「雅治、比呂士、何やってんの?」

蓮二の部屋のドアにぴったり張り付いている双子に俺は首を傾げた。

「シッ、親父さん、少し黙っててくんしゃい」
「あああああ蓮二兄さん蓮二兄さんんんんん」
「比呂士、お前さんもうるさいぜよ」

珍しく眉を寄せて真剣な顔をする雅治に、ハンカチを噛む比呂士。
心なしか比呂士の眼鏡の奥の目は涙に滲んでいるようだった。
雅治はともかく比呂士がこうなるのは珍しくないが、いつ見ても気色悪い。

「……………」

大体想像はついた。

ついさっき我が家の敷居を跨いだ貞治君と蓮二が部屋にこもってしまったから、気になるんだろう。
かくいう俺も気になってわざわざ2階に上がってきたんだし。
この二人がいなければ俺も同じように部屋の様子を伺っていたに違いない。
ただで可愛い息子をやる気はないのだ。

「とりあえず二人共、俺も混ぜてくれない?」

俺は廊下にしゃがみこむ二人を掻き分けるようにして真ん中に陣取った。

「で、今どんな感じなの」

これまでの経過を聞きたくて雅治の方を向く。
(ハンカチに唾液が染み込むほど噛み締めてる比呂士には聞いてもまともな返答は期待できなかったから)

「ああ…ちょっとまずい雰囲気ぜよ」

相変わらず雅治の眉間には皺が寄っている。
まるで弦一郎だ。
同じ表情をしても雅治には弦一郎の1割分の可愛さも出ていないんだから不思議なものだ。



それはそうと聞き捨てならない言葉だ。
俺も黙ってドアに顔を近づけた。
幸い覗き見は出来ないが声はしっかり聞こえた。



『…貞治、怖い』
『何言ってるの。痛いのなんて一瞬だよ』
『でも、後々まで痛むだろう?』
『すぐ慣れるよ、心配ない』

話の内容を聞いた俺は雅治と同じように眉間に皺を寄せた。

「…何コレ。何の話してんの?」
「な?怪しい雰囲気じゃろ?」
「あああああれんじにいさ「うるさい黙ってろ」

大声を出しかねない比呂士の口にハンカチを詰め込んだ。

『やっぱり痛いのは嫌かい?』
『痛いのが好きな奴がいるのか?』
『ふふ…それはそうだ』

「…何笑ってんだあの眼鏡、人の息子傷物にしようとしてる癖して」

思わず低音で呟いたら隣の比呂士がびくっと震え上がった。

『大丈夫、もう痛覚もないくらいになっただろ?』
『散々慣らされたからな…』

「「んなッ…」」

既に前戯終了かよ!畜生もっと早く上がってくれば良かった!

「雅治!」
「いやいやいや、俺も聞いとらん!」

聞きたかったな…散々慣らされて喘ぐ蓮二の声…

『そんなの、入るわけない…』
『そりゃあね。本来入れるような場所じゃないんだから』
『…貞治、やっぱり日を改めないか…?』
『何を今更…今日するってずっと決めてただろ?』



蓮二の気弱な声なんて、俺達家族なら絶対に聞けないようなものだ。
声が聞けるのみならず表情まで見れているなんて…!
あの眼鏡のしていることは万死に値する。

「親父さん、頼む…もう駄目じゃ…これ以上進む前に黒魔術を発動してくれ…」

こちらも珍しく泣きそうな、情けない顔をした雅治が俺の肩に顔を埋めた。
比呂士の方を見ると刺激が強すぎたのか廊下に仰向けに倒れていた。

「親父さん…」
「…いや、駄目だ。もう少し様子を…そうだな、奴がいざ入れたら…」
「そんなこと言って親父さん蓮兄の喘ぎ声聞きたいだけじゃろが!」
「そうだよ!悪い!?雅治は聞きたくないの!?」
「……………」

雅治の無言は肯定とみなして、俺達は再びドアに張り付いた。



『…血、とか…出るんだろうか…』
『もしかしたら少し出るかもしれない』
『……………』
『大丈夫、血が出たりしても俺がちゃんと手当てしてあげるから』

「……………」
「………親父さん、黒いの出ちょる」

人の息子に血ィ流させようとしてる癖に飄々とした声の眼鏡に、不覚にもブラックオーラが出てしまっていたようだ。
いけないいけない☆もう少し我慢しなくちゃ。

『じゃあ、入れるよ』

「「!!!」」

怒りというよりも期待でワクワクした俺達は思わず身を乗り出した。
乗り出したところで見えるわけではないというのに。

『ん…』
『………蓮二、そんなに硬くならないで。俺がいじめてるみたいじゃないか』
『あ、ああ…すまない…ッ!うッ…!』
『「うッ!!!」』

「……………」

『…さ、だはる…?貞治!?どうした!?』

聞こえてくる蓮二の声の調子が変わった。慌てているような…
不思議に思って雅治を見てみると、何故か雅治も倒れていた。
…そういえばさっき貞治君の声と同時に雅治の呻き声も聞こえたような…?

『さ、貞治…大変だ、貞治が…!と、父さん…!父さん!!』



バン!と勢いよく蓮二の部屋のドアが開いて、ゴッと鈍い音を立てて倒れている雅治の頭にドアの角が当たった。
(俺は咄嗟に飛びのいたから事なきを得た)

「…父さん…?」
「…やぁ蓮二」

ドアを開けた時は確かにいつもより焦った様子だった蓮二の表情が、みるみる落ち着いた。

「なるほど、そういうことか…父さん、発動したな?」
「え?黒魔術?嘘ー、俺何もやってないよ」
「ごまかすな。比呂士と雅治まで倒れているだろう」
「…あれ?何でだろ…」

自分では本当に黒魔術を使った意識はなかったから、蓮二の言葉に驚いた。
でも蓮二に限って適当に物を言ったりはしないから、本当に黒魔術なんだろうけど。

「冷静に考えれば父さんが黒魔術を発動した時と症状が同じだ」

蓮二が呆れたように溜め息をついた。
落ち着いて今度は怒りが増してきたのか、段々表情が固くなってきている。
これは…実にヤバイ傾向だ。

「蓮二…?」
「大方この二人と一緒にデバガメをしていてよからぬ想像でもしたんだろう。それで自意識とは無関係に暴走した。違うか?」

…そういえば蓮二の呻く声を聞いた時、一瞬頭が真っ白になったような…

「んー…そうかもしれない☆」
「そうか………とりあえず早く貞治を治せ!医者だろう!」
「え〜…先に自分の息子達を診るよ」
「そいつらは自業自得だ!後回しでいい!早くしろ!」

今にも開眼しそうな剣幕だったので、とりあえず言うことを聞いておくことにした。
蓮二が怒ると粘着質だし、本当に怖いんだよね。



「ふぅ…何が起きたかと思ったよ。意識がない間ずっと黒い何かに追われてる夢を見ててね」

30分後目が覚めた貞治君は、落ち着きを取り戻してからそんなことを言って笑った。

俺の黒魔術にかかってこんなに冷静でいられるなんて…やるな!
さすが蓮二が見込んだ男だけはある。
もちろんだからって許してあげる気はないけど。

「貞治…本当に何ともないか?大丈夫?すまない、うちの父が…」
「いやいや、気にすることないよ。俺はおばあちゃんで慣れてるからね」

居間のソファにこんなデカイ男を運ぶのは、病弱な俺にとっては本当に一苦労だった。
しかも蓮二は手伝ってくれないし。
痛む肩を揉んでいると、蓮二が恨みがましい視線を俺に送っているのが分かった。

「…あーごめんね、貞治君。これは事故なんだよ。俺本当にそんな気なかったからさぁ」
「いえ、大丈夫です、お父さん」

「お父さん」というフレーズにまた腹が立って発動しそうになったけど、蓮二の黒いオーラを感じて何とか留めた。

「でもねー貞治君も悪いんだよ?ウチで蓮二によからぬことを働こうとするから…」
「…?よからぬこと?とは…何のことでしょうか」

ほう…あくまでシラを切るつもりか…
いい根性してるじゃないか。

思わず睨みをきかせると、さすがの貞治君も少し怯んだようだった。

「…俺達の会話が紛らわしかったのは認めるがな…」

溜め息をついた蓮二が髪を掻きあげる。



「…ピアス…?」

蓮二の左耳には小さな銀色の金属が輝いていた。



貞治君を見ると、彼の耳にも同じ銀色が輝いている。

「どうしてもデザインが気に入ったからつけたかったんだ」
「二つ開けるのは嫌だって蓮二が言うから、勿体ないから俺が片方貰ったんです」



俺はその場に脱力した。



「大体俺がこの家でそんなことするわけないだろう、絶対デバガメされるの分かってるのに」

もっともな意見だ。



「…はは…ピアス、か…よくある話じゃないか………」



しばらくして、貞治君は何事もなかったように帰って行った。
蓮二ももう怒ってはいないようだったけど、一応もう二度とデバガメはするなと釘を刺された。
いくら刺したところで糠に釘だということを蓮二なら分からないはずはないのに。



「ちょ!父さん!蓮二兄さん!2階の廊下に…!」
「雅兄と比呂兄が倒れてるんだけど!何事だよぃ!?」

「「…あ。忘れてた」」



買い物から帰ってきたブン太と赤也に言われるまで、俺も蓮二も双子のことは思い出しもしなかった。



 

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