暇することにした。

この誕生日パーティを企画した跡部には何度も丁寧にお礼を忘れずに。
跡部はちょっと照れたように「別に凛と裕次郎のためじゃないからな」と言っていたが、
実際はこの二人のために開いてくれたことは明らかだった。
凛と裕次郎もそれを分かっているのか、何度も笑顔でお礼を言っていた。

「じゃーな、若!また明日な!」
「今度一緒にWiiやるさぁ。遊びに来たらいいあんに!」
「ああ、それじゃあな。また来いよ」
「わんの誕生日はゲームセンター丸ごと買ってくれ」
「慧はもう来るな」

永四郎が慧君の頭を軽く叩いて、わったーは跡部家のデカ過ぎる門を出た。

大量に貰ったプレゼントはほとんどわんが持ってたけど、凛と裕次郎もいくつか自分で持った。

「凛、大丈夫か?わんに貸せー。持つさぁ」
「やだ。わんのだもん」
「別にやーのプレゼント取ったりせんやし…」
「やだ」

自分に贈られたものだ。自分で持っていたい気持ちも分からないでもない。
裕次郎は早速貰ったばかりのラジコンを操作しつつ帰路を進んだ。
きっとすぐ壊すんだろうなぁ…と思っていたらコントロールしてる張本人が電柱にぶつかった。

「凛クン、裕次郎クン、今年は誕生日祝い遅れちゃってごめんね」

永四郎が珍しく謝る。

「何で?別にいいやさ」
「うん。おかげで若の家で皆とお祝い出来たし」
「おうちで祝ってもらえるのも好きやしが」
「たまにはこういうのもアリあんに!」

二人は顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
永四郎とわんはそれぞれ二人の頭を撫でた。

慧君は結局跡部家のテーブルに並んでいた食事をタッパーに詰めて持ち帰ってきたらしく大荷物だ。

「これで帰ったらもっかいパーティできるさぁ。今度は父ちゃんの誕生日な!」

いくつものタッパーの入った紙袋を掲げて得意げに言う慧君に永四郎は少し呆れた顔をする。

「全く、人んちのもの貰ってくるなんて…何でそんな意地汚いんですか…」
「まぁまぁ…跡部もいいって言ってたんだし…有難く頂けばいいさぁ」

今はとにかく家に帰って、今度はわったーからのプレゼントを二人に渡そう。
きっと喜んでくれるであろう顔を想像すると今からワクワクする。



「…凛クン、裕次郎クン、俺達の子に生まれてくれてありがとうね」

「…何…母ちゃん、めずらしい…」
「優しい母ちゃんなんてきもいどー…」

珍しく永四郎が二人に向けて優しく笑顔を向けたというのにこの言い草。
永四郎は躊躇いなく二人の頭に拳を落とした。

「とうちゃぁん…」
「ぶたれたぁぁ…」
「今回のは二人が悪いさぁ。ちゃんと謝りなさい」
「うー…」
「むー…」

拳を落とされた頭をさすりながら二人は永四郎の服の裾を掴んで「わっさいびん」と小さく言った。



「………知念クンも」

子供達三人がラジコンに意識を取られてわったーから少し離れた時、永四郎が呟いた。
正面を向いたまま小さい声だったから空耳かと思ったが、その手がわんの手を掴んだから空耳じゃないって分かった。

「誕生日おめでとう」
「…にふぇーでーびる」
「知念クン、でーじしちゅんよ」
「わんもしちゅんやっさー」

子供達が向こうを向いているのをいいことに、わんは永四郎の綺麗な髪の毛に口付けた。



 

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