「では全員、グラスを持て」



「「「「「「「「長太郎、お誕生日おめでとう!」」」」」」」」



高い天井に、グラスのぶつかりあう気持ちいい音が響いた。

今日は俺の12歳の誕生日だ。
毎年恒例の我が家での誕生日パーティには、クラスの友達も何人か呼んでいる。

「跡部んちが金持ちだってことは知ってたけど、本当にすげーな!」
「うんうん、俺この家ずっと博物館か何かだと思ってた」

口々に家の感想を口にする友達。
最初にうちに来た人は大体口にすることは同じだ。
今日は我が家では一番広い部屋を使っている。
料理はシェフが出向いてくれて、部屋の隅で調理してビュッフェ形式を取っている。

「これでも随分地味なパーティにしたつもりなんだけどなぁ…」

俺ももう小学6年生だし、誕生日くらいでこんな大袈裟なことして欲しくないっていうか。
でもさすがにパーティを拒否するのは、毎年子供達のパーティを楽しみにしてる両親に悪いから出来ない。

「これで地味って、お前…」
「生まれながらに勝ち組には何言ったって無駄だぜ…」
「大体何だよあのケーキ、ウエディングケーキかよ」
「やめろ、言えば言うだけ空しくなる」

文句を言いながらも結局食べ物は着々と胃に収めていく友達は無視する。



『ガキ共!今日は俺様の息子、長太郎の誕生日パーティによく来たな!存分に俺様の息子の誕生を祝っていけ!』

拵えられたステージに上がってマイクで喋るラベンダー色の派手なスーツを着こなした父さんは上機嫌だ。
俺の誕生日なのにあの人の方が目立ってる気がするが、気にし始めたら負けだ。
いつだって一番目立ってないと気が済まない人だってことは俺も充分分かっている。

『ちなみに今日のパーティは長太郎がささやかにやりたいという希望だったからな。料理もオーケストラも小規模で申し訳ない』

一般的な感覚からズレているとはいえ、確かに今日は地味なほうなのだ。
父さんは一応、俺の希望を叶えてくれている。息子思いの人ではあるんだ。

『でもこれじゃあまりに来てくれたガキ共に申し訳ないからな、今日は特別な趣向を用意した。存分に楽しんでくれ!』



「…嫌な予感がする」



いつの間に来たのか、近くにいた若が呟いた。



『ではしかと聞け…俺様の美技に…酔いな…!』

シャラーン…☆



部屋の照明が一気に落とされ、音楽が鳴り始めた。
ステージに色とりどりのライトが向けられる。

『サーブ・レシーブ♪ボレーにスマッシュ♪磨かれた技ーはうつくし〜い♪』

「「「「「「「「……………」」」」」」」」



歌いやがった。

…あの人は息子に恥をかかせるのが趣味なのかもしれない。

「…救いようのない馬鹿がいやがる…」

若は小声で呟いて、生意気にお子様シャンパンを飲みながらステージを見ていた。
俺はといえばいたたまれなくなりステージに背を向ける。
ステージの後ろでは母さんが照明係をやっていた。あの人は父さんが絡めば何だって出来る。

少し遠くでは亮さんとジロー兄さんが料理を食べてる。

…昨日から何故かあの2人はずっと一緒にいる。
いつもなら夜は俺の部屋で一緒にゲームしたりしてるのに、昨日は来なかった。
ほら、今も目が合ったのにすぐ逸らされた。
俺、何かしちゃったのかな…

せっかく盛大に祝ってもらってるのに、気持ちがどんどん沈んでく。
他の誰に祝ってもらわなくてもいいから亮さんに一番におめでとうって言って欲しかった。



シャララーン…☆

『どうだ、ガキ共…俺様に魅了されて声も出ねーか?』

歌い終わった父さんが自慢げにステージの下で呆然とする客達に向かって微笑んだ。
黙って笑ってればそれはそれは美形なのに、性格がアホだから台無しだ。
さっきまで俺の家を羨んでいた友達が「俺この家の子じゃなくて良かった」と言ってるのが聞こえた。

「…俺があの人の会社を継いだら俺もあんなことしなきゃいけないのかな…」

若が不安げに呟いた。



ケーキや料理を食べて、友達からのプレゼントを受け取って、父さんが歌って、
(父さんのリサイタルはキレた若がステージに乱入して古武術で父さんをボコボコにするまで続いた)
それなりに楽しんでくれたらしい友達は、夕方くらいに帰って行った。
部屋の片付けは使用人達に任せて、俺達家族はリビングに集まった。
毎年家族からのプレゼントは夜にリビングで渡すのが恒例になっている。

パーティの最中も、終わってからも、亮さんは一度も話しかけに来てくれなかった。



「今年のパーティはなかなかの盛り上がりだったじゃねーの」

リビングのソファで母さんに注いでもらったワインを飲みながら、父さんは上機嫌だ。

「盛り上がってたのはアンタだけでしょう、あんな歌聴かされてこっちは最悪ですよ、恥ずかしい」
「何が恥ずかしいんだ!俺様の歌を生で聴ける機会なんてそうねーぜ!?」
「恥ずかしいです。長太郎兄さんと俺は学校の敷地が同じなんですからね」
「それが何だよ」
「跡部の家の親父は変だなんて噂が立ってるに違いない…ああ…月曜学校行きたくない…休む…」

若はすっかりいじけてソファの上で体育座りになってしまった。



「それはともかく!今度は俺らから長太郎にプレゼントの時間やで!」

パーティの時にはいなかったおじいちゃんとおばあちゃんもリビングにやってきた。
手にはプレゼントらしき包み。気付けば皆何かを持っている。

「ほら長太郎!おじいちゃんからはコレやで」
「ありがとうございます、おじいちゃん」

おじいちゃんから渡された大きい割には軽い包み紙を開けてみたら、中は抱き枕だった。
抱き枕は少し欲しかったから嬉しい。
素直にお礼を言って、白の無地の抱き枕を引っくり返すと、裏にはアニメキャラが描かれていた。
ジローさんにあげようと思った。

「俺からはこれだぜ!開けてみそ」

おばあちゃんから貰った小さい包みを開けたら、中は羽根を象ったシルバーのネックレスだった。

「これ俺が作ったんだぜ!」
「ありがとうございます」

絶対つけないけど気持ちは嬉しい。部屋に飾ろうと思った。

「俺様からはコレだ」

父さんが渡してきたのは大きめの茶封筒…何だろう?
中を開けたら書類のようで、難しいことばかり書かれていてよく分からない。

「お前の通学路の通り沿いにあるファミレスの権利書だ」
「………」
「前に友達と行って楽しかったって言ってただろう。だから買い取ってやったぞ」

「いーなー長太郎!マジマジうらやまCー!」
「アーン?お前は誕生日に駅前の漫画喫茶買ってやったろ?昼寝用に」
「駅前遠いC。俺も通学路沿いが良かった!」
「長太郎、その店ならいつ行っても代金は気にする必要ねーからな、お前のものだ」

「…ありがとう…ございます…」

店舗を貰ったのはさすがに初めてだったので驚いた。
息子の為に一体いくら費やしたのか気になったけど、敢えて聞くのはやめた。
この人にとっては端した金だろうけど気持ちは嬉しかった。

「誕生日…おめでとうございます…」
「母さん、ありがとうございます」

キッチンに立った母さんが持ってきたプレゼントは、本物のししゃも料理だった。
温かいうちに一口食べたら、いつも通り最高に美味しかった。

「まぁ、俺の趣味で選びましたから面白いか分かりませんけど」

可愛げのないことを言いながら若は小さくおめでとうございます、と言いながら包みを渡してくれた。
中身は部屋をプラネタリウムに出来る機械だった。
母さんに次いでやっとプレゼントらしいものを貰った気がした。

「ありがとう、若」
「UFOが出たら教えてください」

子供らしいことを言う若は珍しく可愛かった。



「俺からはこれだ。あの、よ…誕生日おめでと、な」
「亮さん…」

今日初めて亮さんが話しかけてくれて、俺は不覚にも涙が出そうになる。

「ありがとうございます!」

喜んでプレゼントを受け取って中身を見ると、それは俺の好きな色のセーターだった。

「実用的なモンがいいかと思ってよ…気に入らなかったら着なくていいぜ」
「いえ!亮さんが選んでくれたものを気に入らないわけありません!!」

思わず大きな声が出てしまった。

どうしよう、嬉しい。
毎年のことだけど、亮さんから貰うプレゼントは特別だ。

「喜んでもらえたならいいけどよ」

照れたように笑う亮さんを見て俺も笑う。
良かった、俺が何かしちゃったかと思ったけど、怒ってるわけじゃないみたいだ。



「へっへっへっへっへ…」

ジローさんがそれはそれは嬉しそうに笑ってる。
そういえばまだジローさんからのプレゼントを貰ってなかった。
亮さんからのプレゼントが嬉しすぎて忘れてたよ…
まぁ毎年ロクなものくれないからあんまり期待はしてないけど。

「今年のプレゼントは長太郎、絶対喜ぶこと間違いなC!」

…期待してない…けど、今年はいやに自信ありげだ。

「じゃーん!!」

ジローさんが取り出したのは、細長い紙切れ。

「ジロー、何だよその紙?」

おばあちゃんが聞いてもジローさんはニコニコするだけで言ってくれない。
俺に早く受け取れ、と紙を押し付けてくる。
不審に思いながらもしぶしぶ受け取ってその紙を見ると、



「……………!」



一気にテンションの上がった俺。
それを見てジローさんも満足そうだ。

そこに書かれてたのは 

亮ちゃんにマッサージしてもらえる券
亮ちゃんと一緒にお風呂券
亮ちゃんと一日デート券
亮ちゃんと一緒に寝れる券

極めつけは亮ちゃんにほっぺにチュー券。

そう書かれた紙が2枚づつ連なっていた―――



「長太郎の好きなもの考えてコレにしたんだよ!気に入った?」

ニコニコ聞いてくるジローさんに、俺は満面の笑みで何度も頷いた。
当の亮さんはこのことを知ってるのか、気まずそうに目を逸らしている。
…そっか、このこと知ってたから昨日からジローさんと一緒にいたんですね…
恥ずかしかったから俺と話してくれなかったんですね…

長太郎、人生で一番嬉しい誕生日プレゼントです!

「ジローさん、皆、ありがとうございます!!!!!」



皆に笑顔でもう一度誕生日おめでとうって言ってもらって、俺は最高の気分でありがとうって言った。



明日は亮さんに貰ったセーター着て、一日デート券を使わせてもらおう。
父さんに貰ったファミレスに行くのもいいかもしれない。






長太郎の部屋は今、若に貰ったプラネタリウムの機械で神秘的に彩られている。

「コレ、結構いーじゃん」
「ロマンチックですよね」

リビングで皆で談笑した後解散して、2人は長太郎の部屋でまったりお茶を飲んでいた。



「亮さん、あの、これ…」

長太郎は自分の机の上から小さな箱を亮に手渡す。

「何だ?これ」
「チョコレートです」
「は?」

亮はチョコの箱を持ったまま小首を傾げた。

「やだなぁ亮さん、今日はバレンタインですよ」

「あ…」

「今年は逆チョコとかゆーのが流行ってるんだそうです。男から贈るんだって」
「…それ、たぶん男から女にって意味だと思うぞ」
「いいんです!バレンタインは好きな人にチョコを渡す日なんですから」
「……………」

部屋は薄青く、暗かったので長太郎には分からなかったが、その言葉は亮の頬を染めた。

小さく呟いたお礼の言葉は長太郎に届いたかどうか。
でも、長太郎は満足げに微笑んでいる。



長太郎は部屋に散らばった白い星達を見上げた。



「…あ、UFO?」



 

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